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14/6/23

「夢」か「安定」か?〜超就職氷河期に2度内定を捨てた話し〜

Image by Olia Gozha

「はじめに」

僕が就職活動を行う2年前、リーマンショックが訪れて「超就職氷河期」に突入した。


バイト先の先輩が「あかん!全然内定もらわれへん。」「このままやと就職浪人や…」と悩む話を散々聞かされた。


その翌年、友達や同期の人たちの就活が始まった。僕は大学受験で一年浪人してたため、その様子を間近で見ることができた。


リーマンショック前に就活を行っていた先輩たちの話はそこまで深刻ではなく、「次は3次面接やねん!」「よっしゃ内定もらったわ!」と聞くことが多く、新しい世界に向けてステップアップしていく姿に憧れていた。


しかしこの年、状況は変わっていた。


バイト先でバリバリ仕事が出来てみんなを引っ張っていく友達が「まったく通らない」と悩む姿。


藁にもすがる思いで何十社も説明会を受けて、行きたくもない会社の面接を受ける友達の姿を何度も見た。


「あれ?就活ってこんなんやったっけ?」


僕がかつて憧れていた「夢に向かって」の就職活動は消えていて、テレビでも新聞でも悪いニュースばかり流れていた。


そして実際、僕の友達も思うように進まない就職活動に頭を悩ませていた。


「このままだとヤバイ!」


直感的にそう感じ、何とかしてでも実りある就職活動を行おうと大学2回生の僕は焦っていた。


まだやりたいことも、本気で行きたい会社も見えてなかった。


でもそんな僕にも一社だけずっと心の奥で気になっている会社があった。


それは僕が初めて感動を受けたインテリアショップを展開する会社だった。


「どうせ一生働くのなら、自分の好きなところで仕事をしたい!」


そんな思いは昔からあった。たぶんバイト先で活き活きとしていた先輩たちが、社会人になって苦しんでいる姿を見ていたから。


そしてまた、社会人になっても憧れた仕事に就き、活き活きと活躍している人たちの姿を見てきたからだと思う。


「来年はいよいよ自分が就職活動の年か!」


不安と期待を膨らませながら僕は大学3回生の春を迎えた。


そしてその年が自分の人生にとって一番のターニングポイントになるなんて、当時の僕に知る由もなかった。


「強敵現る!」


大学の授業はしょっちゅう逃げるくせに、3回生から始まる就活の場だけは敏感になっていた。


僕の年は「就活解禁」が10月1日の最後の年で、3回生の4月の時点ではまだそこまで就活モードの友達は居なかった。


ただ一人の強者を除いては、、、


春学期が始まり、いつも通り遅刻して教室に入ると、奥の席に見覚えのある姿があった。


「よっちゃん!」


その返事に向こうは少し驚いた感じでこっちを振り返って、「あ!いっしーやん!」と言ってくれた。


よっちゃんは1回生の頃に仲が良かった友達で、2回生になった時に専攻が分かれて会うことは少なくなった。


それでもたまに食堂で会うとサークルの話や恋愛の話などして盛り上がっていた。


「よっちゃんもこの授業取ってたんや!」久しぶりの再開とこれから同じ授業を受けれるという嬉しさで、授業そっちのけで話が弾んだ。


そんな時、ふとよっちゃんの手元にある本に目が止まった。


「なあよっちゃん、その本なんなん?」


「あぁ、これ?今度インターンシップ受けるところの業界本やで!」


インターンシップ?業界本??


