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14/6/22

塀の中へ 6, image イメージ

Image by Olia Gozha

9月28日

この日のオペレーションは午後からの予定だったのだか、機械の調整があり午前9時から入る事になった。

私とエンジニアの佐藤さん、和口さんと3人。

初めて、朝から作業中の工場に入る。


昨日の作業風景と何ら変わらない。

何十年とこの風景が繰り返して来たのだろう。

皆、黙々と淡々と作業を繰り返している。


ヒルマンさんは昨日と同様、忙しそうに動き回っている。すっかりこの工場のエースだ。

彼がいなくなったら、たちまち作業が滞るらしい。


機械の調整は、エンジニア2人に任せて、私は技官と話をさせて頂く。


この刑務作業というもの、地域の企業や官公庁と契約をした物を製作し、納品して成り立っている。

刑務所内には59もの工場があり契約業者数は87業者にものぼる。


管理棟の事務所には、売上目標の張り紙も貼っている。売上の使用目的は、ほとんど国庫に納められるらしい。


一部は犯罪被害者支援団体に助成されているとのこと。


当然、世間の景気によって受注できる数が決まってくる。人件費がかからないように思えるが、場合によっては、中国やベトナムの方が安い場合もあるらしい。

よって、刑務作業自体が全体的に減っているようだ。


それにしても、そこまで人件費を削って海外で物を作らす日本人って、一体なんなのだろう?

自分たちで、自分たちの仕事を奪っているのがわからないのだろうか?


受刑者側から刑務作業を見てみる。

様々な作業があるのだか、受刑者達が作業を選べる訳ではないらしい。

入所時に適正検査を受けて、刑務官が決めているとの事。

「ここに来る前に印刷の仕事をしていた人っているのですか?」

根木技官「いないですね。すべてここで覚えています」

「へぇ。ヒルマンさんもですか?」

根木技官「そうです。彼もです。コンピュータもここで覚えました。最初は指一本の打ち方から始めました」

「へぇぇ。すごいですね。で、逆にここを出所してから印刷の仕事に就いた方っているのですか?」

根木技官「・・・それがいないんです。本当は社会更正の為に仕事を教えて目的もあるのですが、なかなか難しいですね」

「・・・」


理想は、ここで習得した技術を世間で、娑婆で使える事何だろうと思う。

ところが、世の中そんなに甘くない。


彼らの動きを見ていると、隣のエリアへ向かうときに必ず刑務官の許可をとっている。で、誰かに話しかけるとき、帽子をとって話しかけている。

「あれは何かの合図ですか?」

根木技官「ええ。勤務中話しているという事を分かりやすくするためのルールです。早く言えば、指導しやすくするためですね。昔はあんなことをしなくても良かったんですがね」

やはり、色々とルールが存在する。

そういえば、私に対して気さくに話しかけられることもなかった。

むやみに話しかけることを禁止されているということか・・・


そうこうしているうちに、お昼の時間となった。

物々しく号令と点呼が始まり、皆一斉に工場内にある休憩室に入って行った。食事の為である。

と、一番奥をみるとテレビがついている・・・


「あれは、生放送ですか?」

根木技官「そうですよ」

「えっ!そうなんですか!検閲後の再放送とかじゃないんですね。。。」

根木技官「ええ。確かに以前まではそうでした。ところが今は違うんです。外の情報を遮断する理由が無くなったんです。何の為に遮断するのか、それを答えられなくなった。だから見せているのです」

「へぇ。知りませんでした」

根木技官「新聞だって一日15分ですが読めますよ。もしかしたらあいつらの方が僕たちより世間の事を知っているかもしれない」

「なるほど」

根木技官「今、2700名ほど懲役していますが、中の10名ぐらいは中から電話をかけることができるんですよ」

「えっ??」

根木技官「ある程度懲役が長くて、行いがよくて、みんなに認められないといけませんが」

「塀の中から電話がかけられるんですか!すごい時代ですね」

根木技官「そう。時代です。以前は隔離だけを考えれば良かったのですが、この時代そうはいきません」

時代・・・


私が考えていた刑務所イメージは、名前は取り上げられて番号で呼ばれ、シマシマの服を来て、薄汚い所で、まずくて臭い飯を食べて、情報も遮断され、自由も剥奪され、時にはひどい仕打ちを受けて・・・



幼稚だがそんなイメージだった。


全くではないが、イメージが異なった。

まず、シマシマの服は来ていない。

モスグリーンとグレーの非常に清潔な作業服を着ている。シマシマの服は海外ではないかとの事。


番号はあるが、中ではみんな名前で呼び合っている。外国人のヒルマンさんがあだ名で皆をあだ名で呼んでいたのは、なんだかおかしかった。


じっくりとご飯を見た訳でも、食べた訳でもないが美味しそうなにおいは漂っていた。


世間の情報は前述の通りどんどん入ってくる。

この事がいいのか、悪いのかは誰もわからない。


自由は剥奪されている。でも裏返すと管理されていて見守られている気がしないでもない。


時には懲罰もあるらしいが、私はもちろん目の当たりにはしていない。



食事が終わると、受刑者達は工場内で何やら柔軟体操を始めた。今度の金曜日に運動会があるらしい。

この印刷工場はなんと2連覇しているらしく、今年も優勝を狙いに行くとの事。


練習が始まったようなのだが、我々は邪魔をしない様に昼食の為に塀の外に出て来た。

本当は、受刑者と一緒に食べてみたかったのだか・・

それは、許されるはずもない。


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