
「めい、迷ってないかな。」
僕のしらないところに向かってる途中だろうからちょっと心配です。
3494日前、うちへやってきた犬。メス。胴長短足のコーギー。
めいは2月20日生まれなんだけど、
うちに来たのが5月だからってO型しかいない大雑把な家族だから
名前は「さつき」か「めい」の二択しかなかったんだよ。
結局(たぶんみんなどっちでもよくて)すぐ「めい」に決まる。
「うん。やっぱり、めいだったね。」
めいを家の中で飼いはじめた。毎日が師走のようだったね。
隠れて何かをムシャムシャしてるときは、たいてい自分のうんち食べてた。
よくプラスチックも出てきた。ペットシートも食べてた。むしゃむしゃ食べてた。
「最初の散歩は怖がりますから」てペットショップの人に言われて、
こっちがドキドキしながら「怖くないから、行こうか」と言ったらダーーーッと飛び出していった。
でもある程度、離れると戻ってくる。
「めいはいつもそうだった。」
あとジャンプしてリードを噛んで、そのまま歩くの変だったよ。リードくさくなるし。
階段の下の壁もリフォームするくらいビリビリに破いたね。
きっとあれでお母さんは外で飼おう、って決めたと思うよ。
それから庭はめいのものになったね。
僕が高校野球を始める時に「素振りをします!」と言って作ってもらった
庭のレンガを敷き詰めたスペースはすぐにめいのお昼寝する場所になって。
「めいはかわいい」
ある日、めいが庭からいなくなって。
みんなで探したら物置の下、不敵な笑みを浮かべながらこっちを見てたね。
「めいは計算髙い。」
でもあれだね。
10年かけてお父さんが作り上げためいの庭はいい感じになってるよ。
めいが散歩に行ってカラダ中につけて持って帰ってきた色んな草木の種が立派に育ってるよ。
大きなカエルが迷い込んで来たときはすぐに仲良くなったって、お姉ちゃんたちから聞いたよ。
「めいは優しい。」
お母さんがいない時は縁側からよくリビングに上がってたね。
でも、めい足きたないからすぐばれておこられてたね。
「めいは知らんぷりをとおす。」
庭の木に水やりするとき
ホースで一斉にやり始めたら必ずわざと濡れにきてた。
で、濡れたらほえる。動かないようにリードをしてもほえる。
めい、どうしろと。最後はお兄ちゃんとびしょ濡れになってゲラゲラ笑ってたね。
「めいは本当によく笑う。」
出かけるときは必ず見送りしてくれてたね。
でもあれ本当は散歩に連れていってもらいたい一心だったの知ってるよ。
帰ってきた時も同じ。知ってた。あんま散歩行かなくてごめん。
ただ、お兄ちゃんと散歩の時はチャリだったね。全力でこいでもついてきて。
あの時はお互いまだまだ若かったね。
一回、原付で散歩いった時はお兄ちゃんお母さんにめちゃくちゃ怒られたよ。
めい笑ってたけど。こだちゅうの坂が大好きで上り下りが激しかったね。
「めいはスポーツマンだった。」
めい、並木公民館の川に落ちたこともあったね。
助けにいったお兄ちゃんの携帯がダメになったね。
初めて雪を見たときは、食べてたね。雑草も、よく食べてたね。
林の中でガサガサやって出てきた時にするめをくわえていたのはサイコーだったね。
あと、お兄ちゃんと散歩にいくとたまに途中の自販機で
ジュースを買って分けてあげたことは楽しみだったでしょ。ガブガブ飲んでたもんね。
ずっと二人の内緒だったんだけど。
今週末は実家に帰るからお父さんとお母さんに正直にカミングアウトするわ。
