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16/10/8

【第9話】人生いろいろ

Image by Olia Gozha

僕はついに意中の人とついにキスをしてしまった。リゾートバイトに来て、恋をするなんて全く想像していなかった...。


僕はペンションにある大浴場で一人、昨日のことを考えていた。

ずっと昨日、カオと夜にあった出来事を思い返していた。朝起きて、仕事が終わり、ご飯を食べて、風呂に入るまでずっとそのことを考えていた。

大浴場には露天風呂があり、そこから景色が一望できる。本当に天国みたいな場所だ。

もう30分近くつかっていた。

ガラガラと風呂場のドアが開き、180cmを超える背の高い片桐さんが少し背を屈めて入ってきた。

片桐さん「ケイくん、隣いい?」

「もちろんです。どうぞ。」

片桐さんが最近の事について、聞いてきた。片桐さんには新潟に来た時からお世話になりっぱなしだ。何よりもいち早くリゾバに採用してくれた恩人でもある。僕は片桐さんを信用している。僕はカオとの関係について打ち明けてみた。

片桐さんは「ふふふ....」と微笑を浮かべた。

「僕はね、このペンションのオーナーになってそういった人生相談を聞くのは初めてじゃないんだ。」

「え!そうなんですか!?」

「うん。それこそ数えきれないくらいね。」

「数えきれないくらい!?」

どうやら、こういったことはリゾートバイトでは日常茶飯事であるらしい。みんな違う場所から来て、本来交わるはずのない人たちがここで一緒に寝食を共にする。そこで多くのドラマが生まれる。僕のように恋をしたり、かけがえのない友達ができる。




そうして、片桐さんから驚くべきことを聞いた。

「僕も実はリゾートバイトをしていたんだよ。」

「片桐さんもだったんですか...。」

片桐さんは自身の経歴を話し始めた。その経歴は驚くべき経歴だった。高校時代に、プロのスキー選手を目指して、地元の新潟で数多くの大会で優勝していた。入賞者はオリンピックに出場している聞いたこのある選手の名前もいる。



大学は一流大学に進学し、誰もが羨む超一流の金融関係の会社に就職したらしい。

しかし価値観の違いと自身の夢のために会社を辞めていた。

プロのスキー選手を目指しリゾバをしながら修行に明け暮れ、プロースキーヤーとして活躍し、海外で数多くのタイトルを取ったが、年齢とともに結果は出せなくなった。

引退後はリゾバで出会った彼女と結婚して地元の新潟に戻ったということだ。

そして経験を活かして、今ではペンションを経営している。

片桐さん「栄光を全て捨ててもやりたいことがあった。自分がやってきたことに本当に満足しているよ。あのまま会社でずっと同じ仕事をしていたら、幸せな時間は永遠に訪れなかったから。」

片桐さんの言葉には重みがあった。端正な容姿で高学歴、おまけにエリート社員だった片桐さんは全てを捨て、スポーツの世界に飛び込んだ。こんな大きいペンションを若くして経営している。説得力があった。

片桐さん「君は僕に似ていると思うんだ。」

「僕が片桐さんにですか?」

素晴らしい経歴の持ち主の片桐さんに僕が比べ物にはならないと思うが、片桐さんは真面目そうにそう語った。僕はどういう意味かわからなかったが、少しうれしくなった。

片桐さんに一礼をして先に大浴場を出た。脱衣所で体をふいた。扇風機の風がとても気持ち良い。

外に出ると、カオが水とアイスを持って待っていてくれた。

彼女に感謝の気持ちを伝えると、彼女はとびっきりの笑顔を見せた。



その笑顔が、僕の好きな歌手、ZARDの坂井泉水に似ていたのにようやく気がついた。

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Image by Jukka Aalho

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