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14/4/19

平凡な会社員が、“脳出血で倒れて働き方を考え直した”話【第六回】

Image by Olia Gozha

救急病院に別れをつげるとき

突然の脳出血で12月に救急病院に入院してから20日程度が過ぎた。CTを撮っても脳幹で脳出血が起こっていることしかわからず、原因は依然不明だった。

出血の影響で既に色々なところに障害が出ていた、自分で認識していた症状は、右半身麻痺、左目の外転神経麻痺、左耳難聴、激しい目眩と嘔吐、唇の麻痺、嚥下時に感じる障害など…とにかく右半身がほぼ動かなくなっていたので寝たきり生活を余儀なくされた。

入院していた病院は、救急病院だったので回りは事故などで骨折した人が大半だった。入院ベッドでこっそり携帯電話を掛ける人も多く、通話先の人に骨折したことを嘆く声がよく聞こえてきた。隣の人はホームセンターの駐車場で原付きに乗るとき不注意で転んでしまい、骨折したようだった。

そんな声を聞きながら僕は思っていた。

「骨折なんて大したことないやん。絶対復帰できるしな。こっちは復帰できるかどうかもわからんちゅうのに…」

どんどん悪化していく症状と仕事に復帰できるかどうかもわからない不安に囚われて、いつしか人を羨むような思いを抱くようになっていた。まるで人生の不幸を一身に背負っている気になっていたのだ。


12月は僕の誕生月でもあった。

誕生日をこんな状態でベッドの上で過ごすことになるなんて、これっぽっちも想像していなかった。人生一瞬先は闇とはよく言ったものだ。

誕生日ということで家内は自宅近くのよく行くケーキ屋さんで、僕の好物のモンブランを買ってきてくれた。いつもは誕生日だからってこんなことはしてくれないのだが、家内にも思うところがあったのだろう。晩御飯を家内に食べさせてもらった後、二人でケーキを食べることにした。

この夜、食べたモンブランは一生で一番美味しかった。生涯忘れることはないだろう。


家内が帰り一人になった誕生日の夜、だれかがTVでM1グランプリを見ている音が漏れ聞こえてきた。

僕が入院してからも世間は何事もないかのように時は流れているようだ。僕はここに取り残されたまま、誰からも忘れらさられ、必要のない存在になってしまうのだろうか…。

人生で初めて、こんなに複雑な思いをした2009年の僕の誕生日はこうして終わった。


僕はとにかく襲い来る数々の身体障害に体力的にも精神的にも疲れ果てていた。

また、この病院ではストレッチャーごと入れるお風呂もなかったので、1ヶ月近くお風呂に入っていないこともまた体力を奪うことに拍車をかけていた。このままで本当に良くなるのだろうか?

「体力の限界っ!気力もなくなり…(by千代の富士)」

家内と義理の両親は、一向に良くならない僕の容態と救急病院では設備が不十分で脳出血の原因が判明しないこともあり、転院を考えてくれていた。

救急病院の先生の紹介で家内は大学病院に何度か出向いてくれた。入院患者が多くてなかなかベッドの空きがなかったのだが、ついに転院の知らせが届いた。転院日は12/28。大晦日が近づきつつあったころだった。

転院の日。僕は目眩のせいで起き上がれない状態だったので、救急車で大学病院へ向かうこととなった。救急車に乗ることも人生ではじめての経験だ。吐き気を抑えるために肩に激痛の筋肉注射を注射された僕は、ストレッチャーごと救急車に載せられた。

救急車に載せられるとき、一ヶ月ぶりに外の空気を吸うことができた。外はもうすっかり冬の寒さになっていた。

今度、外の空気を吸う時は自分の足で立っていられるのだろうか?

<つづく>



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