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14/3/11

16000本のキャンドル(東日本大震災)

Image by Olia Gozha



あの日、大地震発生から三十分後、

「道が割れてる!」

奇跡的に通じた電話の向こうから、福島県にいる友人が叫び、直後に途絶えた。

東日本大震災。

そのとき、僕は名古屋にいた。テレビニュースを見ていた。

目を覆う津波の惨状が次々と放映された。

漁船が岸壁を超えて流されていた。海水が押し寄せて次々と家を押し流した。田園の道路を走る乗用車のすぐ後ろに、ガレキを飲み込んだ真っ黒い津波が迫る。

思わず言葉を失い、息が苦しくなる。

大津波警報が瞬く間に太平洋岸一帯に広がり、聞きなれない緊急地震速報が断続的に鳴った。ニュースの訃報は報じられるたびに拡大した。

モーメントマグニチュード9.0。津波の波高10メートル以上、最大遡上高40.1メートル。16000名近くが亡くなった。

「生きてる。がんばっぺ。」

続報が入ったのは、それから二日後の夜だった。

運よく高台に避難できた友人は山中で夜を明かし、命をつないでいた。生きていることをあたりまえのように感じていた僕は、「生きている」という強い言葉に胸がつまった。


その三年度、名古屋の東別院には16000本のキャンドルが準備されていた。

小さなビンにロウ流し、芯をさして手づくりした。そのひとつひとつを大勢の子供たちや学生が境内に並べていく。

風よけの紙に被災者を応援するメッセージを書く老夫婦がいる。

追悼の思いを綴る高校生もいる。

震災の翌年からこうして欠かさずに明かりを灯してきた。

「石巻のいかぽっぽとホタテ焼です。ぜひ食べてください。」

模擬店の女性から声がかかる。

「まるっと一口、一口でいっぺんに食べ。」

屈強な日焼けした初老の男性が言う。

石巻から来た鮮魚店の女性とイカを釣り上げた漁師だった。強い気持ちを持ち続けて生き抜いた人たちだった。

模擬店には幟がはためいていた。

「震災遺児孤児応援」

僕は、石巻のイカを頬張り、すぐそばにある掲示板に足を止めた。それは被災した人たちからの感謝のメッセージだった。

「夫を亡くしました。小さい子が二人いて途方にくれましたが、皆さんのおかげで立ち直ることができました。」

「子供は中学生でした。三年が経ち、今年、高校を卒業することができます。」

「あたたかいメッセージをありがとうございました。涙を流しながら読みました。くじけちゃいけませんね。」

そのひとつひとつに僕は身をきつく縛られるような戦慄を感じた。

三年間に僕ができたことは何だったかを自問した。

一歩も動けなくなった。

「亡くした父を思い出しては泣きます。優しい父でした。思い出しては涙ばかりします。皆さんからの励ましを受けて、ようやく前を向くことができるようになりました。」

何もできていない自分がはがゆくなった。

体中がかたまって、どうしようもなく泣けてきた。

「どうかされましたか?大丈夫ですか?」

ボランティアの女性に言葉をかけられても、うんうんと頷くことが精いっぱいだった。

僕が答えられずにいると、

「どうぞ、ぜひ、ごゆっくりご覧ください。」

僕は人目をはばからず顔中を掌でぬぐった。

女性は、静かに微笑し、

「人と人とが結びついて、支え合いや助け合いができた方々からいただいたメッセージは、ほんとうにうれしいものですよ。」


あの日のことを僕は忘れない。

僕は、自分なりにできることを探し、強い思いをもって絆をつないでいくことに決めた。

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