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14/4/19

嫌い…ツナとグリンピースと母

Image by Olia Gozha

2.人形の骨組み

小学校を卒業して中学生になった少女は、長身でハツラツとした女の子に育っていた。その頃からだろうか…。少女はツナが大嫌いになっていた。そもそもあまり食卓には出てこなかったツナ。少女がその匂いに出会ったのは、紛れもない、子猫を飼いはじめたときだった。猫用のエサ…つまり猫缶は、ほぼほぼがツナであり、匂いは人間の食べるそれとかわらない。少女は最初に猫缶の匂いを覚えたため、ツナ缶が人間の食べるものではないと認識をしてしまったのだ。少女のツナ嫌いは酷く、匂いだけで吐き気をもよおしていた。もちろん、猫にエサを与える時は、息を止め、鼻をつまみながら与えていた。クラスにも慣れ、友達も増えて、その日はいよいよ入部する部活を決める日だった。その日の朝、なぜか食卓にはツナがあった。少女は全く口にする事はせず、匂いが充満した部屋を急いで出た。

(なんか今日は嫌な予感がする…。朝からツナなんか出すからだよ…。悪い事が無いといいな。)

学校までは片道20分程で、登校中には自然と仲の良い友達が並んで歩いていた。ツナのおかげで少し憂鬱気味ではあったが、少女の思考はすぐに次へと進んでいた。

「ねーねー!何部にするか決めた?」

ワクワクした気持ちを全面に表しながら、友達がたずねてくる。

「まだわかんないなー。でも、ドッヂボールやってた時の先輩に、バスケ部入らないかって誘われてるんだよね。」

少女はその長身から、自然と運動部の先輩から声がかかる事が多かった。ソフトボール、バスケット、バレーボールと、いろいろと声がかけられていたが、特に仲の良い先輩から毎日のように誘われていたのはバスケットボール部だった。

その日の授業はなんとなく集中出来なかった。自分が何をしたいのか、何を得意とするのか…そんなこと、少女は今までに考えたことが無かったのだ。頭の中でいろいろなことを妄想した。妄想は好きだった。その時その場面で、最高の自分が頭の中で展開されていく。そして自分はいつもかっこよくて、かわいくて、人気者。そんな少女が部活で大活躍する様を思い浮かべる。仲の良い先輩から、褒められ、レギュラーの座を奪うまでの力を着ける。そしていつしか、自分は学校中で有名になっていく。少女は心のどこかでバスケット部に入ることを決めていた。

そして放課後…各自興味のある部活に見学に行く。仲の良い友達は皆文系の部活を選び、少女は一人でバスケット部に行く事になった。少しの不安を覚えながら校庭にでると、既に何人かの見学者が来ていた。その中には、小学生の頃のドッヂボールの大会で、よく顔を合わせることがあった人もいた。それでも話をしたことはなく、その他はほとんど全員が初対面だった。

「あっ!来てくれたのー!先生。この子はもう入部決まりだよ!」

「あ…こ、こんにちは。」

仲の良い先輩が少女を見つけるなりウキウキと顧問の先生に話し出した。少女は自分に向けられる視線にすこし戸惑いながら、軽く挨拶をした。

「おー。そうか。君身長高いね。センターだな!」

先生はうんうんとうなずきながら、少女に笑いかけた。

(どうしよう…。これ絶対に入部しなきゃいけないパターンだよね…。ほんとあたしに出来るのかな。)

半ば強引な勧誘の手口に、少女は否定する事もできなかった。

結果、少女はバスケットボール部に入部した。よく世間では、良い事ばっかりをぶら下げて勧誘し、蓋を開けてみればそれはとんでもない物だった…そんな事があるが、少女はそれを目の当たりにしていた。

「そんなんじゃダメだろー!もう一回やれ!!」

俗にいう、スパルタコーチ。目の前には軍隊の訓練ともとれる光景が広がっていた。

(こんな感じ…なんだ…。)

やってしまったと感じる程、唖然としてしまった少女は、暫しの間立ち尽くしてしまった。しかし時間は流れて行くもので、気づけば下校時刻を過ぎていた。初めての部活。色んな事に考えを巡らせていたらあっという間だった。むしろ、何が何だかわかっていなかった。そして少女達一年生は、自然と群れを成して下校していた。

「なんかやばくない?あたしこんなんだと思ってなかったんだけど。」

どちらかというと気の弱いタイプな真弓は既に弱音をはいていた。

「なんかね。超スパルタだったよね。」

「あんなんで続くのかな。」

次から次へと弱音が飛び交う。そんな中、唯一やる気満々で自慢気に話していたのは、小学生の頃からミニバスケットチームに入り、唯一経験のある沙耶香だった。

「あれくらい普通だよ。あたしがいたミニバスの監督はもっと怖かったんだー!毎日練習の後に…」

沙耶香は親の都合で静岡から引っ越してきた、言わばよそ者。初対面の友達ばかりでも、唯一彼女だけが異色な雰囲気をただよわせていた。そんな沙耶香の話を、ほとんどみんな聞いてはいなかった。

「だからなに?って感じじゃない?」

「沙耶香って、時々ウザイよね。」

脇でコソコソと話しているのを尻目に、少女はただ一人、沙耶香の言葉に耳を傾けていた。少女も沙耶香の違和感には気づいていたが、どこか寂しさも感じられる言動…それを遮る事はできなかった。少女は小さな頃からはっきり物事を伝えられるようなタイプではなかった。辛くても辛いとは言わず、寂しくても甘える事はせず、大丈夫!1人でも平気!と、いつも周りを心配させまいとしていた。そんな少女だからこそ、沙耶香の寂しさに気付けたのかもしれない…。


それからというもの、バスケ部の練習は毎日続いた。たまの休みに関しては、いつものメンツでいつもの場所へ遊びにいき、またいつもの毎日が続いて行った。

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