『水がない…』
2015年2月21日
僕は3人の先輩とマレーシアの熱帯雨林の真ん中でうなだれていた。
僕はジャングルで遭難した。
この話は僕が卒業旅行で先輩たちと野生動物を観察しに行った時の話である。
マレーシアのジャングルへ
事のきっかけは北海道テレビ放送の人気番組『水曜どうでしょう』にあった。
僕が卒業研究をしている時に大学院生の先輩に観るように勧められたのが人気俳優の大泉洋がマレーシアのジャングルに野生動物を観察しに行かされる放送回でした。
それを見た僕は、
『なんだこの面白い番組は!!!』
僕は水曜どうでしょうにどっぷりハマってしまい、ついには視聴することを勧めた先輩に
しょ~りん「先輩!卒業旅行でマレーシアのジャングルに行きましょう!」
先輩W「お前が予約とか事前の手配してくれるなら良いよ。」
僕がマレーシアに行きたいのには水曜どうでしょうのロケ地に行くこと以外にも
『日本では観察することの出来ない野生動物が見たい!!』
という確固たる目的があった。
僕は大学で生物の研究をしており、先輩が快諾してくれたのは同じように生物が好きな先輩だったからだ。
最終的にその卒業旅行には僕と3人の先輩の男4人でマレーシアのジャングルへ野生動物を見に行くことになった。
僕達が行ったのはマレーシアのタマンネガラ国立公園にある
『ブンブンクンバン』という野生動物観察小屋。
日本人が旅行でこの場所に来ることは殆どないらしい。
それもそうだ。
ここは野生の獰猛なトラやゾウが出る上に、険しいジャングルの中を10km以上も歩かなければたどり着くことができないからだ。
それを頭の中で理解していたが、実際に経験するのとではまた話は別だった。
僕達は完全にジャングルを舐めていた。
まさかあんなことが起こるなんて・・・。
ジャングルに向かう前日は国立公園近くのリゾートに宿泊。
次の日は朝早くにホテルの食事を済ませ、双眼鏡などの観察道具を詰めたザックを背負って準備は万端!
4人で10km先にある目的地ブンブンへ向けて出発した。
あれ?道がなくね?
ブンブン向けて出発をしてからはカニクイザルやリス、キレイな色をした昆虫などが出迎えてくれて野生生物の世界に魅了されていた。
『このまま楽しく生き物を観察しながら歩いていればすぐにブンブンに着いてしまうだろう』
そんな風に考えながら呑気に歩き続けているとある疑問が浮上した。
先輩W「なあ、この道あってるか?」
しょ~りん「んー、なんか方向が違う気もします…」
先輩K「ブンブンへ向かう道は地図に2つあったから、もう一つの方なんじゃないかな?」
先輩S「一旦戻る?正規のルートと違うみたいだし。」
地図を確認するとこちらの道でもブンブンには辿り着けることがわかったので僕達はこの道を歩き続けることにした。
今だからわかることだが、僕達は川沿いの昇り降りが激しい難路の方を進んでしまっていたのだ。
この選択が後々自分たちを苦しめることになるとは考えもしなかった…。
先輩W「…あれ?道なくね?」
しょ~りん「確かに何もないですね…」
先輩K「道が削れているように見えるけど…」
それもそのはず。
僕らが旅行に来る直前マレーシアでは大雨が続き、過去10年で最悪の洪水被害が起きていたのだ。
不運なことに僕らが選んだ道は川沿いの難路だったため削られてしまい、歩きづらい上に道なのかどうかもわかりづらかった。
難路を7時間以上歩いたタイミングで一人の先輩が休憩したいと言った。
その先輩は軽い脱水症状になっていた。
一人4リットル持ってきていた水ももう少しでなくなりそうな頃合いだった。
恐らくこのときが4人にとって一番精神的にキツかったタイミングだったと思う。
目的にたどり着くことができるかもわからない状態で歩き続けた上に水もない…。
しかし、先輩は冷静に最悪の状況にならないよう考えていた。
水がなくなるのも怖いが一番まずいのは日没になることだった。
そこで先輩Aが一度二手に分かれることを提案した。
先輩W「まだ元気が余っている俺としょ~りんは先に進もう。地図によるとこの先に船着き場があるから人がいれば助かるかもしれない。」
確かに船着き場に人がいれば助けを求められるし、水も手に入るかもしれない。
その一縷の望みに賭けて僕と先輩Wで先に進むことにした。
二人の先輩に関しては疲れないようにゆっくり進んでもらい、最悪僕ら二人が船着き場に荷物を置いて助けに戻ることにした。
僕達は地図によると船着き場につくまでには大きな桟橋があることがわかっていたので、そこに向けて険しい道を進み続けた。
ふと後ろを振り返ると先輩はだいぶ後ろの方にいた。
先輩の顔色はどことなく限界のように見えて、その表情が僕をより不安にさせた。
その恐怖から逃れたいがためか、僕は歩くというよりは走っている状態に近かった。
顔の頬に伝っているのは汗なのか涙なのかはわからない。
このときはとにかく無我夢中で足を一歩一歩前へ進めていた事以外はあまり覚えていない。
ほぼ走っているような速さで難路を1時間ほど歩いていると
ついにその桟橋が見えたのだ。
この時見たボロボロの桟橋は僕には輝いて見えた。
もう少しだ!もう少しで助かる!
