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15/7/3

学歴コンプレックスの私が大手企業で新人賞を受賞した話 ~5~

Image by Olia Gozha

              あるお客様との出会い


転機は突然だった。期末まで残り3か月を切ったその日。そのお客様と出会った。


お客様のOさんは国家公務員で、特殊な仕事に従事されている方。自分の父親とほぼ同世代。ご夫婦でモデルハウスにいらっしゃって拙い知識で説明をしたが、静かに頷くのみ。ほぼ無反応に近い。

その日はそのままお帰りになられた。


その日の部長への報告でも案の定ボロクソに言われた。

部長「この人は間違いなく家を建てる。なのにお前は何の情報も得ていない。もしお前が担当しなければもっと話は進んでいたんだ。それをお前はわかっているのか?」

「・・すみません。」

部長「一刻も早くこの人の家に行きインターホンを押せ。なんでもいいから情報を得てこい。今すぐ行け。」

時刻は夜8時過ぎ。Oさんの家は事務所から15分程。部長に半ば追い出されるように車でOさんの家に向かった。

Oさんの家は社宅の団地。家の前まで来たがどうしてもインターホンが押せない。接客の中で交わした数少ない言葉の中から、休日は家でゆっくりと家族団欒を楽しんでいると聞いていた。

休日の夜8時と言えば食事も終わりゆっくりとお茶でも飲んでいる頃だろう。



急に自分の父親の顔が浮かんできた。

「ここでインターホンを押して家族団欒を邪魔して、何のいい事があるのだろう。これは完全に自分の都合でしかない。。私には押せない。。」



私は初めて部長の指示を無視した。






一度車に戻り、本日の来店お礼のメッセージを記入しポストに入れて、インターホンを押さずに事務所へ戻った。

事務所に戻り部長には、不在だったと嘘の報告をした。


部長「・・・。」

部長は無言だった。

後から思えば、嘘だと見破られていたのかもしれない。




翌週の土曜日、お店から電話がかかってきた。

店舗受付「あの、O様というお客様がいらっしゃっておりますが、、」

「すぐ行きます!」







 すぐに店舗に行くと、先週話したばかりのOさんが一人で待っていた。



Oさん「先日はうちまで来ていただいてありがとうございました。あの後色んな会社の人が家に来ましたが、インターホンを鳴らさなかったのはあなただけでした。今日はあなたに家づくりの相談に乗っていただきたくて来ました。お忙しいのに申し訳ありません。お時間大丈夫ですか?」

「もちろんですっ!ありがとうございます!」

そこから話はとんとん拍子に進んだ。住まいを建てるための土地も探されていたOさんに土地の提案を繰り返し行い、何度も資料を作り、予定を合わせて一緒に見に行った。

初対面から約一か月後、気に入っていただく土地も無事見つかり、間取りもほぼ決定。

次回の土日に予定を頂きいざ初めての契約打診(クロージング)、、という流れだった。

ついに目の前に近づいてきた契約商談。。

胸の高まりは最高潮だった。


が、そう簡単にはいかない。





ある日Oさんから携帯に電話。

Oさん「すみません。あさってから急遽出張で一週間九州に行くことになってしまいました。今週の日曜の打ち合わせ、キャンセルさせていただいてもよろしいですか?」

「はい。もちろんです。お忙しいところいつも有難うございます。お帰りはいつですか?お戻りになられたら一度私の方からご連絡致しますね。」

部長にその旨を報告。

すると烈火の如く怒り出した。

部長「お前はアホか。来週だと来月になるだろう。今月の予算があるんだっ!すぐ電話して、今日でも、明日でもいいから仕事終わったら寄ってもらえ。もし電話に出ないなら家の前で待て。約束を取るまで俺の前に顔を出すなっ!」

「でも、、Oさんも忙しいとの事でしたし、契約には前向きなのでお帰りになられてからで問題ないと思うのですが。。」

部長「でもじゃない。早く行けっ!」


そんなこんなで無理やりに電話をさせられることに。適当な言い訳をつけてOさんに話をすると、Oさんは時間は約束できないが、明日仕事が終わったら一度お伺いしますとの事。



