オペレーションとは、機械の操作とか運転とかいう意味だが、我々の会社では操作説明の事も含まれている。

9月27日 午後1時~
いよいよオペレーションが開始となった。
この日は、搬入した門からでは無く、事務所に集合してから根木技官と川口技官とともに塀の中に入る事になっていた。
今日は、金木さんと販売店の山勝さんも一緒に入ってくれた。
この山勝さんという人、非常に強面で技官からも
技官「いつでも中に入れたるで」
と言われる位なのだか、いざ塀の中に入るとものすごく大人しくなったのが印象的だった。
もしかして、本当に入っていたのかな?
管理棟の丁度真ん中大きな壁画の下、1階から壁の中への入り口がある。
外の門は一重だがこちらは二重。それも必ずどちらかが閉まっていなくてはならないようだ。
小さなスペースになっており、刑務官がいる。
管理区域への立ち入りは、刑務官のボタン操作でしか入れない様になっている。
外の入り口でもらったバッチを刑務官に渡し、管理区域用の黄色い腕章と引き換えられる。
いよいよ、管理区域である。
先日の設置時とは違い、受刑者がいっぱいいる。
あっちこっちで行進していたり、なんだかわからないが並んでたりする。
ついに来たか!といった感じを受ける。
障害者の受刑者も見受けられる。
彼らはいったい、何をしたのだろうか?
受講してくれる受刑者は、谷田さんとヒルマンさんである。
販売店の重樫さんにお伺いしていた優秀な受刑者と言うのはヒルマンさんの事。もちろん日本人ではない。確か、インドネシア人だったと思う。
ただ、アジア系の顔なので違和感はない。
谷田さんは、気が弱そうな人の良さそうな人で、ヒルマンさんにしても、谷田さんにしてもなんでここにいるのかわからないぐらいの人柄。
根木技官「彼ら、犯罪者に見えないでしょ。なんでこんなところに来たのか、私もわからない事があります…」
どのように挨拶をすればいいのかわからないまま、オペレーションに入る。
ヒルマンさんは、噂通りきびきびとした動きで仕事をしている様子。対照的に谷田さんは、なんだかおどおどしている。
今、ヒルマンさんに業務の負担がかかっているため、このデジタル印刷機は谷田さん中心に考えているとの事。
もう一つの理由は、あまりにもヒルマンさんが仕事ができるため、周りのやっかみに巻き込まれかねない。この仕事もヒルマンにさせると、こいつをなんとかすれば国が困るであろうと考える奴がいないでもない。
だから分散させるのだという事。
なんとも、人間関係が複雑な世界である。
工場の中には、技官と刑務官がいる。
最初、違いがわからなかったのだが作業を管理しているのが技官で、人間を管理しているのが刑務官だと言う事がわかる。
刑務官は、いつも少し高いところから睨みをきかして受刑者達を監視している。
腰には拳銃らしきもの・・・ある意味おっかない人だ。
この人の笑顔は最後まで見たことはなかった。
ただ、作業している姿を見ていると思っていたより皆生き生きと仕事している。
思ったよりも、緩い雰囲気で和やかだ。
張りつめるような緊張感と言う訳でもない。
とくにヒルマンさんは、人懐っこい笑顔で話しかけてくる。
本当に、なんでここにいるのだろうか?
聞ける訳も無く、テキストに従ってオペレーションがすすむ。
谷田さんも最初は不安そうだったが、一つ一つかみ砕いて説明すると、なんとかついて来てくれている様子。
あっという間に予定の2時間が終了する。
刑務作業には残業がない。
どんなに仕事があっても、その時間には終わらなくてはならない。
なので、通常の印刷物よりも長めの納期の印刷物しか受注できないとの事。
また、それぞれのエリアの仕事を均等に作らないといけない為バランスを考えるのが難しいとの事。
一日目が終了し、管理棟の事務所まで戻る。
そこで根木技官、川口技官と色々とお話しするのが恒例となった。
正直、明るく綺麗な設備で生き生きと働けて残業も無く、ご飯や仕事や寝る所まで与えられいい環境かもしれないと思った。
私「思ったより、快適ですね」
根木技官「そうでしょう。緊張感がないでしょう。昔は監獄法と言う法律だったのですが、今は刑事施設法と言う法律に変わりだいぶん緩くなりました」
私「そうなんですか!」
根木技官「ええ、名古屋で起きた事件が引き金で法律まで変わってしまいました」
名古屋の事件とは、名古屋刑務所で受刑者に向けて消防用ホースで放水し死亡させてしまった事件とのこと。
根木技官「昔は、悪い事をする奴には一日立たした上で、飯を半分に減らしたりしましたが、もし今そんな事をすれば大変な事になります」
私「なんだか、学校崩壊と同じ話ですね。保護者の目を気にしすぎて先生は何も出来なくなってしまった・・・」
根木技官「そうなんです。学校の先生とお話しする事もありますが、ものすごくわかりあえますよ。そのうち僕たちは、受刑者を懲役様と言わなくては行けない世の中になるかもしれないですね」
なんだか、この国が良くなったのか悪くなったのかわからなくなった。

