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14/2/28

【16歳】忘れたくない人 その1

Image by Olia Gozha

初恋

冬の寒さが厳しさを増し、年も変わる頃から、ユウからの着信を無視するようになりました。



元から『好き』という感情があったわけではないから『嫌い』にもならないまま…

着信を無視した理由を説明するのが面倒くさいという気持ちが勝っていました。



次第にユウからの着信が少なくなっていき、私はどこか安堵していたのです。




チャットには相変わらず頻繁に接続していたので、特定のメンバーでよく話をするようになりました。




その中にタカフミはいました。



この時、タカフミと親しくなっていなかったら、今の私はどうなっていたのか…。

今より、少しはマシな女だったかもしれません。




ある時、チャット内の誰かが「オフ会やろう。」と言い出したことをきっかけに、オフ会が開催されることになりました。




日時と場所だけを指定し、集まれる人は誰でも参加できるというもの。




チャット内で仲の良いメンバーが参加するというので、私も参加することにしました。






当日、指定の場所に行くと、すでに10人以上が集まっていました。


主催者にチャットネームと参加する旨を伝え、他のメンバーが集まるのを待ちました。




参加者はどんどん増え、最終的には100人を超えてしまい、主催者も収拾に困る状態でした。


下は14歳から上は40歳くらいまでの年齢の男女。


集まったのは都内ですが、わざわざ北海道から来ているという人もいました。


今までは声しか知らなかった人間が一堂に会したのですから、皆揃って興奮していました。




「誰?」と尋ねられ、チャットネームを名乗り合い「声のイメージと違う!」とか、そんな会話が飛び交う中、私はタカフミと初めて顔を合わせました。






背が高く細身で、少し長めの髪に大きな目が印象的でした。


私より5歳年上の20歳。




柔らかく笑う人でした。




この人のこと好き。



直観のような恋愛感情が湧きあがりました。








あまりにも人数が集まりすぎてしまったので、30人ずつくらいに分かれ、それぞれのグループで飲食店に入ることになりました。


もちろん、私はタカフミと同じグループで。




オフ会の最中、私はタカフミの隣に座り、タカフミとの会話に夢中でした。


大きな手と、ゴツゴツした指が目に入る度、触れたいと考えていました。




途中、20歳くらいの女性がタカフミに耳打ちしました。


その様子を見た私は、急激に嫉妬心が燃え上がり、どうしようもない独占欲を感じました。


『抜け出そう。』という誘いだったようですが、タカフミはそのまま私の隣にいてくれました。




夕方近くなり、そろそろ帰らなくてはいけない時間。




自分が中学生で、夜までオフ会に残れないことが残念で仕方ありませんでした。


タカフミともっと話がしたいのに…。と後ろ髪をひかれながらも、席を立ちました。








「送っていくよ。」




席を立った私に、声をかけてくれたタカフミ。




その様子を見ていた先程の女性が私を睨みました。その視線に、自分が選ばれたのだという優越感を感じずにはいられませんでした。






オフ会という非現実的な状況での高揚感、優越感、タカフミの柔らかい笑顔。




あの時が初恋の始まりでした。






タカフミへの気持ちを自覚することは、ユウへの感情が恋愛感情ではなかったことの証となりました。

私はユウとの関係で体が女になり、タカフミと出会うことで心も女になりました。







会いたい

「送っていくよ。」と言ってくれたタカフミ。


良い意味で私の期待を裏切って、電車で2時間かかる私の地元の駅まで一緒に来てくれました。




「また会いたいね。」と柔らかい笑顔を残して帰ろうとするタカフミに「今度は私が送る。」と言いました。


冗談半分の言葉だったけれど、もっと一緒にいたい気持ちは本物でした。


私の地元と、タカフミの住む街までは電車で4時間の距離。

中学生の私にとっては、手軽に会える距離じゃないと感じていました。




その思いも、結果としては良い意味で裏切られたのでした。






オフ会の翌日から、タカフミとの長電話が日課になっていき、話せば話すほどにタカフミに惹かれていきました。


学校にいても、友達といても、タカフミの声を繰り返し思い出しては、甘い感情に浸りました。




オフ会から2週間も経たない、ある日の夜。


「週末に、そっちに行ってもいい?」とタカフミからの提案があり、あまりの嬉しさに「来て!会いたい!」と泣いてしまいました。






週末。




タカフミとの時間は楽しくて楽しくて、あっという間に過ぎていきました。

時間が進んでいくことを呪いたくなるほどに。




その日の夜、タカフミが「付き合いたい。」と言ってくました。


冗談でも大袈裟でもなく『私は今この瞬間、世界で一番幸せな人間だ。』と涙がでました。









恋は、あまりにも甘く刺激的で、人の心の奥深くに染みこんで、全ての感情・行動を支配するもの。私はまさしく恋に全てを支配されたのでしょう。



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