翌日、20時過ぎにOさんから電話が来た。

Oさん「今仕事が終わりましたのでこれから伺います。」


Oさんは疲れた顔でやってきた。私の横には部長がしっかりと陣取っている。

すこしでもOさんの負担にならぬようにと、早口で今回の間取りや土地の話を終え、詳細の説明に入った。

何度もロープレしていた契約の商談だが、なにせ初めての契約だ。

たどたどしい説明で何度もつっかえる。



すると部長がおもむろにOさんにこう断り、私を連れだした。

部長「O様、すみません。少々お待ちいただいて宜しいでしょうか?君、ちょっと来て。」

「はい。 (何だろ?)」

部長「お前はこの打ち合わせには出るな。俺が契約を決めるからお前はあそこで隠れて聞いていろ。」

「でも、、私のお客様です。喋らなくてもよいので同席させてください。」

部長「だめだ。俺の言う事を聞けっ!早く行け。そして絶対に商談が終わるまで顔を出すな。」



私は打ち合わせからつまみ出された。

あまりの出来事に茫然として言葉を失う。


部長は早々と席に戻り、淡々と打ち合わせを進め、契約の打診をした。

Oさんはかなり戸惑っていたがそこは百戦錬磨のトップ営業マン。

あれよあれよと条件交渉し、翌日に契約書の取り交わしの約束を取り付けた。



私は壁の陰で涙を流していた。



初めての契約を目の前に打ち合わせから外された悔しさ。

初めての契約商談をこなせない自分の力量不足。

とても優しいO様にこちらの都合で契約を急かしてしまう事の心苦しさ。



涙が止まらなかった。



商談が終わり事務所に戻ると部長に呼ばれた。

部長は言った。

部長「初契約おめでとう。お前の説明は下手すぎるから、邪魔でしょうがなかったよ。お前がトップセールスマンなんて無理だな。俺のおかげで契約できてよかったな。」




私は泣いていた。


そして悔しさのあまり、泣きながら持っていた資料を机にたたきつけ、部長を睨みつけた。


部長「なんだその眼は?」


私は無我夢中で言った。


「勝手にやってくださいっ!僕はあなたの為にいるんじゃないっ!僕はあなたと違うっ!あなたにはなれないっ!なりたくもないっ!」



静まり返った事務所を飛び出した。



慌てて教育担当の先輩が後を追ってきた。


教育担当の先輩「なんだ?何があったんだ?」


私は事の顛末を話した。打ち合わせからつまみ出されたことも。


先輩は言った。



教育担当の先輩「お前の気持ちはよくわかる。しかし部長はああいう人だ。」


教育担当の先輩「その悔しい気持ちを絶対に忘れるな。あの人は変わらない。お前は今後何度もつらい思いをするだろう。ただ、お客様を守れるのはお前だけなんだ。悔しい気持ちは立派だが、お前はまだ未熟すぎる。お前がお客様をそこまで大切に思うのなら、早く一人前になって、部長からお客様を守れるようになれ!そしてトップを取って部長を見返すしかないんだっ!」

私は泣いていた。

自らの力不足を呪った。。

そして涙でぐしゃぐしゃの顔で先輩に誓った。


「絶対にトップを取ります。そして部長を見返しますっ!」







 



今までは同期に負けたくないという思いしかなかった。

同期を見返したいという自分自身の欲求でしかなかった。


この日を境に私は変わった。


「同期の成績なんてどうでもいい。」

「今目の前に自分のお客様に不快な思いをさせたくない。」

「お客様を守りたい。」





朝から晩まで、休日もすべて返上し仕事に打ち込んだ。

誰に何を言われようと、同期から様子伺いの電話がかかってこようと、必死に仕事をした。

私はどうしてもトップの座が欲しかった。

お客様を守りたかった。

私と出会ったことでお客様に不快な思いをしてほしくなかった。



生活の、行動の全てが変わっていった。



そして迎えた期末。。


つづく





(部長にはこの後めちゃくちゃ怒られ、「会社をやめろ」とまで言われましたが、先輩と一緒に平謝りして許してもらいました。。)


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