普通のドッグフードは全然食べなかったね。水道水も飲まなかったね。
だからお父さんが毎月、かなり高価なドッグフードを取り寄せてたの知ってるよね。
しかもそれをいつもグラム分けしてたんだよ。牛乳も無調整乳は高いんだよ。
「めいは食通。」
嵐の日だけは玄関にいれてあげてたけどさ。
怖かったからってお兄ちゃんの靴のなかにうんちするのは勘弁だったよ。
「めいは無邪気。」
よく散歩の途中に歩かなくなってためいを抱っこして帰るともうその服着られなかったよ。
くさいし、毛がすごかったし。
抱っこが嬉しいのは知ってたけど、ベロ出してはぁはぁ笑われてると
びちょびちょになるから大変だった。
ベンチに座ってると必ずマネして隣に座ろうとするんだけど
胴が長いから全然できてなかったね。
「めいは真似っこ。」
10歳のお姉ちゃんと1歳のめいが歩いてるとき、中学の先生に
「チビとタヌキが歩いてたぞ」って上のお姉ちゃんが言われたらしいよ。
「めいはかわいい。」
小さいときは下のお姉ちゃんがよく散歩につれていってたね。
最初は怖がってた下のお姉ちゃんがあんなにめいと仲良しになるとは思わなかったよ。
上のお姉ちゃんのことは少しバカにしてたみたいだね。
ある日、散歩から帰ってきたお姉ちゃん泣いてたんだよ。
「めいが言うこと聞いてくれない」って。
「めいもっと優しく!」
お兄ちゃんが会わせた彼女はたぶん3人だったけど、ほんとみんなに無関心だったね。
特に奥さんになってくれた女性にはひどく威嚇してたね。
お姉ちゃんが連れてきた彼氏、てつにゃん大好きだったね。
一緒に寝てたんでしょ、それお兄ちゃん妬いてたんだよね。
お兄ちゃんがつれてきたブンジの男友達、隼人とか殿とか篠さん大好きだったね。
「めいは男好き。」
「お手」は一応できたね。すごくテキトーだったけと。
「はいはいやるよ」って具合だったね。
「めいは芸達者。」
「ごめんなさい」もできたね。
小さいときに道端で拾い食いしてお父さんに怒られたのが始まりって聞いてるけど
実際は全然反省してないよね。先月もやってたもん。
「めいはお調子者。」
2階のベランダから、
庭で日向ぼっこしてるめいを呼んだ時の反応はいつも秀逸だったよ。
「どこ!?なになに声だけ!?お兄ちゃんとお母さんは!?…ま、いいか小屋もどろ」って。
「めいは自由。」
「かまって攻撃」
空いてる誰かの手があったらそこに頭をすべりこませるスキル。
頭だけ、少し毛うすくなってたよ。言わなかったけど。
運転中に助手席とのあの隙間からもよく顔出してたね。
あれ、左手でグイグイ操作するレバーあるんだからやめて。
バックの時の「ピーピー」って音がしたら発狂するのはなんかの芸?
だからみんな、めいとドライブ行くときは前向き駐車しかしなかったんだよ。
「めいはかわいい。」
お兄ちゃんが浪人生の時に失恋をして大号泣してた夜も。
大学辞めて傷心で実家に帰ってきた時も。
お母さんと上のお姉ちゃんがケンカしてる時も。
たまにお父さんがお酒に飲まれて帰ってきたときも。
下のお姉ちゃんが会社で嫌なことがあって元気ないときも。
誰かが泣いてる時も。
いつもただただそばにいて話を聞いてくれたね。
犬は話せないけど、お兄ちゃんはめいとたくさん話をした気がするよ。
「めいは本当に、ほんとうに優しい。」
たくさんの季節がすぎて、めいはたいせつな家族になったね。
