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14/4/16

雑誌を作っていたころ(01)

Image by Olia Gozha

「ラ・レクラーム」

 最初に「雑誌」と名のつくものを作ったのは、大学5年(!)のときだった。医学部の5年生ではない。理学部化学科で3年生を2回やっていたのだ。

 ぼくは広告研究会というクラブに所属していたのだが、何年かぶりに機関誌を出そうという話になり、留年して大学に残っていたぼくと、同じく留年中だった物理科の西村の2人が編集部員になった。雑誌のタイトルは「ラ・レクラーム」。フランス語で「広告」のことだ。わが学習院大学広告研究会は、伝統として機関誌にこのタイトルをつけていた。

 たった2人のど素人が作るにしては、B5判平綴じ124ページというのはかなりの重量級コンテンツだった。中でも年間テーマであった「カセットテープの青年層における動向調査」と題した30ページの論文は、もう1人の編集部員である西村の力作。部員を総動員して実施した市場調査の結果分析を微に入り細をうがつマニアックさで展開したものだ。この雑誌は、これが載っているだけで存在価値を高めた。

 当時、学生が何か活字で出版しようとすると、活版でも写植でもない「タイプ印刷」というスタイルがコスト的にお決まりだった。表紙まわりはグラフィックと広告だから今と変わらない雰囲気だが、本文を見るとやはり時代を感じる。奥付の発行日は、昭和53年(1978年)7月1日だ。

 それでも広告研究会なので、広告だけは頑張って営業した。表2は博報堂と第一広告社、表3はキッコーマン、表4は電通である。中面にはこちらで版下を製作した地元商店の角雑広告を12本入れた。広告収入だけで制作費を捻出したのだから、学生の仕事としては立派なものだと思う。

 しかし制作は難航した。とにかくぼくも西村も、出版のことは何も知らない。原稿用紙の使い方にしたって、小学校で習った以上の知識はない。段落の初めは1字下げるのだが、カギ括弧の場合はどうするのか。字送りの都合で行頭に「!」や「?」が来てもいいのか。あらゆることが不明なまま、印刷屋の親父さんにいちいち教えてもらった。

 校正にしても、どう記入したらいいのかわからない。今ならささっとできることが、当時は何時間もかかったものだ。まあ、知らないというのはそういうものだ。

 タイプ印刷の直しは、簡単な修正ならホワイトで消して打ち直すのだが、字送りや行送りが変わると全面打ち直しになる。当時の和文タイプライターには記憶装置などないから、完全なやり直しだ。そのことを知ったとき、あまりの非効率さに愕然とした。活字というスマートな外見とはうらはらに、出版とは恐ろしいほどの労力を必要とする仕事であることが、ほんのちらりとだが垣間見えた。それは鳥肌が立つような強烈な印象だった。

 だが、将来自分がその方面の仕事に就くなどとは微塵も思わなかった。今も昔も、勘の悪い男だったのだ。ともかく、「ラ・レクラーム」は何とか世に出すことができた。これがぼくの関わった雑誌第1号だった。



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