その生徒の印象。
やや小太り。
でも髪はなかなかいかしてる。
悪い感じは無い。むしろおっとりした印象だ。
一見すると、新聞配達の好青年。そんなところだ。
僕はあえて間をためてこう尋ねる。
僕:「。。。なんで呼ばれたかわかってるよね。。」
生徒:「え、よくわかんないです。なんでですか?」
あ、そっち!?そっちいっちゃうの?
そっかー、そっちいっちゃったかー。
じゃあ、こっちもやり方変えちゃいまーす。
僕:「いや、見たんだよ。机の中に携帯が入っているのをさ。 」
生徒:「。。。え、そうですか。。。」
僕:「うん、そうですかじゃなくって、
そのこと自体が不正行為と思われるんだよ。」
最後の論は微妙だ。明確ではない。
大人のせこいハッタリだ。
でも、あくまでクールに。
ことばからできるだけ感情を削ぎ落して。
生徒:「いや、入っていたことは悪いですけど、電源は入れてないですよ」
僕:「あのー、見たんだよ。。。電源を入れて動かしているところをさ」
これは事実だが、
戦略としてはパッとしない。
証拠不十分の自白誘導。
サスペンスだと一番面白くないパターンだ。
だが、僕はもうこれでいくことにした。
僕:「試験監督という立場の人間が証言しているから、
そのこと自体が証拠になるのさ、不正行為のね。
もう一度聞くけど、やったの?」
生徒:「・・・・・・」
僕はトーンを落とし、怒気を強め、口調も変える。
僕:「あのー、お前が目先の利益だけを見ているのが問題なんだろ。これはお前だけの問題じゃないんだよ。お前がその行為をすることは、周りを侮辱することにもなるんだよ。何故だかわかるか。フェアじゃないからだよ。一生懸命やっている人の労力も水の泡になるんだよ。たしかに絶対評価だ。たかが数字だ。けど、その数字に安易にいくようになってほしくないんだよ。頭悪くてもいいんだよ、バカでもいいんだよ。一生懸命にやれよ。」
ドキッとする。
実はこれは自分に言っているのではないか、
そんな疑問が出るが、
まー、とりあえず置いておこう、
まずはこっちを続けなければならない。
生徒は黙っている。
僕はスイッチが入ってしまった。
僕:「いいかげんにしろよ、コラ、お前の何が問題かわかってんのか。正直に言わねーことだろ。ここにお前だけ呼んだのは、他の連中に知られないようにするためじゃねえのか。お前のプライドとか勇気とか大事にしているものを、ただ知りたいだけだろ。こっちだって腹割って話してるんだ。お前の心意気見せるのが筋だろ。」
生徒涙目。
僕:「あ、ごめーん!、ごめーん!本当はそんなつもりないのー。ビジネス!仕事!お・し・ご・と。それだけなんですー」
とは言えない。でも本心。
生徒:「・・・すいませんでした。。。本当すいませんでした。。。」
生徒嗚咽。職員室で泣きじゃくる。
通り過ぎる生徒驚く。
他の教師もなぜ泣いているのか、わからない、
あ、でもなんかあったのねー、くらいだ。
こんなの日常茶飯事だ。
僕:「・・・もういいって。」
と一言言って、
肩をポンとたたき、その場をさる。
決めすぎか、自分。
酔いすぎか、自分。
確かに一時期、
僕は任侠映画に狂っていた。
そこでのことばのやり取りに夢中だった。
飼っていたインコの名前も、
高倉健の「健」の字と、
菅原文太の「太」の字をとって、
チッチ
にしたのも事実だ。
でもこういう疑問も沸きおこる。
僕は本当に生徒のためを思っていったのか、と。