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14/4/16

もう粉々に、音もなく堕ちていったバカ 8

Image by Olia Gozha


優希は仕事が終わり店を出た。


優希は考えていた。


ハーブ吸いてえ....


でもまだ吸い続けていいのか。

この前は飲みに行ってぶっ倒れたし、

俺は依存している。


ネットの某掲示板でこの前見た。


ハーブで依存なんかしねーよwww

酒と同じ感覚だろw

好きだから飲む。

好きだから吸うだけだし。

依存って言われるとムカつくよなww


優希はこのレスを見たとき胸が苦しくなった。

この人が言う気持ちもわかる。


ただこの人も毎日ハーブを吸っているようだった。


そう。依存しているのだ。

本人が認めたくないだけで、酒と同じカテゴライズしている。


依存と言われて何がムカつくか。

それはハーブを吸っていることの

何が悪いのか。何でダメなのか。


根本的にこの人も優希も

わかってないからだ。


そんなことをふと思い出していると

ラインが鳴った。大智からだ。


お前んちの近所にハーブ屋

できたんだってさ。仕事終わったか?

ちょっと行ってみねえ?


優希は一瞬嬉しくなった。

行きたいと思った。ただ考える。


本当にいいのか.....

自分自身の身体や心が壊れかけてるのは

自分自身でしっかり感じている。

このまま吸ってて本当にいいのか...


ただ優希には根本的になんでハーブを

吸うことがダメなのかわからない。

某掲示板のあのレスと同じような

感覚なのは確かだ。


店の外に置いてあるベンチに座り、

タバコに火を着けた。


どうする....俺....


んー...でも吸いてえ....

確かに酒と同じ感覚だしなぁ...

いつかやめたらいいよな別に..

それが今じゃなくたってな..


優希はラインを開いた。


どこで待ち合わせしよっか


大智からすぐ返信。


お前んちから近いからお前んちでいいよ


了解と優希。


嬉しくようなどこか後ろめたいような

気持ちで優希は家に戻った。

大智はもう家の前にいた。


おし。行くか。


大智の車に乗り10分。


ここだよー。と大智


本当に近所にあるんだな...

店舗ができるぐらい全国的に広まってるんだな。と思うと優希は少し安心した。


優希『ついに店舗までできたのね』


大智『知らねーの?とある県ではハーブの自販機まであるんだよ』


優希思わず苦笑い。


大智『悪いやつ多いよねー。ハーブの店舗やら自販機やら全国的に今あるんだから』


と何故か嬉しそうに言う大智の後ろを歩き、2人は店に入った。


いらっしゃいませー


と言う店員。目がなんかおかしい..


ハーブを吸うと目が赤くなったり

目尻が下がったりする。


こいつ仕事中に吸ってんだろ..


と思いながら、ディスプレイケースに

並べられているハーブを見た。


20種類ほどのハーブが並べられている。


大智は店員に聞く。


どれがお勧めなの?


『そうですねぇ..第一世代のハーブは規制されて今販売できなくてですねぇ..』


規制?どういう意味だ?

販売できない?

薬事法に引っかかるようになったのか?


大智『あーそうだよね。トロピカルシナジーとかジーニーとか好きだったのになー』


店員『でも第二世代のハーブもいいのありますよー。サムライキングとかホットスタッフとか人気ですけどねー』


大智『ふーん。優希どうする?俺サムライキング買うからホットスタッフ買ってみるか?』


優希『おん。いいよわかった。』


店員『ありがとうございます。1パック5000円ですので1万円お願いします。』


1パックというのは3gのことで、

ハーブが入ってある袋のことだ。

どの銘柄のハーブも大体3g入りに

なっている。


一人ずつ5000円を出し購入した。


大智の車に戻り、2人して早速

ハーブをパイプにつめた。


2人して着火。深夜の街に車の窓から

濃い煙を外に吐き出す。


10秒ほどお互いに沈黙が続いた。


大智『いいじゃん第二世代も!』


優希『うん全然いいじゃん!』


大智は車のオーディオのボリュームをあげてノリノリで車を走らせた。


この前仕事の接待でさあ、事務の女の子つれて行った帰りに女の子が飲み直そうとか言ってきてさあ


などとよくある若者の話を大智がしていると大智に着信が入った。


はーい。お疲れー。

うん。うん。

...........

