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14/5/28

【投稿テスト】シミ。

Image by Olia Gozha

プロローグ





『ユキは浮気されたらどうする?別れる?』



…別れる、簡単に。

そう答えていた。


幸せだった頃の


傷を負った事のない


自分は。


01出会い。


『あ、ねぇ!…前会ったよね……?』



いとこと二人で来たカラオケの駐車場。

深夜1時。



ナンパにしてはあまりにもベタな台詞だな…と思いながら

私、ユキは『たぶん違います。』と答えた。


いとこは

『ナンパですか。』

と、面白そうに笑っていた。


彼らは二人組で、いとこの台詞に一瞬硬直したものの、すぐに答えた。


『ナンパ……?

いや、まじで会った事あるよ!ちょっと俺の顔見て!』


そう言われ、チラッと彼の顔を見ると

確かに見覚えがある……。


『会った事ある……かも……。』


私は、思った事をそのまま口に出してしまっていた。


『ほら、ナンパとか失礼な!

でも、どこだっけ?』


確かに見覚えはあるものの私も思い出せず

そのままいとこ達も交えてしばらくああでもない、こうでもないと話して


それから全く違う話題に変わったりと何故か話は盛り上がり、気付いたら朝方になっていた。



正直、この夜の会話は楽しかった。

不思議な程に会話が弾んだし、よく笑った。


結局、その場では以前どこで会ったのかは解らないままだったけれど

朝方、解散の流れになった時

また話したいな……と、考えている自分がいた。


そんな時。


『ねえ、これはナンパだと思われても仕方ないセリフかもしれないんだけどさ……。


また話しない?電話番号聞いたら怒る?』


と、彼が言った。



彼を見ると

正直、見た目は軽そうな印象があったのに、その目には少し緊張の色がうかがえて

不覚にも、少し可愛い…と思ってしまい

私は


『いいよ』


と、答えた。


すると彼の目の色がパッと明るくなり


『まじで!うわ……、良かった!

なら近々ご飯誘うね!』


と、本当に嬉しそうに言うので


私もまた話したいと思ってる…って事はあえて表情には出さず


『おいしいモノお願いします。』


と、冗談っぽく返事をして、解散した。




2003年8月中旬

運命の出会いだった。


……色んな意味で。





それから3日程経ったある日。

初めてメールが来た。



……ちなみに

まだ名前すら聞いていなかったので、私は携帯に

“ナンパ”

と登録しており


【メール受信:ナンパ】


と表示された時はさすがに笑った。


内容は


【覚えてる?よね?今日暇ならご飯行かない?】


というシンプルなものだった。


私はすぐに


【行く!】


と返信した。



まだ一度話しただけの相手なのに

不思議な程テンションが上がった。


キモいな……私は……。と思いながら、早速洋服を選んだ。


そして


【断られたらどうしようかと思った(笑)19時に前会ったトコで良い?】


…そんな返信は

鼓動の早まる心に追い撃ちをかける。




時間通りに着くと、既に見覚えのある黒いランクルが停まっていた。


隣に停めると、彼は気付いて車から降り


『おー!』


と、軽く片手をあげた。

私は自然に笑顔になってしまい


『おぉ…。』


と返した。



……彼はこれから4年

会う度必ずこの台詞としぐさをし続ける。

わたしの大好きなしぐさのひとつだった。




それから


『乗って!』


と言われ、少し車高を高くしてある車に必死で乗り込む私。

スカートは失敗だったなぁ……と、自分のブサイクな乗り方に苦笑している私を見て、彼も笑った。


『ごめん。乗りにくいでしょ。』


それから車は発進して、ようやく落ち着いて会話が出来る状況になり

私はまず、ひとつ質問をした。


『あの…、名前は?』


簡潔でぶっきらぼうな質問に

彼は吹き出して


『純。』


と、これまた簡潔に答えた。


『純…くんね。』


彼は目尻にシワを寄せて笑い


『きみはユキちゃんだよね。

前そう呼ばれてたし。』


と言った。


車は10分程走り、純くんはとあるダイニングバーで車を停めた。


『前さ、おいしいモノお願いしますって言ってたじゃん?

