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16/9/5

バランスの薔薇⑧「音で伝える感謝の気持ち」

Image by Olia Gozha

ピアノの選曲は、パッヘルベル作曲のカノン(canon)にした。

誰もが聞いた事あるメロディーであり、優しく流れるような音で、綺麗なユカリちゃんにはぴったりな選曲だ。


輝樹は便利屋さんの仕事を終え、夜な夜な音楽教室に通った。ど素人から約4ヶ月でカノンを弾けるようになる為には、相当な努力をしたのだと思う。

全てはユカリちゃんを喜ばす為だった。

Gメンのみんなも、応援に精を出し、花火大会当日に大きな花束を輝樹に渡した。

「想いを全て伝えた時に、ユカリちゃんにお花をプレゼントしたれよ!」

そんな想いだ。

8月下旬、当日。

お盆も空け夏休みも残り少なくなり、最後の想い出作りとして多くの学生や、社会人達が集まった。

何十万人の人たちが、この街に集まり活気ある花火会場となっていた。

日も沈み始め、川が流れる花火が打ち上げる川原の特設会場に、僕らはGメンと、ユカリちゃん、店長の山口さん等、みんなで花火を観に行った。

ユカリちゃんだけは、何も知らないまま。

花火大会が19時より始まる前の、18時30分頃、輝樹は携帯電話に出るフリをしながら、ユカリちゃんに、

「すまん、、ちょっと仕事の電話がかかってきたから、少し席を外すね」

と、ベタベタなセリフで僕らの席から抜け出して、特設ステージの方に向かっていった。

司会者「まもなく、毎年恒例の大切な人に想いを伝えるコーナーが始まります。」

司会者が、そう話すとゾワゾワと会場内は盛り上がってきた。

司会者「では、今回はですね、とある1人の男性が4年の交際をした彼女へ大切な人は、ピアノで想いを伝えてもらいます。皆様、最大な拍手でお迎え下さい!」


会場は、もしかしたは自分へではらないのかと、ワクワクしている人や、どんな顔した男が出てくるんだと、楽しみにしている。

特設ステージに、ポツンと置かれたピアノ。日が沈みら辺りが暗くなったその場所を照らすワンスポットのライト。

そこにタキシードに身をまとった輝樹の登場。

僕らGメンは、大爆笑だった。いつもフザケてばっかで、いたずら大好きな輝樹が超真面目な顔して、緊張しながらステージに歩いてる姿が面白くてたまらなかった。

ただ、ユカリちゃんだけは、目を少し赤くして涙が溢れ落ちないように堪えているように見えた。

輝樹のカノンの演奏は、素晴らしかった。

何十万人の人が見ているとは、思えないほどの静けさの中にピアノの美しい音が流れる。

すっかり暗くなった空間に、明るくも悲しくもあるメロディーが、僕らの心を震わせてきた

完璧な演奏を終えた後、僕の目からも少し涙が垂れてきた

人を愛する想いから、ピアノを習い、大勢の前で披露するという覚悟ある選択をした輝樹が、少しいつもよりカッコよく見えた。

演奏を終えた輝樹は、マイクを持ちステージから降りて、ユカリちゃんの前まで司会者と降りてきて、

「いきなり驚かせちゃって、ゴメンね。

俺はいつも落ち着きもなく、心配ばかりをユカリにかけてきたけど、今までずっとそばにいてくれて、ありがとう。これからも、ずっと俺のそばにいてくれませんか?

俺が一生幸せにします」

輝樹のストレートな想いのプロポーズの言葉だった。

ユカリちゃんは、もう泣き崩れ

「はい、私も一生ついていきます。こちらこそ、宜しくおねがします」

とOkの返事をした。

会場は、大きな声援で盛り上がった。僕らGメンも笑いから感動まで、全てを味わった気分で雄叫びをあげた。

「やったなぁー!輝樹!おめでとぉー!!」

まるで映画のワンシーンのようなプロポーズだった。多くの観衆のもと、仲間に見守られながら、練習してきたピアノ演奏は完璧でストレートなプロポーズのセリフに、OKの答え。どれをとっても完璧すぎるプロポーズだった。

輝樹とユカリちゃんとっては、もちろんだか僕らにとっても最高の花火大会となった。

まさに、人生最高潮の時であり、華やかなひと時であった。

全く違う人生を歩んできた2人が出会い、

その後の人生を共に歩もうという約束をした現場に出会えた事が、素晴らしかった。

こうして、僕らの2015年輝樹のプロポーズ計画は、大大大成功で幕を閉じたのだった。

うまく行き過ぎていたことが、のちの恐怖へと変わってしまう事にも、気づかずにいた僕だった。


※これは実話元にしたフィクションです。実際の登場人物名、場所は関係ありません。


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