top of page

14/3/29

ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で関西大会に出た話(8.ごんたの方が面白い)

Image by Olia Gozha

8.ごんたの方が面白い

 

春になって1年生が入部してきた。

F、CA、CB、NY、OT、Wk、VNの7人だ。

 CA、CBは、同姓のC2人を区別するためだ。何とも短絡的な愛称を付けたものだが、卒業後も後輩からは、CBさんと呼ばれている。

F、NYは、ガード、CVNはタックル、CAとB、OT、Wkはランニングバック兼フランカーに決まった。

一年生が入ってきたので、僕は守備のラインバッカーもやることになった。

 その数日後、Iも入部することになる。

僕は、1年生が入部してから、まだ一人入部希望者がいると、Sから聞いた。

「明日、グランドに来るようにいうてえな」

僕はSに伝言を頼んだ。

 そして翌日やってきたのが、みんなに「親分」と呼ばれているIだった。三木高校では、一番の元気者で中学時代は柔道をやっていた。

 高校入学と同時に柔道部に入部するが、しばらくして止めてしまった。体も頑丈で、男気がある。エネルギーをもてあましていたところを、U先生に目を付けられて入部を勧められていた。

三木高校の体育祭には、棒倒しという競技がある。これは、赤白の二組に分かれて、お互いが自陣に立てている高さ4メートル程の木の棒を倒しあう競技だ。

攻撃班は、相手陣の守備陣を蹴散らして棒にたどり着き、その棒を力ずくで倒そうとする。一方、守備班は棒に向かってくる敵の攻撃班を棒に近づけまいと、体を張って邪魔をする。

手で捕まえたりすることは自由なので、掴みにくいようにランニングパンツ一枚で行う競技だが、もちろん殴ってはいけない。

ところが、Iは守備をしていて、攻撃をしてくる敵を殴ってしまったのだ。それも自分より年上の三年生を。

この競技は、以後危険すぎるとして中止になってしまったが、やっているとみんなが興奮してくる。一種の群集心理のようなものが出てくる。Iもすぐに頭に血が上るタイプで、自分に向かってくる三年生たちについカッとなって手が出た。そして、その出した手がみごとに相手のあごに炸裂してしまった。それも3人の顎に。

Iに殴られた三年生たちは、その場で仰向けに倒れ、すぐに救急車が呼ばれた。全員あごの骨がみごとに砕けていた。本人はとても反省していたのだが、この事件で一躍有名になった。

僕もこのことは知っていた。がIとは面識がなかった。2年生は15組まであり、僕は2年5組、Iは、2年14組だった。クラスが違うと入学して1年たっても話をしたことのない者はたくさんいた。Iと僕が対面で話をするのも、そのときが初めてだった。

 

その日、Iは練習に遅れてやってきた。

僕は、既に練習を始めていた。僕が気配に気付いて、振り向くと、Iは少し腰を落として、ガニ股でゆっくりと近づいてきた。

がっしりとした筋肉質な体格に、顎の尖った精悍な顔つきをしている。特に肩から腕にかけての筋肉は立派なもので、相当腕力がありそうに見える。

Iは僕のところまでくると、ぶっきらぼうにいった。

「今日から、入部するからよろしくたのむわ」 

スパイクは、かかとを踏んではいていた。

「こちらこそ、よろしくたのむわ」

僕はそういった後すぐに

「何で入る気になったんや」

と以前から気になっていたことを質問した。

「Uが、遊んどってもしゃあないやろ。フットボールに入れ。フットボールにはおもろいやつが一杯おる。あいつらを助けたれ」

「いっぺんキャプテンのうしにおうてこい。と何回もしつこいんや」

Iは照れくさそうな顔をした。

「そうか。わかった」

僕はそう返事をしただけで

「ほな、さっそくやけどセットの仕方を教えるわ」

といって、Iをその場で四つん這いにさせた。

「両足を肩幅くらいに広げて、足の先は平行にするんや。手に4割くらい体重をかけたらええ」

「それとスパイクはちゃんとはかなあかんで」

僕は初対面なので、遠慮ぎみにいった。

「おう、悪かった。こうか」

Iはすぐにスパイクを履き直し、素直に僕の指示に従った。

こいつ、ほんまは素直なええやっちゃ。そのとき僕は思った。と同時に、男気のあるやつがきてくれて、たのもしくもあった。 

僕は、昔から少し「ごんた」といわれているような人物に好感を持つことが多かった。真面目一辺倒の人物よりもよほど人間味があり、一緒にいて楽しいからだ。

←前の物語
つづきの物語→

PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

高校進学を言葉がさっぱりわからない国でしてみたら思ってたよりも遥かに波乱万丈な3年間になった話【その0:プロローグ】

2009年末、当時中学3年生。受験シーズンも真っ只中に差し掛かったというとき、私は父の母国であるスペインに旅立つことを決意しました。理由は語...

paperboy&co.創業記 VOL.1: ペパボ創業からバイアウトまで

12年前、22歳の時に福岡の片田舎で、ペパボことpaperboy&co.を立ち上げた。その時は別に会社を大きくしたいとか全く考えてな...

社長が逮捕されて上場廃止になっても会社はつぶれず、意志は継続するという話(1)

※諸説、色々あると思いますが、1平社員の目から見たお話として御覧ください。(2014/8/20 宝島社より書籍化されました!ありがとうござい...

【バカヤン】もし元とび職の不良が世界の名門大学に入学したら・・・こうなった。カルフォルニア大学バークレー校、通称UCバークレーでの「ぼくのやったこと」

初めて警察に捕まったのは13歳の時だった。神奈川県川崎市の宮前警察署に連行され、やたら長い調書をとった。「朝起きたところから捕まるまでの過程...

ハイスクール・ドロップアウト・トラベリング 高校さぼって旅にでた。

旅、前日なんでもない日常のなんでもないある日。寝る前、明日の朝に旅立つことを決めた。高校2年生の梅雨の季節。明日、突然いなくなる。親も先生も...

急に旦那が死ぬことになった!その時の私の心情と行動のまとめ1(発生事実・前編)

暗い話ですいません。最初に謝っておきます。暗い話です。嫌な話です。ですが死は誰にでも訪れ、それはどのタイミングでやってくるのかわかりません。...

bottom of page