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15/3/9

俺が財閥の家庭教師だったときの話(終)

Image by Olia Gozha

実は俺はそのときが初めての国内線だった。

羽田にも行ったことがなかったので、そもそも羽田と成田の違いさえわかっていなかった。

とりあえず空港に着いたので、マダムに電話した。

「ああ、せんせー着いたのー?」

数分後にマダムのBMWが現れた。

車の中でマダムの説明を聞きながら、最初の家庭教師をこなした。

たしか半日くらいだったような気がする。

授業後に送迎車の中でマダムがこうおっしゃった。

「ついでにウチの子供の勉強も見てもらっていいかしら。」

もちろんです。

確か2~3時間だったと思うのだが、なんかちょっとお姉ちゃんになった感じがした。


その後、マダムに渋谷の焼き肉屋さんに連れて行っていただいて、事件は起こる。

なんとマダムとご令嬢二人、そして俺。

俺はさすがに遠慮があったので、少ししか食べなかったしビールも1本しか飲んでいない。


最後のお会計は誰が払うの?

ってことになるじゃん。

だって男は俺しかしなんだから。

今さっき頂いたありがたいお金を使わないいけないよね。

日本男児として。

あのくらいの量だったら7500円から9000円の間に収まるはずだ。


「マダム、お会計僕にさせてください。」

「いいって、いいって。先生は今からがんばって働いてね。」

「いや、僕が…」


「お会計8万3千円になります。」


…お前バカか?

なんでこれだけで8万3千円やねん。

8万3千ウオンの間違いじゃないのか?

俺の愛する近所のだるま食堂だったら、40人分やんけ。

さっきの牛が8万円?


皇居の中で飼ってたんか?われ?

皇族牛?

その金額を聞くやいなや、マダムが俺に

「せんせー、おごってくれるの?」と笑いながら言って来る。

「…無理でした。ごちそうさまです。」


家庭教師代より高い焼き肉。

というよりも、おそるべし渋谷の焼き肉。

それから俺は山口に帰って、この焼き肉の話をことあるごとにして回った。

「おい、お前、渋谷の焼き肉屋さんの値段知ってる?」


あのときよりはリッチになった今も、渋谷の焼き肉屋には行っていない。

間違って入ってしまったら、俺は迷わずにキムチと白米だけ食べて帰るに違いない(でもおそらく1万円くらいしそう)。


このあと、マダムから始まったお金持ちの家庭教師は、紹介の連鎖が始まった。

「すっごくいい先生がいるらしいよ。」

「ポケットに赤ペン一本だけしか持って来ないんだって。」

尾ひれがどんどんついて紹介されていく。

期待値のハードルがプレッシャーとして増していく。

しかも紹介される度に、わらしべ長者のようにお金持ちのグレードも上がって行く。

「エビスガーデンプレイス」

「隣の住人が芸能人」

「エレベーターが開いた瞬間に玄関」

「必ず置いてあるグランドピアノ」

「不必要なほどの家族の写真立て」

知らない世界にも慣れてきた。


お金持ちから人気が出てきた俺だったが、塾に転換する日が近づいて来た。

そして俺は、すべての家庭教師をやめた。

ある日を境にして。

俺は「愛をこめて、みかみ塾」を地元に立ち上げたのだった…


そして俺は全ての家庭教師生活にピリオドを打ち、塾の仕事に集中した。

そう、2年半で生徒数が600人まで増えた俺の快進撃が始まるのである。

とにかく俺に休みはなかった。

週に7日間、びっしり授業がはいっていた。

もしも、俺が病気になったら補習を入れる予備の日さえどこにもなかった。


数ヶ月後、マダムからの電話が鳴った。

「せんせー。お元気?」

「はい。おかげさまで。あのときの焼き肉ごちそうさまでした。」

「それがねえ。せんせ。いい家庭教師を探してる家があるんだけどどうかしら?」

「いえいえ。僕、もう家庭教師やめたので。」

「でもね、せんせ?普通の家じゃないわよ。」

「ああ、僕、今の生活に満足してるんで。もう塾に集中します。」

「あの○○財閥よ?」

「あっ、行きます。」


見てみたい。

頂点の世界を…

生徒のみんな、すまん。

そこからの行動は早かった。


てゅるるるる てゅるるるる

「はい、みかみ塾です。」

「ああ、僕だけど。」

「みかみ先生、どうされました?」

「実は階段から落ちて入院することになっちゃって…」

「えー?どちらの病院ですか?」

「あー、心配するといけないんで、大丈夫。申し訳ないんだけど、あとの調整お願いねー。」

ガチャ。

やってしまった。

罪悪感。

しかも俺が授業を休むなんてことは今までなかったから、緊急事態の空気がたちこめる…


次の日、俺は羽田空港にいた。

そして黒い車がやってきた。

ロールスロイスだ!!!

