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16/2/19

自殺企図から始まる うつ病 との出会い2

Image by Olia Gozha


首吊りに失敗した私は、会社に電話をし今日は頭痛のため休みたいと嘘をいい、会社を休んだ。



 その日以前にも体調が思わしくなく数日会社を早退したり休んでいたせいか、

上司は思いの外あっさりと「ゆっくり休め」と休みの許可をくれた。



その後出社までしばらく休むことになるとは上司も思いもしなかったろう。





首吊りの失敗から時間にしてどのくらいたっただろうか。

幸か不幸か後遺症と思われるものはなく私自身が自殺を図ったとわかるものは3つだった。



1つめは、首を吊ったときのしばしの記憶喪失。

 首を吊ろうとしてから床に落ちて目を覚ますまでの記憶がない。

前日の晩の記憶も消え何をしていたか覚えていない。


2つめは、取っ手が壊れたキャリーケース。

 たまたま足元にあった、海外出張などで愛用していたキャリーケースは

無意識に強く強く取手を握ったらしく、

今までの出張でも壊れたことのない取っ手がきれいに折れていた。

 その後このキャリーケースを見るたびに、この記憶が思い出されることになる。


3つめは首に残った濃い紫色の細い紐の痕。

 痛みはないが、首吊りを試みた張本人からみても一朝一夕で消える痕ではないのが明らかだった。

このまま一生残るのではないかと思うほどの濃い紫の細い痕が

首から両耳の後ろにかけてくっきりと形を表していた。

 この痕を 索状痕(さくじょうこん) というのを医者から聞いた。




 この3つの状況を私はどうにか把握しようと

いつも座っていた白いソファに腰掛け、大きく息を吸い込んだ。


 それは、そうした行為をしてしまった自分自身への驚きと、

これからどうしたらよいかの葛藤の始まりだった。




私は一人暮らしで、彼女も日中は働いてる。


行くべきはまずは医者だと思った。



 当時、私が住む仙台市内でも心の病や自殺が問題となり、

いわゆる「こころの電話相談ダイヤル」の周知が進んでいた。


臨床心理士や精神科医が電話で悩みなどの相談に乗ってくれるものだ。

電車の広告や広報誌などでも大きく取り上げられてた。



そのせいかふいにそれを思い出し何かすがるものを求めて電話をかけた。



期待して電話したのだが何度電話してもつながらない。




それもそのはず、受付は10時からだったのだ。

私が電話をかけたのは首吊りを失敗してから30分後。


午前8時30分。



こころの電話相談は午前10時から12時まで。

午後はお昼を挟み13時から16時まで。


今迫る消えそうな命に時間は関係ないと思うのだが。

 私のような形の対応については全くの想定外なのだろう。



またしばらくの時間ソファに腰掛けたまま、大きなため息をついた。






 それでもこの状況をどうにかしたいと思っていた私は、首の傷痕をさすりながら

携帯電話で仙台市内の精神科のあるT病院を調べ電話をかけた。


T病院「はい。T病院です。」

「今朝、首吊りで自殺を試みてしまい、失敗しました。どうすればいいでしょう。受診させていただけますか?」

T病院「それは大変ですね。ただし、当院は紹介状がないとお金がかかりますし、第一予約がないため長時間お待ちいただくことになります。かかりつけ医はありますか?そちらに相談してください。」


回答は以上だった。

病院側としては至極全うな回答であったのだろう。



 実は私の父も同じ時期、精神的な病気で通院をしていたためこういったケースは

精神科と決まっているものだと思っていたが、


この緊急性のない対応に言いようのない虚無感を覚えた。




 緊急だからといい救急車を呼んでもケガしているわけではない。

目に見えるのは首にある紐の痕だけ。何に助けを求めたらいいかわからなくなった。



第一、かかりつけ医は内科だ。




私は首の痕が見えないようそばにあったユニクロのワインレッド色の

タートルネックのセーターに着替え、

先ほどのT病院の指示どおりかかりつけ医のNクリニックに車を走らせることにしたのだった。




この時ほど首が隠れるタートルネックのセーターに感謝したことは無く、

季節が明けるまでしばらくの間愛用することとなる。

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