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13/5/15

子どもを亡くして社畜をやめた話③山手線でローキック

Image by Olia Gozha

子どもを亡くして社畜をやめた話③山手線でローキック


ビリケン社長

おれがその会社に入社したのは

創業社長が亡くなり

現社長が就任した2年後のことだった



現社長は創業社長の愛人の連れ子で

血縁関係は無いはずなのだが

何故か創業社長の一存で就任が決まったらしく

創業社長は彼に席を譲った直後に病死している



当時彼はまだ30代半ばという若さで

前職は全くの異業種であった



現社長は引きつった作り笑顔が特徴的で

ビリケンさんに似ているので

ここではビリケン社長と呼ぶことにする




創業社長の死後

当時役員だった本妻派とビリケン社長派に分かれ

相当なすったもんだがあったらしいが

この辺の話には興味が薄かったせいもありあまり覚えていない



ただひとつ言えることは

このエピソードだけでも既に典型的なブラック臭が漂っており

人間関係において面倒な火種を抱えた組織であるということだ



しかし



あの頃のおれは

今ほどにブラック企業に対して敏感では無かったし

まさかその喧騒に自分が巻き込まれ得るとは思っていなかったから

入社後にその様な噂話を聞かされたところで



「昼ドラみたいだな」



という程度の感想で

特段気にも掛けていなかった



それよりも



当時のその会社の成長速度には目覚しいものがあり

おれの興味はその一点にしか注がれなかった




おれは色々な欲望に駆られていた





セミナー大好き

ビリケン社長はいわゆる社員啓発セミナーに傾倒していた



内容はありふれたものなので省くが

あまりイメージが湧かない人は

餃子とか寿司とかのチェーン店舗のソレ

youtubeにいくらでも落ちてるので見て欲しい

それを少しライトにして肉体的な負荷を減らしたものが

おれの受けたセミナーのイメージである



そのセミナーは会社の規模には合わないほどに

金と時間を掛けたもので

運営会社の講師とビリケン社長

どこぞの経営者飲み会で知り合ったという事だった



今思えば

ビリケン社長は助けを求めていたのだろうと思う



肩書きは社長でも

古参社員には妾の息子と裏口を囁かれ

隙あらば足元を掬おうとする者か

社内政治上の優位を築こうと擦り寄る者ばかりで

本質的な協力は得られていなかった様に思う



それでも能力が突出していれば気にかけるまでもないが

良く言って「性格の良い人」で

若さというアドバンテージがあるにせよ

仕事の面では概ね凡庸な人物であった



自分が言葉足らずなために

足を引っ張る古参のフィルターを介さずに

理念を打ち出し社員に伝える足がかりとして

社員向けの啓発セミナーを選んだのだろう


しかしなんということはない


おれはこのセミナーにどっぷり漬かってしまった



おれの元来の性格から

「せっかく参加するなら本気でやらないと損」

という真っ向勝負の姿勢で向かっていった結果



もともと仕事に対するモチベーションが高かった事もあり

相乗効果によって見事に

盲目的な長時間労働型の社畜への道を進み出すきっかけとなった



視察に来ていたビリケン

うれしそうに俺のことを眺めていた姿を覚えている



そして



月に一度のセミナーの何度目かが終わった夜

おれはビリケン社長と飲みに行き

彼が期待し

自ら立ち上げを画策していたプロジェクトの話を聞かされる



おれはその時

是が非でもそのプロジェクトに関わろうと決意をしたのだが

その決意が自分の首を絞めることになるとは

この時はまだ思いもよらなかった





社畜部

おれの所属した部署は

まだ創業社長が存命だった頃に立ち上げられたのだが

社内ベンチャーの様な扱いで

オフィスも何故か本社とは不自然に離れた場所にあり

入社後

おれが本社の人間と関わる機会は

前述した社内セミナーの場以外ではほとんどなかった



組織は閉鎖的で独自の行動理念を元に運営されていたのだが

その理念を掌っているのが

これから紹介するキャラクターである



この部署に敬意と恨み節を込めて

「社畜営業部」

もとい

「社畜部」

とさせていただく




倒れる課長(3ヶ月ぶり7回目)