お金持ちの送迎にはすでに慣れていた俺も、さすがにロールスロイスにはぶったまげた。

テレビに出てくる世界のように、白い手袋をした運転手さんが下りて来て、ドアを開けてくれた。

俺、どんだけすごい????

俺はお金持ちの家庭教師として、堂々たる振る舞いをするように心がけて来たのだが、さすがに限界だった。

「う…運転手さん。」

「ぼ、僕、こんなすごい車乗るの初めてなんで、ボタン押してみていいですか?」

車の中にはいろいろボタンがあって、どうしても押さずにはいられなかった。

ビーーン、グワーーン。

一つ一つを運転手さんに教えてもらいながら、ボタンを押してみた。


そして目的の家に到着した。

これが…

想像していた家と少し違っていた。

なんかこういくつかの家がくっついて一つになったような感じだった。

もちろん、富豪の佇まいだった。

奥様が出て来られた。

お金持ち特有のオーラ全開だ。

・お母さんというよりはお姉さんに見える。

・割と気さくな感じだけど、品がある(気がする)。

・服がこぎれい(きっと高い)。


家の中の傾向もいつもと同じ。

・グランドピアノの上に写真立て

・花が飾ってある


そして、奥様の説明が始まった。

その家には兄弟が3人いること。

1番上のお兄ちゃんには東大生の家庭教師。

1番下の女の子にも、なんかすごい感じの先生。

真ん中の僕の勉強を見て欲しいということだった。


で、なんで俺?

なんで俺がわざわざ山口県から呼ばれたの?

東大生の家庭教師でいいじゃん。

しかも俺の時給(そのときすでに10000円)や交通費を考えたら、東大生の方が絶対に安いはずなのに、なぜに俺?

その理由は詳しくは書けないのだが、すごく簡単に書いちゃうとちょっとだけ荒れている子だった。

宿泊は近所のホテルをとってもらったのだが、食事は何を食べても結構です。と言われた。

ダメでも仕方がないと言われたのだが、会った瞬間から俺はその子のことが好きだったので、なんとかその子の心の隙間に入れてもらうことが出来た。


授業しながら、

妹のペットはアヒルであること。

そして、裏口入学が存在していること。

下着はユニクロであること。

なんかを教えてもらった。


次回の約束をして、数日間の家庭教師を終えた。

よく勉強するいい子だった。

財閥には財閥のプレッシャーや責任があるんだなって思ったよ。

普通に生きてるんじゃダメなんだね。


次からは、その子が山口に来てくれるようになった。

俺が急がし過ぎたからだ。

これ以上書くと、当時の生徒達に「あっ、あの時の…。」ってバレちゃあいけないのでもう無理なのだが、結局、海外の高校に入学するまで、一緒に勉強し続けた。


お金持ちの家庭教師をいろいろやって思ったことは、お金持ちには2種類あること。

本当の金持ちと、一代で成功した成金タイプだ。

本当の金持ちは、普通のそこら辺にいるような感じの人であまり派手じゃない。

成金は、豪快でお金もわざと見えるところに使っている。


俺は、圧倒的に成金の方が好きだと思った。

人懐っこくて、人気があって…

成金はその人の魅力でなったものなのだ。

俺がもし成功したら、いかにも成金のように生きていこうって思った。


塾が上手くいくようになって買った車がベンツで、ベンツを愛しているのにもそういう理由がある。

アストンマーチンのような玄人っぽい高級車じゃなくて、ベンツだといかにもって感じでわかりやすいだろう。

本当のお金持ちは、すーっとアストンマーチンを乗りこなすと思うんだけどね、成金ってベンツに乗って、「どう?ベンツカッコいい?」ってわざわざ言うんだよね。

でもね、そのあと言うの。

「お前、乗ってく?」って。


今でも何人かのお金持ちとは相変わらずおつき合いさせていただいている。

この前の名古屋大学の出張なんかは、実はエンペラーからの依頼だった。

エンペラーとずっと一緒に新幹線に乗っていったのだが、いつのように俺が知らないアナザーワールドの話をいっぱいしてくれた。

レーシングカーの話、田んぼの話、いるかの話、秘密の話、タイの話、ヤクザの話…

俺はお金持ちの人達にいろいろ教えてもらって、いっぱい楽しくさせてもらって来た。


だから俺は思うわけさ。

俺もみんなと楽しくビッグになりたいって。

みんなで仲良くワイワイしながら、ビッグになっていくんだよ。

俺の仲間とね。

そして俺の生徒達にはいっぱいアナザーワールドの話をする。


俺のグループのヘッドのうちの二人は、元、俺の生徒だから。


そう、俺らはまだまだ夢に向かって進んでいく。


俺らは「愛をこめてみかみ塾グループ」って名前のグループだ!



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