そして僕と先輩は分かれ道に差し掛かった。
左に進めばブンブンで右に進めば船着き場。
もしも、僕らが船着き場に行っている間に後ろから来る先輩2人がブンブンの方に行ってしまっては困るので先輩が船着き場へ、僕は分かれ道で待機することになった。
先輩が船着き場に向かう後ろ姿を見送って、地面に座ると僕は緊張の糸が切れてその場で眠ってしまった。
上を向いて歩こうよ
覚えているだろうか?
ここは獰猛な野生のトラやゾウがいるだということを。
僕が眠ってしまっているとブンブンの方向から
『パキッ』
と何かがこちらへ近づいてくる物音がした。
まどろみの中、嫌な言葉が頭によぎった。
『獰猛な野生のトラ』
ジャングルは熱帯で暑いはずなのに、僕は急に身体中の温度が下がった感覚に陥った。
そして、
その音が近くに来たタイミングで僕は目を開けた。
目の前には・・・
マレー人の男が立っていた。
マレー人「○%&+?#!!!」
僕は一瞬パニックになったがマレー人が話しているのは英語だった。
マレー人「Don't sleep!(寝るな!)」
しょ~りん「I'm Sorry…」
英語を話せない僕だったが、不思議とこの時はマレー人が何を言っているかがわかった。
マレー人「ここは四頭のトラと無数のゾウが生息する区域だ!こんなところで寝ていたら死ぬぞ!お前は何人だ?」
しょ~りん「僕は日本人です!ブンブンクンバンに行きたくてここに来ました。」
マレー人「本当に日本人か?なら私に続いて歌ってみろ!」
『上を向~いて♪あ~るこ~うよ♪』
なぜかこの状況下でマレー人がおもむろに
『上を向いて歩こうよ』を歌い始めたのだ。
よく分からないが歌えと言われたので
『涙が~こぼれないよ~に♪』
と返したらマレー人はニッコリ笑った!
マレー人「You are Japanese!!!」
…
どうやらマレー人は日本人かどうか確かめるのに『上を向いて歩こうよ』を歌わせるらしい。
僕の中でマレー人に対する一つの偏見が生まれた。
ふと彼の後ろを見るとロシア人の観光客が数人いた。
彼は旅行のガイドのようだ。
マレー人のガイドに話を聞くと、この分かれ道から1時間ほど歩けばブンブンクンバンに着くことがわかった。
さらに船着き場からは船が出ており、予約をすれば迎えに来てくれることも親切に教えてくれた。
色々教えてくれたことにお礼を言うと彼は
マレー人「もうこんなところで寝るなよ!」
と言い残してロシア人観光客を連れて船着き場へ向かった。
もしも、彼がさらに続きの歌詞を求めてきたら僕は答えられないところだったのはここだけの秘密だ。
その後しばらくして船着き場に向かった先輩が帰ってきた。
幸いなことに先程僕が会ったガイドのマレー人が船の予約をしていたためボート屋の人に会えたようだ。
今日船を出すのは難しいため、明日の昼頃に迎えに来てもらうことになったとのこと。
今思えば予約をしないと普段人が来ない船着き場のようなのでかなりラッキーだったと思う。
そんな話をしていると桟橋の方から2人の先輩がやってきた。
なんとか無事に4人再会することができ、ひとまずジャングルで一夜過ごすためにブンブンへ向かうことにした。
しかし、再会はしたのものの水がない状況は変わりない。
そこで僕はジャングルの途中きれいな湧き水が湧いていたので、万が一に備えその水をペットボトルに汲んでおくことにした。
しばらくして喉の渇きに耐えられずかなりの量を水を飲んだ。
汚れはなくて完全に透明だったので飲水にしても問題ないと判断したのだ。
ブンブンに到着してからは完全に安心してしまい、動物の観察などせずに速攻で眠りについてしまった。
汚くてボロい板の上で眠ったのにも関わらず、最高の寝心地だったのを今でも覚えている。
ブンブンで一夜を明かし、次の日はすぐに船着き場へ。
ボートに乗って宿泊していたリゾートのホテルに無事帰れたときは涙が出そうだった。
そして、最後に…
ジャングルの生水を飲んだ僕と先輩は激しい高熱と腹痛に襲われたのだった。
帰りの飛行機のシートは便座だったことは言うまでもない…。
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最後まで読んでいただきありがとうございました!
タイトルの腹をやられたというのは『トラ』にでなく『生水』にでした!笑
現時点での僕の人生で一番辛くて、一番楽しかった出来事がこのマレーシアの旅行です。
飛行機で帰ってきて、日本の地に足を付けた時は心の底から『生きててよかった!』と思いました。
そして、できればもう一度マレーシアにはリベンジしに行きたいと考えています!笑
今度こそはちゃんと野生動物を観察するぞ!!笑
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