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14/2/17

第4話(前編)アフリカへ行く彼から学んだ"生きる"こと【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】

Image by Olia Gozha



その日は朝からなんだか変な日だった。



まずその日の始まりは何となく立ち寄った新宿の電気屋さんからだった。



その時は七月の終わり。東京の街はコンクリートからの照り返しでとても蒸し暑く、あまりの暑さから逃げるようにして近くの電気屋さんに入った。




店内はクーラーがきいていて、とても涼しい。暑かった身体も10分も経てばすぐ冷えてしまうくらい。だから汗がひいたらすぐに帰るつもりのはずだった。



パソコン買わない?!やたら元気な宮川大輔。



しかし、なぜかパソコン売り場のひょうきんなお兄さんにしつこく営業をかけられてしまったのだ。

しかも宮川大輔にそっくり。



maho「いやぁ、パソコンは本当に欲しいよ。。授業でも使うけんいつかは買いたいけど....でも12万は高いよ~!学生は買えないよ~。」

宮川大輔「いやいやいや!お姉さん!今買わなかったら絶対買わないでしょ!」

maho「・・・・・・(そう言われても)」

宮川大輔「オッケー!分かった!これは何かの縁だ!僕の持ってる権限を全て使ってあげよう!」

maho「え?????」

宮川大輔「このパソコンをなんと5万円にしてあげるよ!」

maho「!!!!!!」

宮川大輔「しかも僕のアフターサポート付きだよ!」

maho「!!??」


最後のは丁寧にお断りして、人生で初めてその場でパソコンを衝動買いしてしまったのだ

たまたま涼みに入っただけの電気屋さんで。

箱の隅からはお兄さんのアドレスが書いた紙もちらついているけど。




自分でも少しわけの分からないまま、買うはずもなかったパソコンを片手にお店を出ると、今日は自転車で来ていたことを思い出した。




どうやって帰ろう。というか、買ってしまった.....。




色々な不安を残したまま、結局パソコンを手に持ち、よたよたと恵比寿まで自転車を漕ぐことになった。




人生の角度を大きく変えた出会い。


当時は専門学校の近くの恵比寿のボロアパートを借りていた。

パソコンを抱えながらの真夏の自転車走行は大分きつい。

新宿から恵比寿はなかなか距離もある。段々手もしびれてきた。



後五分で家に着くというところの恵比寿の交差点で、とうとう自転車ごとこけてしまった。




と、その時、通行人が痛い目で見ながら横切って行く中、後ろから声がした。



「大丈夫ですかー?」


声は若い男性の声だった。


恥ずかしくなって、後ろも振り向かずに


maho「大丈夫です。」


とだけ言ってまた自転車に手をかける。


するとまたバランスを崩してこけてしまった。


「ほら!全然大丈夫じゃないやないですかー!持ちますって!」


「家近いんならそこまで運びますよー」


顔をあげるとタンクトップに真っ黒に日焼けした2人の男の子が立っていた。

駆け寄って自転車を起こしてくれたのだ。




____ あ。




この時、本当にうまく言えないけど、私は生まれて初めての不思議な感覚になっていた。




____ やっと会えた。




2人をみたときの最初に出てきた言葉が、これだった。



しかもよくある勘違いの程度ではなく、今でもあれは何だったんだろう?

って思うぐらい印象的で鮮明な感覚。その感覚は後にも先にもこの出会いだけだった。



今初めて会ったのに、とても懐かしくてたまらなかったのだ。

まるでよく知っている遠くにいた大好きな友人に、ようやく会えた、という感じのワクワクした気分だった。




そう感じたのは私だけだったのか、みんなもそうだったのか、それはよく分からないけれど、3人とも出会えた事にとてもテンションが高かった。




結局パソコンを運んでもらうことになり、家に着く五分もかからない道をみんなでワイワイ話しながら歩いた。



生き方の広さ



男の子2人は、由紀夫とけんちゃんといった。

3人とも年が近く、同じ九州出身ということもあり話はとても盛り上がった。



彼ら2人の出会いも面白く、2人はタイで出会っていた






タイでの一人旅で偶然出会い、2週間程一緒に暮らし旅をして、またいつか日本で会おう!と約束した再会の日が、今日だったのだ。






そして2人の生き方は、その時の私にはあまりにも新しかった。



まず由紀夫はバレエダンサーで、来月からカンパニーに入ってプロで活躍することが決まっていた。12歳の時初めて船で世界一周をして、それからヨーロッパや東南アジアなどダンスをしたり放浪したり、海外にふらっと旅に出ていた。



けんちゃんは日本や海外のボランティアをして回っていた。スイスで農業をしてみたり、カンボジアでボランティアに参加したり、もうすぐアフリカへの短期ボランティアも決まっていた。




そしてそんなバックグラウンドを聞くより先に、2人とも大きなスマイルが最高に素敵だった。



2人の持つ空気は、ゆっくりしていて、でもとても広く、そしてとんでもなく自由でピースフルだった。




「世界が平和になる生き方をしたいんよな。仕事は生き方やけんさ。」




私の視界が急に大きく広がった気がした。



え?何それ。そうゆう考え方、大人になってもしていいの?


そうゆう生き方ができるの?


仕事が生き方って...なんだろう。 



胸は熱く、足もとがグラグラしていた。




自分の生き方



その時の私はといえば、自分の道に迷いまくっていた。

だけどその気持ちさえ認められずにいた。

自分の持ってる小さな肩書きが全てだった。




この2人はなんでこんなに自由なんだろう....?

特別なキャリアも経歴も何も持っていないのに....?




その時の私の中では海外に行くなんて選択もなかった。目標もなく旅をするなんてよく分からなかった。



自分の頭の中には大きな道があっていつもゴールは前にあった。

道からそれるのは恐ろしいことだし止まってしまうとどんどんゴールは行ってしまう。急がないと。


でも、いつになったらたどりつくんだろう。



新しい扉



家まで着いて、また近いうちに会うことを約束すると、友達と会うからと2人は帰って行った。



ドア越しによく焼けた2人の背中を見送りながら、自分の身体中にすごい速さで血が巡っていくのが分かった。胸が熱くなってお腹の底からワクワクしていた。


今日一日の不思議な出来事が高速で回転していった。




足もとには新品のパソコンが一台転がっている。




頭ではよく分からないけど、何かが大きく大きく変わろうとしていた。




何か新しい扉が開いたような気がした。


__________________

このストーリーは2015年に書籍化となり、
2019年にベストセラーとなりました。

『あーす・じぷしー はじまりの物語』
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彼女たちは『あーす・じぷしー』という名前で活動中!




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