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14/6/23

塀の中へ 7,Dream and reality 夢と現実

Image by Olia Gozha

金木先輩には悪いが、佐藤さん和口さんと例のトルコライスのお店へ行ってみる。

12時30分というのに店内は超満員。

店員「すみません、満席で・・・」

と席を探すような様子も無く、あまり商売っけもない感じ。

こんなに流行っていたっけ?と不思議がりながら、まだ今週ずっと来るからいいやと思い、別のお店へ向かった。


エンジニア2人は作業が終了したため、昼からは金木先輩と合流して塀の中に入った。


一階の入り口で待っていると、目つきが鋭い2人が手錠と腰縄を付けられて門をくぐって行った。


正直驚いた。


根木技官に聞いてみると、新しい受刑者が入る方法はまちまちらしい。

人数が多いとバスで運ばれる場合もあれば、今日の様に徒歩で門をくぐって入る場合もあるとのこと。


彼らが、どのような事をしてここに来て、いつまでいるのかは知る由もないが、こうやって目の当たりにすると、やっぱり色々と考えてしまう。


トボトボ歩いて、印刷工場到着。

実は工場は2階建てになっており、2階は縫製工場との事。ただ、2階の人々とは全く会う事がなかった。


中に入ってしまうと意外と普通な工場風景なので、しばらくいるとここが刑務所だという事を忘れてしまう。


ヒルマンさんがバタバタと忙しいので、谷田さんと少しお話をする。

谷田さん「実はぼく、長距離トラックを運転していてF社の機械を運んでいたんですよ。だからF社の機械には愛着があるんです」



なんと彼は、私どもの機械を運んでいた。

間接的ではあるが、彼のお世話になっていたらしい。

でも、なんで君はここにいるんだ?

谷田さん「この機械を覚えたら、外に出たら仕事いっぱいできますか?」

真剣なまなざしで、目をキラキラしながら聞いてくる。

「正直、この機械を覚えるだけでは難しいですね。DTPのソフトの使い方を覚えて、デザインセンスを身につければそこそこ仕事はあるでしょうが、印刷自体が減って来ていますから、なかなか厳しいですよ。」

谷田さん「えっ!!そうなんですか!!外の世界って印刷が減ってるんですか?」

「減ってますね。これから印刷屋さんはどんどん減りますよ」

谷田さん「そうですか・・・」

少し、現実を突きつけたようでかわいそうな気がした。

「でも、谷田さん。印刷は減っていますがパソコンを使ったお仕事はどんどん増えます。ここに配属されてデジタルプリントに出会えた事は、すごくラッキーですよ。現にこの工場でもこの仕事にまず取り組めるのは、ヒルマンとあなたでしょ。これを必死で取り組んだら、きっと良かったと思える時が来ますよ」

谷田さん「そうですか。わかりました。がんばります」

私は、DTPの世界にいた事で今の仕事にありつけた。

どん底から這い上がれたのだ。

そのような体験を少しでも多くの人たちに、伝えたいと思っている。

会社の後輩にも同じような事を行っているのだが、同じようなことをここで言うとは思わなかった。


会社で言うのと、少し重みが違う。


もう一つ、食事のことを教えてくれた。

谷田さん「ここの朝食はパンが出るんですよ。ここで焼いている」

「へぇ。ここで焼いているんですか」

谷田さん「ええ。たまにレーズンとかチョコチップとかありますよ。だからこの刑務所人気があるんです!!」

いやいや、人気があっても入りたくない。

しかも人気があるって、いったいどんな世界で人気があるんだ???


そんな話をしていると、ヒルマンさんが戻って来た。

再び、オペレーションが始まる。

ところが、今日は14:30で終了する。

結局ろくろくオペレーションも出来ない間に終わってしまった。


この日は入浴の日だ。

まだ夏時間なので週に3日の入浴日がある。

入浴日は、14:30で作業が終了する。


昼過ぎで終わって、風呂に入る会社があるもんかと思ったりもする。


根木技官、川口技官とともに塀の外へ。

歩きながら、興味深い事を伺う。


根木技官「考えてみて下さい。例えば、あなたが短い刑で同じ部屋の連中が短い刑期の人間ばっかりだったとする。すると、あなたはもらったお菓子を皆に配るでしょう。お世話になりましたって。今度は、あなたが無期で周りも全て無期だった場合、今度は逆に皆があなたにお菓子を渡すのです。おめでとうって」

なんとも深い話。。。

人間の奥深い感情を教えられた気がした。


毎回、伺うたびに色々と考えさせられ毎回考え方が変わる自分に驚く毎日であった。

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Image by Jukka Aalho

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