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14/5/13

時を超えるラブレター②

Image by Olia Gozha

父はどうやら自分の命が絶たれる寸前まで、

僕がプレゼントした財布を大事に大事に使ってくれていたようだ。


中に見慣れないカードのようなものが入っていることに僕と母は気づく。


真っ白な2つ折りの、ちいさなカード。


何だろう?


僕も母も不思議に思って開いてみる。




・・・・・・・・・・・・・・・・



紀美弘さん


いつまでも初めて出逢った時の心を忘れないで、

私を愛してください!


鳳子より



・・・・・・・・・・・・・・・・




母は、わっと驚き、

そして涙を流した。


何とそれは、今から30年近く前のバレンタインの日に、

母が父に贈ったラブレターだったのです。



母は言う。

「あの人こんなものまだ取ってたん、もう。」


言葉ではそうは言ってたけど、

母はとてもうれしそうにその手紙を握りしめていた。


きっと、父にとって大事な宝物だったんだ。

30年の月日が流れた今でも、その手紙は傷ひとつなく、きれいなままだった。



そしてまた、この瞬間に、

なぜ母がこの広い世界でたったひとり父という人を選び、生涯を共にしてきたのかが、

すこしだけわかったような気がした。




それから僕はまた東京に戻った。


実家に母ひとりを置いてきてしまったため、

心配でしょうがなかったし、実家に戻ろうかとも考えた。


そんなある日、母と電話で話しているとき、母はこんなことを言った。



・・・・・・・・・・・・・・・・


あたしね、もうさびしくないよ。

毎日何をしてても、あの人を感じる。

朝起きてでかけるとき、あの人が明るく送り出してくれる。

疲れて帰ってきたとき、あたたかく迎えてくれる。


だから最近おうちに帰るのがすごく楽しみ。

あったかくて、とってもやさしい時間が流れる。


あたしは大丈夫。

何かあればきっとあの人が助けてくれるから!


・・・・・・・・・・・・・・・・



何故だかこのとき僕もすごく安心したのを覚えている。


東京でもうすこしだけ、がんばろう。

素直にそう思えました。





30年前のラブレターが、時を超えて今僕らを包みこんでくれた。


時間も、距離も、ましてや生死という概念さえも、

どうやらこの2人の邪魔はできないようだ。


互いを想う2人を見て、

僕はここに生まれてきたことを心から感謝した。



そして、感じた。



結婚っていいものなのかもしれないな、と。





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