top of page

14/6/26

塀の中へ  最終回,Compensation and regeneration 償いと更生

Image by Olia Gozha

管理棟で最後にお話させていただく。

「無期懲役って10年ぐらいで出所できるのですか?」

根木技官「昔はあったようです。でも私の記憶の中で無期の人間が有期よりも短い刑期で出所したのは一人だけです。今は有期刑の最高が30年です。少し前は25年でした。無期は有期よりも重い刑ですから30年以下で出所することはまず難しいと思います。世間体が許さないでしょう」

刑法を調べてみると、入所後10年経てば仮釈放の権利が発生するらしい。それに基づいて仮釈放がなされていたようだ。

しかしこの世の中、勧善懲悪の風潮が強くそんな短期で出すなんて、もってのほかと言う声が強いらしい。

反面、そのために刑務所の定員もすべてオーバーしているという現実もある。


30年・・・私が今から入れば70歳。気の遠くなるような年数である。生きて出られるかどうかわからない。

根木技官「例えば病気か何かで獄死しますよね。こちらとしては親族に連絡します。すると『そちらで処分してください』って言われるんですよ」

・・・なんとも切ない話。

親なのか、子なのかわからないが、犯罪者の親族というだけで関わりたくないだろう。

でも、家族達がしっかり見守ってやれば彼は犯罪者にならなかったのかもしれない。。。

それは誰にもわからない。

根木技官「今、死刑廃止論が言われていますよね。もし終身刑がなく今のまま無期懲役が最高刑となった場合、今無期で服役している連中にストレスが掛かるのです」

世の中の情報がストレートに壁の中に伝わっている今、ある意味残酷なのかもしれない。

それだけの罪を犯した人間と言ってしまえばそれまでだが・・・


根木技官、川口技官に色々とお世話になったお礼をいい、刑務所を後にした。

なんだか、本当に釈放された気分になった。


その後、刑務所の前にある刑務作業即売所というところに立ち寄ってみた。

近くに住んでいた頃から存在は知っていたのだが、一度も入ったことがなかった。

今回、このようなご縁もあり最後の日に立ち用ってみようと思っていたのだ。


中にはいってみると、意外に広い。

ここの刑務所のものばかり売っているのだろうと思っていたのだが、全国の刑務作業のものが販売されていた。

たんすや椅子などの木工品はもちろん、財布などの革製品、醤油やうどんといった食料品、メモ帳などの印刷品、石鹸や歯磨き粉といったような物まで販売されていた。なんと神輿なんてものまで売っていた。


刑務所見学の記念品だろうか、「〇〇監獄」とかかれたメモ帳には笑ってしまった。きっと洒落が分かる人が企画し制作したのだろう。


比べるものがないからわからないが、そんなに高くないと感じた。人件費が安いのかもしれない。


そのお店にいらっしゃった方にお話を聞いてみた。

そのかたは刑務官のOBとのことで「何でも聞いてください。お話しますから」といってくれた。

「今、塀の中から出てきたのですが思ったより緩い気がしたのですが?」

OB「そうでしょう。やはり外国人を受け入れてから雰囲気が変わりました。日本人ばかりの時はそんなことはありませんでしたよ」

「受刑者が出てから、仕事はあるのでしょうか?」

OB「難しいでしょう。今、大学を卒業しても就職するのが難しいんだから。やはり懲役と言うものを受けた人間の現実は厳しいですよ。塀の中で肩で風を切っている人間でも娑婆に出たら役に立たず、舞い戻ってくる人間が多いんです」

「そうなんですか・・・」

OB「私が刑務官の頃には、こう言っていました。その辺にいる犬や猫には自由がある。おまえらは自由がない。犬猫以下であると」

「厳しいですね」

OB「奴らは、人を見て接することがあるんです。刑務官でも上官のいうことなら聞くが、学生あがりの若い刑務官のいうことを聞かないことがあるんです。立場をわきまえさすためにこんなことを言っていましたね」

「なるほどですね」

OB「昔は、大学を卒業したようなエリートは刑務官なんて来なかった。今は来ますよ。単なる就職先として」


私は公務員などとても目指そうなんて考えたことなどなかったが、公務員の中でも人気、不人気はあるらしい。その中でも刑務官は不人気という。夜勤もあるし、体力もいる。接する人間たちは、みな犯罪者達・・・


確かに、私はなりたいとは思わない。というか務まる自身がない。

様々な思いのまま、即売所を後にした。


この一週間、色々と貴重な体験をさせていただいた。

民間人が説明のためにこれだけの期間、塀の中に入っていくというのはかなり珍しいことらしい。


国というもの、犯罪というもの、人間というもの、法律というもの、色々と考えさせられた。

おかげで、私の人生観というものが少し変わった気がする。


なるべく多くの人に、この現実を知って欲しい。

目をそらさずに見て欲しい。

そして、考えてみて欲しい。


明日、あなたが塀の中へ入ってしまうかもわからないのだから・・・

※登場人物名は全て仮名です

つづきの物語→

PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

急に旦那が死ぬことになった!その時の私の心情と行動のまとめ1(発生事実・前編)

暗い話ですいません。最初に謝っておきます。暗い話です。嫌な話です。ですが死は誰にでも訪れ、それはどのタイミングでやってくるのかわかりません。...

忘れられない授業の話(1)

概要小4の時に起こった授業の一場面の話です。自分が正しいと思ったとき、その自信を保つことの難しさと、重要さ、そして「正しい」事以外に人間はど...

~リストラの舞台裏~ 「私はこれで、部下を辞めさせました」 1

2008年秋。当時わたしは、部門のマネージャーという重責を担っていた。部門に在籍しているのは、正社員・契約社員を含めて約200名。全社員で1...

強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話

学校よりもクリエイティブな1日にできるなら無理に行かなくても良い。その後、本当に学校に行かなくなり大検制度を使って京大に放り込まれた3兄弟は...

テック系ギークはデザイン女子と結婚すべき論

「40代の既婚率は20%以下です。これは問題だ。」というのが新卒で就職した大手SI屋さんの人事部長の言葉です。初めての事業報告会で、4000...

受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

僕は、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、政治社会科学部(Social and Political Sciences) 出身です。18歳で...

bottom of page