散歩中にうしろあしがプルプル震えたり、息切れしたり、あんまり走らなくなって。
「こっちに行きたい」もあんまりしなくなったね。
7歳になった。秋。
お父さんとお母さんがに連れられて病院に行ったね。
「めいちゃんは生まれつき心臓が悪いですね。この歳まで生きたことが凄いことです。」
一緒に生まれた兄弟はすぐに3人死んじゃってたってね。
あの日は久しぶりに一緒の布団で寝たね。
寝てるのに、かまって攻撃がやむことはなかったね。
それからしばらくして、お腹にしゅようができ始めたね。
それも検査したけど、心臓が悪いから手術ができなかったんだよ。
でも薬もご飯もたくさん食べてたし、
散歩もゆっくり短い距離だけどいけてたし、お腹だして変な恰好でねてたし。
ゆっくり1年が過ぎて。
家の中で飼おうってことになって。
お兄ちゃんの部屋がめいの部屋になったね。
10年かけてめいの為に庭を改造したお父さんが、今度は部屋の改造に夢中になってたね。
お母さんも仕事があるのにいつもご飯くれて、掃除してくれて。
帰ってくるのはお母さんが一番はやいから、
いつも「倒れてたらどうしよう」って心配してたんだって。それは大丈夫だったね。
「めいは本当に偉い子だったね。」
ドックランに行ったらお兄ちゃんとお姉ちゃんたちが食べてた銀ダコほしがってたね。
あんなに美味しそうに太った後ろ足もすっかり細くなって。
普通にあるくだけでヨタッて倒れこんじゃったね。
「この夏はもう越えられないかもしれません。」
でも越えられたね。頑張ったね。今年は暑かったのに。
秋口からしゅようがどんどん大きくなって。歩くときもお腹がすっちゃうから痛かったよね。
だんだん散歩にも行けなくなったね。
でも痛いそぶりもしないし、ほえないし、いい子だった。
めいは「いい子」ていうのと「かわいいね」が大好きだった。
11月24日の昼過ぎに上のお姉ちゃんから
「めいが危ないから帰ってきて」ってメールもらった時はいよいよか、
と思って久しぶりに実家に帰ったよ。
あの時に帰らなかったら、もうめいに会えなかったね。
帰ったらそんなそぶりは全然なくていつも通り、やや元気なめいがニコニコしてたね。
お母さんとお姉ちゃんから「今朝おきたら血まみれですぐ病院つれていった」って聞いてたけど
人騒がせなめいだな、と思いながらやっぱり年は越せないかなとも思ったよ。
次の日が朝早かったから、あんまり夜も遊んであげられなくてごめんね。
朝になってばたばたしながらめいのところに行って
「再来週の土日はまた実家に帰ってくるからゆっくりしようね」って。
いま思えば。
最期に頭をなでなでした時のめいと、
最初にペットショップで会ったゲージに入ってためいは本当に同じ顔をしていたよ。
足を前に伸ばした変な座り方をして首をかしげながらずっとずっと僕を見ていてね。
それが最後。
でもその週末は本当に元気だったみたいで、
久しぶりに下のお姉ちゃんお母さんとたくさん遊んだらしいね。
この半年、ずっと面倒みてくれてた上のお姉ちゃんが大阪に行ってたから
気晴らしに下のお姉ちゃんと遊んであげてたんでしょ。
「めいは気まぐれ。」
11月28日の朝に上のお姉ちゃんがやっと大阪から夜行バスで帰ってきたんだよね。
お姉ちゃんは帰ってきてすぐにご飯をあげたのに、めいは食べなかったんだってね。
それでお姉ちゃんが少し部屋で寝てたんだよね。
そのときにいったんだね。
最後に会いたくて待ってたんだね。
いい子だねーめい!
