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14/5/29

【投稿テスト】シミ。2

Image by Olia Gozha

プロローグ

『ユキは浮気されたらどうする?別れる?』



別れる、簡単に。


そう答えていた。


幸せだった頃の

傷を負った事のない


自分は。


01出会い。

「あ、ねぇ!…前会ったよね……?」

ユキ「多分違います……」



友達と二人で来たカラオケの駐車場。

深夜1時。

ナンパにしてはあまりにもベタな台詞だな…と思いながら

私は声をかけてきた二人連れの男達にそう答えた。


友人は『ナンパですか?』と、面白そうに笑っている。

しかし彼らは、友人の台詞に一瞬硬直し、顔を見合わせる。


「ナンパ……?いや、まじで会った事あるよ!ちょっと俺の顔見て!」

そう言われ、チラッと彼の顔を見ると


……確かに、見覚えがあった。

ユキ「会った事ある……かも……」


「ほら、ナンパとか失礼な!……でも、どこだっけ?」

確かに見覚えはあるものの私も思い出せず

そのまま皆でしばらくああでもない、こうでもないと話し


それから全く違う話題に変わったりと何故か話は盛り上がり

気付いたら、朝方になっていた。


正直、この夜の会話は楽しかった。

不思議な程に会話が弾んだし、よく笑った。


結局、その場では以前どこで会ったのかは解らないままだったけれど

朝方、解散の流れになった時、また話したいな……と、考えている自分がいた。


そんな時。


「ねえ、これはナンパだと思われても仕方ないセリフかもしれないんだけどさ……。また話さない?電話番号聞いたら怒る?」



彼を見ると

正直、見た目は軽そうな印象があったのに、その目には少し緊張の色がうかがえて

不覚にも、少し可愛い…と思ってしまい


ユキ「いいよ」

私は戸惑うこともなく、返事をしていた。

「まじで!うわ……、良かった!なら近々ご飯誘うね!」

ユキ「おいしいモノお願いします……!」

本当に嬉しそうにしている彼に

私もまた話したいと思っている気持ちは隠し

冗談っぽく返事をする私。

そしてその日は、解散となった。



2003年8月中旬

運命の出会いだった。



色んな意味で。




***




それから3日程経ったある日。彼から初めてメールが来た。

名前すら知らない彼を

私は携帯に【ナンパ】と登録していて

【メール受信:ナンパ】

と表示された画面につい笑みがこぼれる。


【覚えてる?よね?今日暇ならご飯行かない?】


私はすぐに、行くと返信し

不思議な程テンションが上がっている自分に戸惑った。


【良かった、断られたらどうしようかと思った!19時に前会ったトコで良い?】


そんな素直な返信は

私の鼓動を更に高鳴らせていく。



***



時間通りに着くと、既に見覚えのある黒いRV車が停まっていた。

隣に停めると、彼は気付いて車から降り、軽く片手を挙げる。

「おー!」

そんな仕草につい笑顔になってしまった私は

そんな彼を真似て、小さく片手を挙げた。


彼はこれから4年

会う度必ずこのしぐさをし続ける。


わたしの大好きなしぐさのひとつだった。



***



「乗って!」