俺全然そういう店知らなくてしばらく悩んじゃって……。

結局職場の大学生から聞いたの。ここ。』


あんな、適当に言った言葉を気にして店を選んでくれた事に、まず感動してしまった私。

全く格好付けずに“人から聞いた”と明かす所にも、かなり好感を持ってしまった。


『ごめん!あれはノリで言っただけで……。

正直、ラーメンとか定食屋とかお好み焼きとか大好きな庶民なんだけど……。

気を遣わせてごめん……』


と必死で言うと


『考え過ぎか俺は。

ちなみに俺もラーメンとか超スキ。』


と、笑ってくれた。


少しだけ打ち解けた私達だったが

せっかく悩んで選んでくれた店だし

再会記念…という事で、私達はそのダイニングバーに入った。


中は静かで

当時の若い私達はちょっと浮いてるんじゃ…と不安になる程、大人の雰囲気だった。


でも

案外話は弾み、私達が仲良くなるのに、全く時間はかからなかった。


純くんは、注文を追加する度に


『これ、苦手じゃない?』


と確認してくれて

私は、女の子扱いしてくれてる…という、男社会で育った私には新鮮すぎる扱いに

くすぐったさを感じた。


…嬉しかった。





食事もほとんど済んで

しかし話だけは絶える事無くかなりの時間が経過して


何気無く私が


『そういえば、私に“ちゃん”付けなくていいよ。

なんか慣れなくて恥ずかしいし。

ユキで良いよ、皆そう呼ぶから』


と言った時。


純くんが突然

何か考え込む様な仕草をした。


『……どうしたの?』


心配になって聞くと、純くんは静かに


『あ、うん……』


と言って、それから


『俺ね、女の子を呼び捨てした事ないから逆にちゃん付けさせて貰えたら嬉しいんだけど。

…って感じの会話をさ

前にも一回した事無い?俺ら』


と言った。


『ん…………?』


確かに私には

同じ様な会話をした記憶があった。


誰と…?

ドコで…?



『ねえユキちゃんさ、

去年の冬、スポーツショップのスノーボードツアーに参加しなかった?』


突然の質問に私は一気に記憶がフラッシュバックした。


『…ああ…!行った…!!!

あれって純くん!?』


その時ようやく

“以前にどこかで会った”という記憶が私たちに戻って来た。


昨年冬、確かに私は友人がバイトする某スポーツショップのスノーボードツアーに参加した。


そこに物凄く上手な男の子がいて

私は感心しながら眺めていたのを覚えている。


食事の時、その人がたまたま近くに座っていたわけだが

その時、名を名乗る程度の自己紹介と、2、3会話を交わした。



“俺女の子を呼び捨てしたことなくて。”


あの時私はそれを聞いて

なんだか可愛い人だなぁと、感じていた。



『なんか…

ベタなドラマみたいだね……』


と言うと

純くんは大きな声で笑った。


『ほんと!ベタ!!

でも事実だからびっくりだよね。』


それから

そのツアーの話やスノーボードの話でさらに盛り上がり

気付くと時刻は深夜0時を超えていた。


『遅くなっちゃってごめんね。

そろそろ帰ろうか』


と言われた瞬間

なんだか急激にテンションが下がった。


…まるで

好きみたいじゃないか…。


でもそんな簡単に

好きになるわけないし…。


私はそんな自分に戸惑いを感じながらも

悟られない様に


『そうだねー。帰ろっか』


と、答えた。




車に乗り、今度は静かに会話を続けていると

すぐに車は待ち合わせた場所へ到着した。


『えっとー、じゃあ、今日はありがとうね。』


と、降りようとすると


純くんがあわてて


『あ!ちょっと待って!』


と言うので

びっくりして振り返ると彼は


『あーー…えーっと

もーちょい…

俺が一本煙草吸う間だけ話し相手してくれない?』


と言った。


『あはは!なにそれ!