オカダ課長社畜部に在籍する営業部員の中で最も古参であり

絶対的な仕事量と勤務時間を誇る社畜部のエースであった


ただ


課長という肩書きは

いわば社畜部における地位を表すもので

実際には課と呼べる様な命令系統は存在しておらず

後述の2人によるトップダウンへの

忠誠度と貢献に対する評価の証であった


なお


オカダ課長はその恐ろしいほどの長時間労働により

定期的に倒れて病院送りとなる


倒れる前の1週間は決まってテンションが異様に高く

「中野、仕事って楽しいな」


自律神経がイカれてしまっている為に

真冬でも汗まみれになりながら

深夜

キーボードを打ち鳴らしていたのだった




インシュリンを腹に突き刺したまま眠る部長

カーネル部長は社畜部のトップである


ケンタッキーでおなじみのカーネル・サンダース氏の

顔のシルエットだけを

ミシュランのビバンダムのそれにした様な出で立ちの

壮年の男性を想像して頂ければと思う


ビバンダム部長では語呂が悪いので

カーネル部長と呼ぶ



カーネル部長「睡眠障害」を煩っており

さらに「糖尿病」を併発している為に


時折


ロキソニンの注射を

自身の腹に突き立てたままデスクで寝入ってしまう



睡眠障害とは恐ろしいもので

いくら戦々恐々とした雰囲気のオフィスの中であっても

何の前触れもなく

突然眠りの中に落ちていってしまうのである



そんな時おれは

大きな腹に突き立てられたロキソニンを

なるべく視界から外し

こみ揚げる笑いをこらえるのだが

静かなオフィスに不意打ちで襲ってくる




「ガッ」




という無呼吸症候群のいびきの音で

何度唇を噛み締めたかわからない



お葬式で笑ってはいけないという事を意識すると

とたんに我慢出来ない笑いがこみ上げてくる現象と同じである



なぜそこまでして

笑い声を上げることに気を病む必要があるかというと

次に紹介する部長代理の存在があったからである



実質的な権力者

部長代理


佐藤浩市氏と毒蝮三太夫氏を足して

栄養ドリンクに漬け込んだ様なルックス


である


おれのこの例えは

その人物に対する恨み節の度合いによって変化するので

その辺を気にしつつ読み飛ばして欲しい


部長代理社畜部を発足させた本人で

この部署の実質的な権力者であった

なぜ代理かというと


社畜部を立ち上げた後に

ストックオプションでぼろ儲けをもくろみ

ITベンチャーのスタートアップを一枚噛みに行くために

社畜部を離れた期間があったとの事で

その際

スタートアップに失敗しても

戻れる席を確保するために部長代理が呼んだのが

カーネル部長オカダ課長だったわけである


そして実際にぼろ儲けとはならず

部長代理は自身で掛けた保険金を受け取りに舞い戻ったのである


この3人はキャラクターこそ三者三様であったが

みな共通して仕事面では有能であると共に

長時間労働を厭わなかった



凹んでいくデスク

部長代理は足癖が悪かった



日頃から気に入らない事があると

すぐにそこらかしこに蹴りをいれ

また同時に大声で怒鳴り散らすのであったが



仕事の不手際や営業ノルマの進捗が思わしくないことが発覚すると

彼のターゲットとしてロックオンされる



そして一度ロックオンされたが最後

部長代理の気が済むか

スケジュール上その場を離れなくてはならない時刻まで

ターゲットのデスクに寄りかかり

身を屈めて顔を近づけて睨みを効かせながら





「何で出来ねーんだよ・・・」






ガン






「何で出来ねーんだよ・・・」






ガン!






「何で出来ねーんだよ!!!」






ガン!!!








「何で出来ねーのか聞いてんだよ!!!!!???」







ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン・・・・・





という具合であるから

よくターゲットにされていた同僚のデスクは

日に日に凹み続け

バランスが悪くなってしまい傾いていたので

足の部分にダンボールを挟んで矯正していたのだった



またオフィスにはところどころ

不自然な場所に商品のポスターが貼ってあったのだが

それは部長代理




「それじゃ出来ねー理由になってねーんだよ!!!!」




ドン!!グシャ!!バキ!!




という具合で壁に穴を開けてしまうからだった



このイベントは日夜ランダムに発生し

オカダ課長ですらそのターゲットになることがあった

そんな時

社畜部のオフィスはシーンと静まりかえり

机を蹴る音だけが響き渡るのだが



そのタイミングでカーネル部長のいびきが聞こえてきたりすると

もはや仕事どころではなく

ただひたすらその時を

彼ら2人が帰宅の途に就くまで

ターゲットとなっている同僚と共に耐え

残務処理は夜中に回し

すなわち今日も元気に会社泊となるわけであった





山手線でローキック

ある日同僚が足を引きずりながら

青い顔をして外回りの営業から戻ってきた


ただ事では無い雰囲気に

どうしたのかと声を掛ける間も無く

部長代理が続いてオフィスに入ってくると



「山手線のホームでローキックしちゃったよ!」


「ごめんね~」



と猫なで声で同僚に擦り寄ったかと思えば



「てめーがワケワカンねー営業してっからだからな」



と凄みを効かせてまた出て行ってしまった

同僚はその後1週間

足を引きずったまま外回りの営業に出ていた



ここまで書いていて

なぜおれはあの環境で働いていたのか

今となっては全く理解が出来ない



ブラックどころか

普通に傷害事件である



今同じことが目の前で起きれば

即辞表を書いて

同僚を連れて警察にgoだろう





その頃のおれはそんな行動を取るなどという考えを

微塵も持ち合わせていなかった



とにかく社畜部で業績を残し

ビリケン社長に認められ

また

部長代理のターゲットにならない様にする事



それがおれの行動原理となり

その為に仕事に没頭する

仕事に没頭している時間はエキサイティングであったし

その結果なにかが手に入るはずだった



おれはあの頃

色々な欲望に駆られていた



他人が公共の場で暴行を受けたと聞いたところで

自分の身に降りかからない様にする策を練るばかりで

かわいそうとすら思わなかった



蹴られた同僚はそれから数ヶ月後

静かに退職していった





そして





そんなブラック社畜生活が続く中

妻は妊娠していて

お腹の中の胎児は成長を続けていた



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Image by Jukka Aalho

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