サトシ「帰るよ」
アキコ「はーい」
短いやりとり
メールが使えるようになってからはずっとこんな感じ
1日に1度、会社を出る時に…
転職をしたことがある
同業で会社を変える‘移籍’も一度ある
サトシ「転職してよい?」
アキコ「どぞ♪」
サトシ「移籍するぞ」
アキコ「はーい♪」
何にも言われなかったな
僕たちの相性はあまり良いとは言えない
お互いにもっと苦労しない組み合わせがあったに違いないと思う
もっと几帳面で気の利く男
もっとオープンでおおらかな女
そして‘ケンカの相性’がもっといい人
努力
我慢
労り
ずっとずっと繰り返してる
夫婦なら当たり前か。。。
僕は生命保険に入っている
生命保険に託すもの…
‘唯一死んじゃった後にできること’‘お金をあげること’
贅沢をして欲しいわけじゃない
ただ普通に暮らしていって欲しいんだ
僕が死んじゃったら
遺体を焼いてくれると思うんだけど
あまり派手な葬儀は望んでない
散骨か樹木葬がいいな♪
沖縄の海の魚のエサになるか
桜の苗木の下に蒔かれたい
とにかく地球の栄養になりたい
で
保険金が支払われて
ちゃちゃっと葬儀を済ませる
欲しかったら足の小指の骨くらいあげてもいいかな♪
奥さんは住宅ローンを支払わずに
今のマンションに住み続けることが出来る
あとは毎月
雲の上から奥さんの通帳に生活費を入れていく
毎月決まった額を
奥さんが働いても働かなくても
誰かと再婚してもしなくても
今と変わらない生活ができるだろう
きっと上手くやりくりして
貯金までしてるだろうな…
でも願わくば全部使いきってこっちに来て欲しい
奥さんのためのお金だから
それと誰かと再婚して欲しいんだ
僕が埋められなかった穴を埋めてくれる誰かと
奥さんの最期を看取ってくれる誰かと…
そんで幸せに過ごして欲しい
たまに僕の寝息が聞こえない物足りなさや
バラエティ番組を観て笑っている耳障りなゲラゲラを
思い出してくれればそれで十分
いつかどこかで
必ず来ちゃう別れ
願わくば
いよいよ最期だっていう病床
サトシ「そろそろ…俺、死ぬぞ…」
アキコ「はーい♪」
‘ずっとあなたが好きだった’
そんな思いを含んだ笑顔で
あの時と同じように送り出して欲しい