そう言われ、私は彼の、少し車高の高い車に必死で乗り込む。

スカートは失敗だったなぁ……と、自分のブサイクな乗り方に苦笑している私を見て、彼も笑った。


そして、ようやく車を発進させた彼に

私は唐突に質問を投げる。

ユキ「あの…、名前は?」

簡潔であまりにぶっきらぼうな質問に

彼は小さく吹き出しながら、私にチラリと視線をくれた。

「純」

ユキ「純……くん、ね」

「キミは、ユキちゃんだよね。前にそう呼ばれてたし」


私が頷くと、彼は前を向いたまま満足そうに微笑み

それから10分ほど、車を走らせた。


そして車を停めたのは、ダイニングバーの前。

エンジンを切ると、彼は少し照れくさそうに私に視線を合わせる。


「前さ、おいしいモノお願いしますって言ってたじゃん?俺全然そういう店知らなくてしばらく悩んじゃって……。結局職場の大学生から聞いたの。ここ。」

あんな、適当に言った言葉を気にして店を選んでくれた事に、まず感動した私。

全く格好付けずに“人から聞いた”と明かす所にも、かなり好感を持ってしまった。

ユキ「ごめん!あれはノリで言っただけで……。正直私、ラーメンとか定食屋とかお好み焼きとか大好きな庶民なんだけど……。気を遣わせてごめんね」

必死で謝ると、彼はまた笑う。

「考え過ぎか俺は。ちなみに俺もラーメンとか超スキ」

ラーメン話ですっかり打ち解けたけれど

せっかく悩んで選んでくれたんだし、ということで

私たちは予定通りダイニングバーに入った。


中は思ったよりも静かで

ちょっと浮いちゃうんじゃ…と不安になる程の大人の雰囲気に一瞬身構えたものの。


私たちの会話は途切れず

すぐに不安などどこかへいってしまった。


純くんは、注文を追加する度に、使われている食材が苦手じゃないかどうか私に確認をしてくれ、

普段、そんな風に女の子扱いされ慣れていない私にはくすぐったくて

新鮮な気持ちになったし

嬉しかった。



それから

食事もほとんど済んで

でも会話は絶えず、かなりの時間が経過した頃

ユキ「そういえば、私に“ちゃん”付けなくていいよ。なんだか慣れなくて恥ずかしいし。ユキで良いよ、皆そう呼ぶから」

私が何気なく言った言葉に、純くんは突如、考え込む仕草をした。


ユキ「どうしたの?」


「あ、……うん。俺ね、女の子を呼び捨てした事ないから逆にちゃん付けさせて貰えたら嬉しいんだけど。って感じの会話をさ前にも一回した事無い?俺ら」

ユキ「え……?」

確かに私には、同じ様な会話をした記憶があった。

でも一体いつ…?ドコで…?

全く思い出せない。

すると、純くんは何かを思いついたように、私と視線を合わせた。

「ねえユキちゃんさ、去年の冬、スポーツショップのスノーボードツアーに参加しなかった?」

その瞬間、私の記憶が一気にフラッシュバックする。

ユキ「行った!!まさかあの時の?あれって純くん!?」

その時ようやく

“以前にどこかで会った”記憶が私たちに戻って来た。


昨年冬、確かに私は友人がバイトする某スポーツショップのスノーボードツアーに参加した。


そこには上手な男の子がいて

私は感心しながら眺めていたのを覚えている。


食事の時、その人がたまたま近くに座っていたわけだが

その時、名を名乗る程度の自己紹介と、2、3会話を交わした。


“俺女の子を呼び捨てにしたことなくて。”