いいけど…

でも煙草吸う間って…数分じゃん。

ゆっくり吸わないとスグだよ!』


サラっと可愛げの無い返事をしながらも私は

本当は少し

ドキドキしていた。



煙草を吸う間の数分。


の、つもりが

結局それから30分くらい車の中で話は続いた。


その時純くんは自分の事を色々話してくれた。


ホームセンターに勤めている事。

10年くらいスノーボードをやっている事。

それから

長く付き合った彼女と年明けに別れたという事。


私も自分の事を色々話した。


…正直

普段あまり交友関係を広げる事をしない自分が

こんなに心を許して会話しているという事実に

自分自身が一番驚いていた。



深夜1時をまわった頃

いい加減帰らないと、という話になり

ようやく私は車から降りた。


自分の車に乗ろうとした瞬間、純くんが突然助手席の窓を開けて言った。


『ねぇ!俺いつでも暇だからさ

暇な時いつでも誘ってね。俺も誘うから。

…おやすみ!』


私は大きく頷いてエンジンをかけた。


独りになった帰路で私は

久しぶりの不思議な感覚に動揺していた。



すごく

すごく

楽しかった。


まだ話したいと思っている自分がいる。


これって


もしかして。


………いや


いや……でも。


と、ひとり百面相になる。


私自身、長く付き合った元彼と別れてだいぶ経つ。

恋愛始めの感覚なんて


正直思い出せない。


だから


これが何なのか

よくわからない。



………はず、だ。






その後は一回ずつメールをやり取りして眠りにつき

翌日。



仕事から帰ると

家には誰もいなかった。


よくある事だし、子供の頃から慣れている。


でも、なんとなくその日は落ち着かなかった。


昨日が楽しかっただけに、余計寂しさを感じてしまう。


しばらくテレビを見ながらぼーっとしていると

携帯が鳴った。


【メール受信:ナンパ】


…あ…名前登録変更するの忘れてた……


と、込み上げる笑いを抑えながらメールを開くと


【今閉店しました。もう少しで帰れる…。】


…という何事でもない内容だったので


私は【お疲れ!】と返信した。


すると、その10分後。

今度は着信があった。


【着信:ナンパ】





『おー。終わったー。

……まあ用事なんか無いんだけど……。

何してたの?』


電話を取るといきなり勢いよく話し始めた純くん。

私の寂しさは一気に吹き飛んでしまった。


『んー。

ぼーっとしてた』


『嘘!?予定無し?』


『……まあ』


『……暇なら誘ってって言ったじゃん。

ごはん行こ』


『……え?』


まさかそんな言葉が返って来ると思ってなかったので

私の頭の中は真っ白になった。


『……昨日も行ったよ?』


嬉しい癖に探る様な言い方をするのは、多分私の癖なんだろう。


『昨日も行ったね。……今日も行こう。』


『良いの?』


『うん。なんかユキちゃん声が沈んでるよ。…行く?』


なんとなく、気を遣わせてしまったかなと思ったけれど

それが本当に嬉しくて私は


『うん』


と返事をした。


『でもラーメンね!』


『うん!』




それから

昨日と同じ様に待ち合わせをして、私達はラーメン屋へ行った。


カウンター席で並んでラーメンを食べる姿は全然色気の無いものだったかもしれないが

私はすごく満足していた。


なんとなく


『うちは夜誰もいない事多くて。慣れてるんだけどやっぱ寂しいよね。』


と言うと

純くんはしばらく黙って


それから


『明日は何食べようか。』


と言った。


『明日も!?』


大笑いしながら私は




確実に

この人の存在が自分の中で大きなものになり始める、予感のようなものを感じていた。





―それからというもの

私達は

ほぼ毎日待ち合わせして食事をした。


時々映画のレイトショーへ行ったり

カラオケへ行ったり


毎日毎日。

どれだけ一緒にいても足りない。


別れた瞬間に会いたくなる。


もう


さすがに自覚していた。


私は

たった10日程の短期間で

あっという間に


純くんを好きになってしまっていた。



好きになる…

というのは幸せな事だが

それに比例する様に

相手の気持ちが気になってくる。


友人に相談したら


『そんだけ会ってて何が不安なの……。

もう純くんだってあんたの事好きでしょ……。』


と、呆れながら言われたのだが、その時の私はそれでも不安だった。


それほど

失いたくない、という気持ちが強かったんだと思う。


だからこそ

自分から好きだなんて

とても言えなかった。



しかしある日

私達の関係は大きく変化する。




それは

私の職場(洋服屋です)で毎年恒例のバーベキュー大会が行われた8月の末。


純くんと出会って半月あまりが過ぎた

夏の、終わり。







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