詳しくその単語の意味を知らなくとも、就職活動に関わるもだということはすぐに分かった。


「よっちゃん!もう就活してるん!?」


「そやで!2回生の終わりにインターンシップ参加してからちょくちょく企業研究してるねん。」


衝撃だった。


周りの友達で就活を始めている人はおらず、少し早めに意識している自分はすごいと勘違いしてたのが恥ずかしかった。


でもそれ以上に既にインターンシップにも参加して企業研究もしているよっちゃんの話にはとても興味があった。


「よっちゃんどんな会社に行こうとしてるん??」


「俺はMRになろうと思ってるんよ」


MR?まったく知らない言葉に戸惑っていたら、よっちゃんが詳しく説明をしてくれた。


それは製薬会社と病院をつなぐ人たちのことで、自社で扱う薬を色んな病院に紹介する仕事。


そう、僕が進もうとしてる道とはまったく違う職業で、それでいて何やら難しそうな仕事だと思った。


だからよっちゃんが何故MRを目指そうとしているのかが気になった。


「なんでよっちゃんはMRになりたいん??」


「あ〜それなんやけどな、、、」


そこからよっちゃんは一生懸命にMRになりたいと思ったきっかけを話してくれた。


よっちゃんの親戚でMRの人がいて、たまたま家に遊びにきてた時に「お前はMRに向いてそうやな!」と言われたことがきっかけらしい。


そこから「MRってどんな職業なんやろ?」と興味が湧いて、色々調べている内に「なんか面白そう!」と思ったとこのこと。


「MRの親戚から話を聞いたり、インターンシップに参加する中でこういう仕事で人の役に立ちたい!って思ってん。」


そう話すよっちゃんの顔は輝いていて、僕は前方にいる教授の話は聞かず隣にいるよっちゃんの話を真剣に聞いていた。


あまりの真剣さに授業で使うノートによっちゃんの話をメモっていた。


「だから俺、○○製薬会社に行きたいねん!」


よっちゃんは最後にそう言った。


「製薬会社も色々とあるけど、みんな企業理念や特徴が違うからやっぱ行くんやったら自分の理念にあったところに行きたいわ。」


神だと思った。


自分が行きたい業界をしっかり持ってることにも驚いたのに、更にはその中で行きたい会社もはっきり持っている。


方や就活への情熱はあるものの、まだ何も始めていない自分。


「よっちゃんヤベエ、強者や!」そう心の中で思いながら、早くも先輩のよっちゃんに色んな話を聞いていた。


いつもは遅いと感じる授業のチャイムがこの日ばかりは早く感じるくらい、僕はよっちゃんの話を聞き入っていた。


「いっしーそんなに就活に興味あるなら就職支援センターに行ってみたら?」


「なに!そんなとこあるの??」


同じ大学に2年間も通ってたくせに「就職支援センター」という建物があることは知らなかった。


しかもそれは自分の学部の横にあるということではないか!


「あ〜、あの一階にレストランついてるとこ?」


方や就活のために2階の就活支援センターに通う友達と、その一階のレストランでのんきにランチを食べてる自分。


「相変わらずバカやな〜」と自分で思いながら、その日の帰りに僕は初めて就活支援センターに向かった。


いつも入るレストランは素通りして2階に上がると、そこには溢れんばかりの企業情報の資料とリクルート姿の3・4回生の姿があった。


「、、、なんやここ??」


そう感じるほど同じ校舎の中にあるにも関わらず、そこは異次元の世界だと思った。


チューターと話をするために順番待ちをしている学生、むさぼるように資料を読んでいる学生、OB訪問のために電話帳を開く就活生の姿など、、、


何やらただらぬ気配と必死さが伝わってくる環境だった。


「これが就活か、、、」


初めて見る光景に僕は足を止めた。


今年の10月、今度は自分がこの立場になるんだと覚悟を決めながら・・・



「初めてのインターンシップ説明会」


就活支援センターに来たものの何をすれば良いかわからず、僕は室内をさまよっていた。


というより初めて見るその光景に「自分は場違いかな?」なんて感じ始めていたが、場違いどころか今年は自分の番だ。


「来たからには何か掴んで帰ろう!」


そう思いとりあえずよっちゃんが話していたインターンシップについて調べることにした。


インターンシップとは企業が学生対象に行う「模擬就職」みたいなもので、自分の行きたい会社でどんな風に働いているか体験できるというもの。


ただ企業によっては説明会だけのところもあれば、一生雑用ばかりなとこもあるので当たり外れがある。


もちろんそこが自分にとって行きたい会社なら説明会でも雑用でも学べるものはあるだろうし、何よりそこで働く人たちに直接話を聞けるのは魅力的だった。


「どうすればインターンシップに参加できるのか?」


窓口で聞いてやろうと思ったが、リクルート姿ばっかりの中で私服の自分が乗り込むのには少し勇気が足りない。


悩みながら歩いていると、たまたま「インターンシップ」とデカデカと書いた広告を見つけた。


読んで見ると京都市が運営している就活支援センターでインターンシップの説明会があるという。


「ん!これだと参加できるんじゃないか?」


大阪在住で大阪の学校に通いながら何故京都まで行ったのかは謎だけど、これが僕の初めての就職活動になった。


あくる日、初めてのインターンシップ説明会に僕はワクワクしながらJRで京都に向かった。


「何をするのだろう??」そんなことを考えながら窓に写る自分を見てあることに気がついた。


「、、、俺、リクルートスーツちゃうやん!」


いつもの感覚で私服で家を出てしまったものの、今更戻ることはできない。


というより、、、


リクルートスーツなんてまだ持ってない!