あの時私はそれを聞いて

なんだか可愛い人だなぁと、感じていた。

ユキ「なんか…ベタなドラマみたい……」

「ほんと!ベタ!!でも事実だからびっくりだよね」

記憶を取り戻した私たちは、古いドラマにありそうなベタな展開に大声で笑いながら

更に、会話は盛り上がる。

そして気付いた時には、深夜0時をゆうに超えていた。

「遅くなっちゃってごめんね。そろそろ帰ろうか」

その言葉に、自分でも戸惑う程にテンションが下がってしまう。


これじゃまるで、好きみたいじゃないか、と

ふと浮かんだ発想を、あわてて頭の隅に追いやり

私はあくまで平静を保ち、頷いた。


***


車に乗り、再び会話を続けていると

車はすぐに、待ち合わせた場所へ到着する。

ユキ「えっとー、じゃあ、今日はありがとうね」

逆に不自然な程アッサリと車を降りようとした私。

すると、純くんは慌てて、私を引きとめた。

「あ、待って……、えーっともーちょい…俺が一本煙草吸う間だけ話し相手してくれない?」

私は一瞬驚いたけれど、そんな動揺を笑ってごまかす。

ユキ「あはは!なにそれ!でも煙草吸う間って……ほんと、数分じゃん。」

可愛げの無い事を言っていると自覚をしながらも

純くんの言葉にドキドキしてしまっている自分を隠す為には

そんな方法しか思いつかなかった。


そして

ほんの数分。

……の、つもりが結局それから30分くらい車の中で話は続いた。


その時純くんは自分の事を色々話してくれた。

ホームセンターに勤めている事。

10年くらいスノーボードをやっている事。

それから

長く付き合った彼女と年明けに別れたという事も。


知り合ってまだあまり経っていないというのに

深い話まで語ってしまうこの状況は、本当に不思議なもので


そもそも、普段積極的に交友関係を広げる事をしない自分が

こんなに心を許して会話している。

それは本当に、あまり経験の無い感覚だった。


***


そして、ついに深夜1時をまわった頃。

いい加減帰らないと、という話になり、ようやく私は車から降りた。

「ねぇ!俺いつでも暇だからさ暇な時いつでも誘ってね。俺も誘うから。…おやすみ!」

去り際に言われたこの言葉に、私は大きく頷く。



ついに独りになった帰路で

久しぶりの不思議な感覚に、動揺していた。


すごく、すごく、楽しかった。

こんなに話してもなお、まだ話したいと思っている自分がいる。


これって

……もしかして。


いや……でも。


ひとり百面相になりながら、ハンドルを握る。




私自身、長く付き合った元彼と別れてだいぶ経つ。

恋愛始めの感覚なんて

正直思い出せない。


だから

これが何なのか、よくわからない。




………はず、だ。




***



翌日。


仕事から帰ると、家には誰もいなかった。

よくある事だし、慣れている。


でも、なんとなくその日は落ち着かなかった。

昨日が楽しかっただけに、余計寂しさを感じてしまう。


しばらくテレビを見ながらぼーっとしていると

ふいに、携帯が鳴った。


【メール受信:ナンパ】


名前登録変更するの忘れてた……と、込み上げる笑いを抑えながらメールを開くと


【今閉店しました。もう少しで帰れる…。】


という何事でもない内容だったので、私はほほえましく思いながら【お疲れ!】と返信した。

すると、その10分後。


【着信:ナンパ】


「おー。終わったー。……まあ用事なんか無いんだけど……。何してたの?」

電話を取るといきなり勢いよく話し始めた純くん。

私の寂しさは一気に吹き飛んでしまった。

ユキ「んー…っと、ぼーっとしてた」

「嘘!?予定無し?」

ユキ「……うん」

「……暇なら誘ってって言ったじゃん。ごはん行こ」

ユキ「え?」

まさかそんな言葉が返って来ると思ってなかったので

私の頭の中は真っ白になった。

ユキ「……昨日も行ったよ?」

嬉しい癖に探る様な言い方をするのは、きっと私の癖なんだろう。

「昨日も行ったね。……今日も行こう」

ユキ「いいの?」

「うん。なんかユキちゃん声が沈んでるよ。…行こ」

なんとなく、気を遣わせてしまったかなと思ったけれど

そんな気遣いも本当に嬉しくて、私は大きく頷いた。


***


それから

昨日と同じ様に待ち合わせをして、私達はラーメン屋へ行った。

カウンター席で並んでラーメンを食べる姿は全然色気の無いものだったかもしれないけれど

私はすごく満足していた。

ユキ「うちは夜誰もいない事多くて。慣れてるんだけどやっぱ寂しいよね」

ふと、そんなことをぼやいてしまった私に

純くんは少しの間沈黙して、それからまた、笑顔を向ける。

「明日は何食べようか」

ユキ「明日も!?」

大笑いしながら私は


確実に

この人の存在が自分の中で大きなものになり始める、予感のようなものを感じていた。



***



それからというもの

私達は、ほぼ毎日待ち合わせして食事するようになった。


時々映画のレイトショーへ行ったり

カラオケへ行ったり


毎日毎日。


どれだけ一緒にいても足りない。

別れた瞬間に会いたくなる。


もう

さすがに自覚していた。


私は

たった10日程の短期間で

純くんを好きになってしまった、ということを。



***



人を好きになる、というのは幸せな事だけど

幸せと同じくらいに、不安もつのるものだ。


失いたくない、という気持ちが強いほどに。


だから

自分から好きだなんて、とても言えなかった。



しかしある日

私達の関係は大きく変化する。


それは

私の職場で毎年恒例のバーベキュー大会が行われた8月の末。



純くんと出会って半月あまりが過ぎた


夏の、終わり。

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