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14/6/2

大嫌いだった父が亡くなった日 第1回

Image by Olia Gozha

夢の中で電話が鳴っている


2012年9月30日の朝。

電話が鳴っている。

「今 何時?」

「・・・こんな時間になんやろう?」

まだ寝ていた私は鳴り続ける電話に、ふと嫌な予感がした。

階段を降りている途中でインターフォンが鳴る。


慌ててモニターを確認するとおまわりさんがいる!


これはただごとではない!


そっと玄関の戸を10センチほど開けると

おまわりさん「今井 香さんですね。お父さんが救急車で運ばれました。お母さんは一緒に乗って行かれたのでお家の鍵を閉めに来てください。」

「・・・・・!?」

けたたましく電話が鳴リ続けている。




顔も洗わず とにかく着替えながら


「落ち着いて。とにかく落ち着いて。大丈夫。大丈夫やから。」


何度も何度も繰り返し自分に言い聞かせる。



実家に着いて震える手で実家の玄関の鍵を閉め、すぐさまタクシーを拾おうとバス通りに出た。



進行方向に走りながらタクシーが来ないか何度も振り返って見る。

気持ちばかりが焦って、ちっとも前に進まない。


やっぱりこんな日が来た。


覚悟できてたん違うの?

わかってたやん。


タクシーの運転手さんは行き先を聞いた後 ずっと黙っている。





母に会う



タクシーの運転手さんは何も言わず、救急入口に車を着けてくれた。



長い廊下を何回か曲がったら ベンチに母がひとり座っていた。


「あぁ アンタ来てくれたん・・・」



つい今さっき 先生から心臓マッサージを30分続けたがどうやら難しそうだ

と話があったという。



いくら心臓マッサージをしてもらって心臓が動いたとしても

脳梗塞を何度かして人工透析もして肝臓も悪い父が

その後保たないだろう。

だから心臓マッサージを止めてもらおうと言った。

・・・お父さんがかわいそうやからと。


「・・・そやな。今度先生が出てきはったらそう言おう。」


朝方父の大きないびきが止まったので口元に手をかざしてみたら

息をしてへんかった。これはおかしいと思って救急車を呼んだ

・・・今朝の出来事を落ち着いて話してくれた。

私はよく母が気がついて電話をして救急車を呼べたもんだと驚いた。

なかなかとっさに行動できるものではないから・・・


私もここに来るまでの経緯を話した。


ふたりとも妙に冷静だった。




そうこうしていると処置室の扉が開き、先生が出てこられた。

「娘さんですか。ああ良かった。どうぞお入り下さい。お母さんも。」


父が横たわっている。看護師さんが心臓マッサージを続けている。

先生「えっとですねこれは心臓マッサージと言ってですね・・・」

「先生。あの 私 看護師なんです。そやし分かります。ありがとうございます。もうやめて下さって結構です。」


先生も看護師さんもハッとして、私を見た。


父の胸から看護師さんの手が離れた。




父の側へ行き、いつもの顔色をした父の腕に触れた。

まだあたたかい。


「お父さん 香 来たよ。長いことよぉ頑張らはった。お疲れさまでした・・・」

「お父さん もう頑張らなくっていいんだよ。」



心臓が止まってもしばらくは聴力が残ると言う。

父に聞こえただろうか。

母と私の声は・・・



検死そして家宅捜索


診察後24時間以内の死亡については、病院で医師に看取られたとしても

死亡診断書は書いてもらえないことになっている。

父は警察へ検死に行かなければならないと告げられた。

どのくらい待っただろう。



父とは別に母と私は迎えに来た警察の車に乗り、家に戻った。

さっきのおまわりさんが2人いて、家の中を見せて欲しいと言う。

刑事さんが台所のテーブルで母と私から、事情を聴き始めた。



さっきのおまわりさんが2階も見せてくれと言う。

「父が亡くなったのは そこの寝室ですけど?」

おまわりさん「犯罪の可能性がないか調べていますので、お家のすべてを見せてもらいます。」



父の病歴から始まって、家の中の鍵の置き場、預金通帳をどこに仕舞っているか

収入や生活まで こんなことまで聞くんや!

刑事さんが普通の人だったことが救いだった。



物やお金がなくなっていないか

母に通帳や鍵をすべて出させて、指を指すように言いカメラに収める。



私は別に暮らしていたので、母に質問が集中する。

記憶が曖昧になっている母に何としてでも思い出さそうとする刑事さんに

「もう勘弁してやって下さい。思い出せへんと思います。そこハッキリさせな犯罪の可能性が否定できませんか?」

何度も言わなければならなかった。


2時間ほどそんなことをしていただろうか。


「どうやら犯罪の可能性はありません。お気を悪くなさらないで下さい。これが警察の仕事です。」



警察が帰っていった後、早朝から飲まず食わずだった私達はお茶を飲んだ。

空腹感はなかったが、食べなければならなかった。

するべきことが山ほどある。








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