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14/4/2

車いすテニスに出会って感激して、このスポーツを報道したいと思っていたら念願が叶って、気付けば世間に追い抜かれてた話 第4章:北京で搾乳

Image by Olia Gozha

北京への準備

子供を両親に預けて北京に取材に行った。子供なんて、誰かに預ければいいんでしょ? と思われるかもしれないけれど、それがそんなに簡単ではない。私の場合は、息子が6カ月のときに1週間実家に預けたのだけど、7カ月ってどういう状態かというと、普通だとまだおっぱいを飲んでいる時期。そして、離乳食が少し進んでくるころ。息子はそれまで完全に母乳で育てていたので、まずミルクに切り替えなくてはいけない。6カ月になったころに、主治医とも相談してミルクに切り替えることにした。

試しに哺乳瓶でミルクを飲ませてみたら、「こんなものいらない!」と拒否された。やっぱりそうかー。でも、飲んでもらわないと困る。何度か試しているうちに、飲んでくれるようになった。少し安心して、でもまだ母乳のほうがいいだろうと思って飲ませてみたら、今度は母乳がいらないとかみつかれた。痛い! もう絶対にやらないからな!!

母乳を飲まなくなると、すぐ出なくなると聞いていたのだけど、その気配は全くなかった。母乳はどんどんどんどん生成され、でも飲んでもらえないので胸がカンカンに張ってくる。これがもうめちゃくちゃ痛い。石の固まりが胸の中に入っているみたいで、何をしていても痛い。動いてもじっとしていても痛い。寝ていられないくらい痛い。この痛みをとるには、母乳を自力で搾らなくてはいけない。搾乳(さくにゅう)って言うんだけど、これがまた自分でやると今度は手首が腱鞘炎になってくる。病院によっては、母乳外来っていう専門の外来があるのだけど、赤子を連れてそこまで出る気力も湧いてこない。母乳をためた状態で放っておくと、今度は乳腺炎になって発熱もしたりするので、搾乳って本当に大切なの。

絶対にミルクに切り替えなくてはいけないので、母乳には後戻りできない。飲んでもらいないからひたすら搾乳するしかない。搾乳してると手首が腱鞘炎になって、育児に支障が出る。そんなことの繰り返しだった。しまいには、夫に搾乳してもらったりしていた。そして、もうどうにも大変なので手動の「搾乳器」を購入して、それで搾乳するようになって少し楽になっていった。母乳はずいぶん長いこと出続けていて、量はだいぶ減ったものの、北京の宿でも搾乳していた。日中取材しながら、夜は宿で写真セレクト&原稿書き+搾乳って……。まあ、好きで来てるんだから、それも仕方ないんだけど。

両親に預かってもらったけれど、夜中も1〜2度ミルクをあげなくてはいけなかったし、離乳食も始まっていたので、たぶん1日3回あげてもらっていたし、お風呂の世話も大変だったので、ふたり掛かりで入れてくれていたよう。今思い返しても、1週間、本当によく息子の世話を見てくれたなあと思う。

預けたほうは、やっぱり子供がいつも恋しい。母は息子の写真をメールで送ってくれて、それを見て元気が出るというよりも、早く抱っこしたいなあとか思ってしまっていた。そんな思いを抱えながら、でもやっぱりK選手の活躍は現地で見て取材したかった。そして、金メダルを獲ってくれて(ダブルスでも銅メダルを獲得)、両親も夫も「行った甲斐があったね!」と喜んでくれた。

K選手が金メダルを獲得してくれたおかげで、ポツポツと仕事は入ってきた。帰国してからも、ちょこちょこと原稿を書く機会をいただいたので、子供をあやしながら仕事をしたりしていた。北京のときは、まだ写真を貸してほしいと言われることも多かったのだけど。

K選手は北京で金メダルを獲得した翌年(2009年)の4月に、プロ転向を宣言し、国内で初めてのプロの車いすテニスプレーヤーになった。プロの車いすテニスプレーヤーは、海外では何人かいたけれど、日本ではK選手が初めて。そんなわけで、K選手はどんどん有名になっていき、「ああ、なんか遠い存在になっちゃったなあ」と、日々感じるようになっていったのだった。

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