苦しいそぶりは最後まで見せなかったんだね。苦しかったのにね。
お姉ちゃんに心配させないように、そっとだったんでしょ。お姉ちゃん泣き虫だもんね。
夕方、お姉ちゃんから電話もらってすぐにわかったよ。
お父さんと国立駅で待ち合わせて駅前のお花屋さんでかわいいお花を買って、
お父さんと一緒にタクシーで実家に帰ったんだけど
久しぶりに流れる国分寺の景色とあいまってふるふるきたよ。
あ、ここはめいとの散歩道だ、ここでよく休憩してたなとかね。
チャイムを鳴らすといつも「ワンワン」ほえるめいが、ほえない。
お線香のにおいがした。お姉ちゃんとお母さんが丸まって泣いてた。
めいが冷たくなって固まってた。手がぴんと伸びてた。
めいが動かなかった。
いつも「めいちゃん!」っていうとダラダラ笑ってたのに。
「さんぽ」っていうとジャンプしてたのに。かまって攻撃もしない。
でもいつもみたいにただ寝てるだけだと思った。
めいちゃん寝てるの!?起きて!って何回も聞いた。
時間がたつにつれて
プニュてはじく手足の肉厚もどんどんやわらかくなって。
いつも水浸しだった鼻もかわいてきちゃって。
お姉ちゃん言ってたよ。
最初に見つけた時の険しい顔つきが、みんなそろったら穏やかな顔つきになったって。
嬉しかった?もっとおにいちゃん実家帰ってればよかった。
ほんとに死んじゃったんだってわかったら
急に涙がこみあげてきてとまらなくなった。
赤ちゃんの時にチビどうしで一番仲良しだった下のお姉ちゃんが仕事から帰ってきて泣いてるのみて。
冷たくなっためいをみんなが帰ってくるまで抱きしめてた上のお姉ちゃんが泣いてるのをみて。
10年前は犬を飼うことに反対だったけど
ぼくらと同じように本当の子供だと思ってめいを育ててくれたお母さんが泣いてるのをみて。
めいは恋人みたいなもんだって。ずっと怖かった(父親!って感じの人)のに、
めいがきてくれてからなんか優しくなっていちばんめいのことをお世話してくれてた
お父さんが泣いてるのをみて。
めいがどっかに行っちゃった。
その日はお父さんと献杯した。たくさん飲んだ。みんな泣いてた。
一晩中、めいといたかったから
たぶん上のお姉ちゃんとは小学生の時以来だけど、3人でめいの部屋で寝た。
今朝、府中のお寺で荼毘に付せた。
最後の最後に火葬場まで運ぶ途中、めいの重さをしっかりと感じてたら
また涙がとまらなかった。
火葬台にのせたけど、最後にもう一回みんなで写真をとろうってなって。
その時のめいは本当にすごくかわいい顔してた。
スーツにめいの匂いがついて嬉しかった。うんちもついた。
曇ってたんだけど、
めいが空にいくときは晴れてポカポカしだしたからきっと元気に行ったんだね。
暖かいの好きだったもんね。
そっちにも本当のお父さんとお母さんと兄弟がいるからさみしくないといいけど。
さみしがりで甘えん坊でわがままであんまりいうこと聞かなくかったけど、
めいは本当に優しかった。僕たち家族みんなのことを気づかってくれた。
特に僕のことは心配してくれてたと思う。
一回、しんじゃいそうになって復活したけど。
それはみんなに準備する時間をくれたんだと思うよ。妹ながらやるね。
めいありがとう。
めいがお兄ちゃんの膝の上でひっくりかえってモフモフしてるときの
あの温かい重たい感じ、幸せな感じいまもすぐに思い出せるよ。

しばらくは前向き駐車しかできないかも。
帰ったらつい庭に目がいっちゃうかも。
ピンポンは鳴らさないくせついちゃってるし。
「でも、それでいいかな。」
めいも、もうお腹のしゅよう気にしないで色んなところにいけるね!
最近、お父さんお母さんが買ってくれた洋服も一緒にいれておいたからおませできるね!
もうあんまり人見知りしないで友だちたくさんつくるんだよ!
リードはプラスチックで入れられなかったけど、遠くにいかないように!
さみしがりだから帰ってくると思うけど。
何を食べても誰にもおこられることないし、するめも午後の紅茶も銀ダコも、
そっちにあるかわからないけどお兄ちゃんいつかそっちで会えたらまた買ってあげるから!
生まれ変わりとか難しい話はあんまりよく分からないけど
もしあったら幸せになれるよ!しかもたぶん美人でうまれてくるね。
いつか、お父さんとお母さんとお姉ちゃんたちとみんなでまた会おう!
めいが幸せだったかどうかその時に聞かせて。
いまこうして書いてるときもやっぱり涙がとまらないから
また、めいのことを書いちゃうかもしれないけどぜったに忘れないから。
めいありがとう。
お姉ちゃんとお母さんが骨壺をきれいにセットアップしてくれたみたいだから、
今週末はちゃんと実家に帰るね。
それでみんなで沢山飲んで、角上で魚買って食べるよ!ワイワイやろう!じゃあ、またね!


