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15/11/4

第五十一章 理想の生活

Image by Olia Gozha

第五十一章

「理想の生活」

 私は毎朝「通信生」の英作文を添削するのが日々の日課というか、楽しみの一つだ。京大受験生、国立大医学部の子が多いのでレベルが高い。夕方は授業。帰宅したら、通塾生からの質問メールが来ているので質問に答えたり問題の送信をしたりしている。

 通信生は北海道から九州までみえる。通信生を募集して4年目で、このような状態になることなど予想もつかなかった。世の中は想定外の連続だ。今年は京大受験生が10名を越えそうだ。「打倒!四日市高校」なんてスローガンが思いつくなんて、これも全くの想定外だ。2年後、3年後に何が起こっているのかまるで分からない。

 想定外を想定内にしないとダメなんだろうが、そんなことは神様でなければ分からない。考えてみると、塾を始めてから毎年想定外の連続だった。

「まさか銀行が自分みたいな若造に融資してくれるのか?」

 これが29歳の私の実感。今にして思えばバブルだっただけなのだが。

「まさか自分が英検1級に合格するとは!」

 そのおかげで、名古屋の有名予備校、塾、専門学校で非常勤講師に。

「まさか自分がブログやYoutubeを始めることになるとは」

 ネットの普及がこれほど急速に拡大することは誰にも予想できなかった。

「まさか自分が京大を7回も受験することになるとは」

 その前に、京大受験生が塾に来てくれることは想定できなかった。

「まさか本当に通信生が集まってくれるとは」

 Z会をはじめ大手の通信添削なんて山ほどある。

「まさか文系の自分が数学Ⅲを指導することになるなんて」

 高校生になっても塾を継続したい子がこんなにいるなんて想定外。

 こんなに変化が激しいと、固定した理想は描けない。オジサンが描く理想の生活は若い女性やらゴルフやら海外旅行やら金やらだろうが、私はギャンブルは嫌いだし、女性は懲り懲りだし。

  考えてみないと不満が見つからないということは、現在の生活がかなり理想に近いということになる。健康で、好きなことができるのだから感謝しなければならない。今は大規模塾がマスコミを使って広報することに、零細な個人塾も無料のネットを使って広報で対抗できる。

  私の個人塾に北海道から九州まで英作文の添削依頼が舞い込むのは、英検1級、京大二次で8割正解という信頼感なのだろうか。もっと情報を提供しなければならないので、こういうブログ、Youtube、エッセイなどを投稿しているl。

  HPに「京大英語」のページを書き加えた時点では、誰も応募がない可能性が高いと思った。知名度ゼロ、三重県の片田舎の個人塾。予想どおり初年度は1名だけの申し込みだった。ところが、2年目、3年目と倍々ゲームのように増加。

  今年はついに2桁を突破している。そして、打倒!四日市高校にたどり着いた。驚いたのは、私が誠実に、真摯に、マジメに、真剣に、楽しく、この添削に取り組んでいることが相手に通じるらしいことだ。お互いに連絡をとれない北海道から九州までの通信生。

  画像、映像、文章などには魂が宿るのだろう。私の嫌いな非科学的な表現だ。でも、現実に申し込みが増えている。現象にはかならず、原因がある。おそらく、難関大受験生は真剣で誠実なのだろう。だから、私の言葉が彼らに響く。私にはそう思える。

  近いうちに私が採点できないくらいの人数になりそうだ。もし、京大合格者がこのまま増えていったら目立つかもしれない。また、想定外の何かが起こるのだろう。

 

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