【前回まで】
アムステルダムで、見知らぬおじいさんに、晩ご飯に誘われた。
「学校の先生だった」というおじいさんの言葉を信じ、ついていくことにした。
おじいさんの家へ。
全然乗り方の分からないトラムに、おじいさんの見よう見まねで乗る。
チケットはおじいさんが買ってくれた。
トラムから見る郊外のアムステルダムは、どこまで行っても同じように見えた。
オレンジ色のレンガ造りの2,3階程度の高さの建物が、どこまでも。
店や広告だけが場所ごとに違い、よく目についた。
中心部から30分ほど。おじいさんとともにトラムを降りる。
晩ご飯の前に、一旦おじいさんの家へ。
レンガ造りの2階建てで、長屋のようになっていた。
1Fには別の人が住んでいるようだった。
2Fのおじいさんの家におじゃまする。
8畳ほどのリビングのソファーに案内された。
テレビと、ガラスのテーブルと、壁じゅうに立ち並ぶ本棚。
1LDK、だろうか。
決して広くはなかったが、1人で暮らすには十分な大きさに見えた。
ふと、本棚に置かれた写真立てに映る、壮年の男性の姿が目に入った。
どうやら、このおじいさんではない。
奥さんや子どもはいないのだろうか。
なんとなくおじいさんに訊いてみた。
「おじいさんは、ここに1人で住んでるんですか?」
「ああ、1人で住んでいるよ。つい最近、旦那が亡くなってしまってね」
「あぁ、そうなんですか…。どれくらい前ですか?」
「3週間くらい前かな」
「それは…寂しいですね」
そっか、旦那さん最近亡くなっちゃったのか。
だから寂しくて、おれを晩ご飯に誘ったのかな。
ちょっと申し訳ないこと聞いちゃったかな。
と思いながら、一度ちゃんと考える。
今このおじいさん、"husband" って言ったよな…?
本棚に置かれた写真立ての写真を見る。
よく見ると、別のおじいさんの写真の横に、
2人のおじいさんが肩を組んで写っている写真があった。
まるで、夫婦のように。
あっ。
同性婚のできるオランダで何かを察した僕は、
それ以上おじいさんが1人で住んでることに対して触れるのはやめた。
おじいさんが言う。
「じゃ、晩ご飯食べに行こうか」
いろいろと真実を察してしまった僕は、
おじいさんの家に自分の荷物を置いて、
おじいさんとともに晩ご飯を食べに向かうのであった。
つづく。