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13/3/1

初めて通った声優養成所/老舗のスパルタ教育・その3(全5回)

Image by Olia Gozha

もちろん、勝田学院長も厳しかった。

生徒のほとんどは、大学生やフリーター、社会人になりたての20代前半の若者ばかりだったのだが(中には高校生もいた)、そんな中に一人か二人くらい、社会人経験を十分に積んだ、20代後半のサラリーマンなんかもいた。

そのサラリーマンは、夢を捨てきれず一念発起。

時間と金を作って仕事の合間を縫い、この学院に飛び込んできたのだが、お世辞にも芸が達者とは言えなかった。

滑舌の酷さもすさまじく、それゆえ、芝居もいまいちに聞こえてしまうのである。

そんなリーマン生徒に向かって学院長が一言。

「 な ぜ 君 は こ こ に 来 た の ? 」

リーマン生徒、固まる。

しばし間を置いた後、理由を真摯に語る。

しかし学院長はバッサリ返答。

「せっかく社会人として立派に働いてきたのに、わざわざ苦労してこんな世界に入ることはない。君はサラリーマンの方が向いているよ。さっさと辞めて元の生活に戻りなさい」

「そんな酷い!」と、思われる方もいるかもしれない。

が、学院長の真意は、将来のある若者に、自分に一番合った道を今一度きちんと考え、選んで歩んでほしいということなのである。

このリーマン生徒の他にも同じようなことを言われていた生徒がいた。

有名大学に在学中の生徒だった。

「君、せっかく素晴らしい大学で勉強しているのだから、そのまま就職すれば素晴らしい将来が約束されているだろうに、なぜここに来た?君は芝居よりも研究職の方が向いている。辞めなさい」

(注:今から15年前の話なので、社会情勢は多少違う)

学院長にそう言われ、実際辞めていった生徒もいた。

が、「なにくそ!」精神で学院に残る者もいた。

この学院長の言葉が、一番最初の「ふるい」というわけだ。

かなり大きな網目のふるいだが(笑)、

そんな段階で落ちてしまうようでは、やはりこの世界には向いていない。

と同時に、辞めた生徒達は、懸命な選択をしたと思う。

向いていないのにいつまでも時間と金を無駄にするという、不毛な道を歩むことを、自ら断ち切ったのだから。

中には、「学院長はそう言うけれど自分は本当はもっとできるんだ!」という思いから、別の養成所に行く者もいた。

そうこうしているうちに三ヶ月が経った。

最初の入学時に学院長が言ったとおり、

クラスの人数は、3分の2に減っていた。

〜続く〜

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Image by Jukka Aalho

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