え?マジで?アホすぎるだろ。


大智は爆笑していた。


うん。ありがとー。またな。


優希『ん、なんかあったの?』


大智『祐介警察に捕まったってさ』


優希『え?なんで?』


大智『あいつ結婚して子供できてたじゃん?なのにハーブに依存しすぎて、仕事もしなくてさ。』


優希『仕事してなかったのかよ。子供までできたのに』


大智『んでね?嫁さんも何回もハーブ辞めさせようとしたけど辞めなくてね。ハーブのせいかなんか知らんけど仕事もすぐ辞めるし、離婚したんだよね』


優希『は、はあ..』


大智『あいつ嫁の実家の近くに住んでたんだよ。嫁のお父さんの離れみたいなとこでね。そりゃあもう追い出されるよね』


優希『あいつ帰る場所あんの?小さい頃両親離婚して母親についたけど母親は再婚して、けど祐介はその再婚した父親とは反りが合わないらしいじゃん』


大智『そうなんだよ。だからあいつさ、色んなもの万引きして売りさばいてたみたいなのね。その金で漫画喫茶泊まったりハーブ買ってたんだよ。』


優希『カスかよ』


大智『逮捕された直接的な原因は、ハーブ吸っておかしい状態で、服屋でブランドものの服とか?万引きして走って逃げたらしいのね。』


優希『ほう』


大智『そしたら若い男の店員が走って追いかけてきて祐介を捕まえたのよ。そしたら祐介がその店員を殴った。事後強盗ってやつか』


優希『マジかよ....窃盗に傷害か。でもあいつ捕まってよかったのかもな。あれだけハーブに溺れて人生堕ちたんだから。』


大智『同感だな』


優希『嫁さんも子供も可哀想だよほんと』


大智『まあまあいいじゃないかそんな腐ったやつの話は!もう着くぞー』


優希『お、ありがと。どうする?家上がってく?』


大智『おん1時間ほどお邪魔するわ』


2人は家に入りリビングに座った。


優希『やっぱりハーブっ社会問題になりつつあるのな』


大智『まあ規制されたしな。でもハーブはなかなかなくならないよ』


優希『そなの?』


大智『ハーブってのは合成カンナビノイドっていうのが葉に染み込ませて乾燥させてあるんだよ。』


大智はパイプにハーブを詰めながら話を進める。


大智『でも厄介なのが、化学式を少しいじるだけで何千もの合成カンナビノイドができる。要は、規制されては新しい合成カンナビノイドを作り、規制されては作りの繰り返しのイタチごっこになる』


優希『あーなるほど。悪いもの作りますよねー人間は』


ちょうどハーブを肺に入れた大智は吹き出した。


大智『お前そう言いながら笑ってるじゃん』


優希『なんだったっけ。JWホフマン博士だっけ?合成カンナビノイド作ったの』


大智『JWホフマンって!名前からしてもう危ない人じゃん』


何故か2人は爆笑している。

ただこのどうでもいいことで

笑うことは凄く好きな時間だった。


そう。吸えば忘れている。


ハーブに溺れて、嫁子供に見放されて堕ちた男のこと。

自分自身もハーブに依存しており、

ハーブが好きで、ハーブに

悩んでいること。


自分自身と向き合うということを忘れさせているということに気付かなかった。


頭の中はハーブを吸いたい。

それだけだ。

吸っている時間はもちろん、

ハーブから覚めたあとも頭が回らず

そうこうしているうちに

またハーブを求める。


自分自身が堕ちていくレールにもう乗って徐々にスピードをあげていくことに、まだまだ気付けないでいた。 


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