目的地に向かう途中の青山でスーツを調達してやろうと思ったが、残念ながら貧乏学生にそんな財力はない。


それに私服で出かけた息子が帰ってくるなりリクルートスーツ姿に変貌してたら、僕の母親も違った意味で変貌するだろう。


「まあ、、、私服可って書いてるし今日はしゃーないか」


手元の資料には「私服で構わないのでリラックスして下さいね!」と書いていたので、今日ばかりは許して下さいと就活の神様?に祈った。


夕方6時ごろに京都につき、僕は急ぎ足で目的地に向かった。


開始は7時からなので時間的には余裕があったが、早めに会場に入って他の学生の様子も見たかったのである。


「全員リクルート姿だと俺だけ罰ゲームやな。」なんて思っていたが、会場についてみるとほとんどの学生が私服だった。


ほっと一息をついて席に座ると、テーブルの上には就活の資料が置かれていた。


パラパラとめくってみるとそこには「エントリーシートの書き方」、「企業研究の仕方」、「面接の極意!」みたいな感じで就活の大事なキーワードが飛び込んできた。


「とうとう俺も本格的な就活が始まるのか、、、」臨戦体制で19時からの説明会を待っていた。


意外と早くから就活を意識している学生は多くて、15分前には大教室の前方は埋まっていた。


「なんか色んな学生がいるな〜」と思っていると、講師らしき人が教授に入ってきて教室は静まり返った。


「今年の学生は就活への意識が高くて驚きますね!」そう話す講師は、京都の大学で就活支援センターで働く人だった。


2時間くらいの説明会はみな集中モードで、自分でも驚くくらい僕も集中していた。


おそらくこの集中モードで大学の授業を受けていれば、最後の年までフル単位で授業を取ることなく優雅に休みを満喫できただろうに、、、


今回はインターンシップの説明会ということで企業の方はお見えになっていなかったが、それでも講師の人が話してくれる内容にはすごく興味を持った。


「これから何をしていくのか?」「どんなスケジュールで動いていくのか?」という説明があったり、後半になると「ワーク」なるものもあった。


「それでは今からワークを行うので、みなさん隣の人とペアを組んで下さい!」


「なに、、、ワーク!?」と心の中で思いながらも、僕は隣に座っていた学生とペアを組んだ。


「ペアは組めましたかね?それでは今ペアになった人の第一印象で良かったところを伝えてあげて下さい。」


なるほど、どうやらこのワークは企業面接で第一印象がどう写るのかを事前にしるためのワークらしい。


僕がペアになった学生は「背が低くて少し大人しめの女の子」という印象だった。


それでは味気ないと思い、少し自己紹介もして話していたので「落ち着きがあって聞き上手ですね。」と伝えると照れくさそうに喜んでいた。


「これは違った意味でのポイントアップになるのでは?」などと思って浮かれていたが、次にその女の子が僕の第一印象を伝えてくれた時が衝撃だった。


おそらく本当に人見知りで話すことが苦手なのであろう、、、なかなか言葉が出ずに悩んでいる様子だったが、何とかして一言だけ伝えてくれた。


「、、、素敵なベルトですね。」


「そこかーーー!!!」予想外の言葉にどう反応して良いかわからずも、とりあえず「ありがとうございます!」と僕は言った。


しかし、第一印象が「素敵なベルト」になるとこれはマズイ!何故ならベルトは「サブ」でメインは「自分」だからだ。


それに今日は私服でリクルートスーツの時はこのベルトを装着できない。


ベルトのほうが存在感が強かったのか、それとも俺の存在感が薄かったのか、そこは追求したくないところだが、仮にベルトの存在感が強かったとしてもそれは問題だ。


人の存在感よりも強いベルトを身につけて就活をしようものなら、企業の人たちからすれば「就活生が来たぞ!」ではなく「ベルトが来たぞ!」みたいなことになる。


こうなってくると面接会場でも「え〜次の方は、、、ベ、ベルトですか?」などと言われてしまう。


しばし衝撃のあまり関西人特有のネタの思考が入ってしまったが、まあこんな日とあるだろうと僕は教室を出た。


まったく就活のことを知らずにきた僕だったが、この日を境に本格的に就活を始めることになったのである。


マスメディアでは毎日のように「超就職氷河期」と言われていて、波瀾万丈になるとは予想していたが、まさか人の2倍も波瀾万丈になるなんてその時の僕はまったく思ってはいなかった。

(つづく)

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