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14/2/10

上司が教えてくれた4つの"ごちそうさま" (2)

Image by Olia Gozha

嫌いな物は本当に良い素材の物を食べてみろ

25歳の時に働いていた洋食屋の店長に言われた言葉です。


僕は物心がついた時から野菜が苦手でした。

自分でもどうして嫌いになったのかはわからないのですが、小学校の給食で野菜が出るとなかなか食べれず、お昼休みまで残す事の許されないおかずとにらみ合っていたことを覚えています。





そのまま改善されることなく過ごしてきた25年間。

ある日の仕事終わり、いつも通りにスタッフ全員でまかないを食べようと用意をして席に着くと、いつもないはずの僕の席に"サラダ"が。


誰かが間違えて置いたのかな。なんて思いながら他のスタッフの席を見ても全員分ある。

僕がいつも"サラダ"を食べないことはスタッフみんなが知っている。

多く出してしまったんだろうと冷蔵庫に直しに行こうとすると、



店長「なんで直すんや!」

「え?間違えてたので。」

店長「お前のや!そのサラダは。」

「僕、サラダ嫌いなんでいらないです。」

店長「"嫌い"じゃない。食べてみろ。」

サラダは意図的に僕の席に置かれていたのです。

テーブルの真ん中には好きなのを選べと言わんばかりのドレッシングが3,4本並べられていて、僕は1番酸っぱくなさそうなゴマドレッシングを選んだ。

もちろん心の中では『最悪。』と思いながら。


野菜の味が出来るだけ感じないようにドレッシングをいっぱいかけて、嫌いな物は最初に食べる性格なので、一気に口に放り込んだ。


店長「どうや?美味しくないか?」

「美味しくないです。」

店長「やっぱりな。わかった。」

やっぱりな?そりゃあそうでしょう。

嫌いな物を無理矢理食べさせられたんですから。

この後に食べたハンバーグはとんでもなく美味しく感じた。




翌日のまかないの時にもまたサラダが並べられていた。

え?もしかして、また食べさせられるの?

これ以上続くようならまかない食べずに帰ってしまおうかと思っていた。



店長「毎日頑張って食べよう!ちょっとずつでいいから!」

「あ…はい。」

店長「今日はこのドレッシングを使え。」

そう言って手渡されたのはゴマドレッシングでした。

けど、昨日のとは違う封の切られていない新しいドレッシングでした。


いつも通りにドレッシングまみれにして一気に口へと放り込んだ。




昨日より美味しく感じてしまい、少し悔しさを覚えた。



店長「どうや?美味しいやろ!」

「いや、美味しくないです。」

美味しいなんて答えてしまったら『ほら!』ってまた食べさせられるに違いない。

そう思った僕のとっさの防衛反応から生まれた返事でした。


店長は黙って厨房に帰ってしまった。

少し罪悪感を感じたが、美味しく感じたことを認めてまたサラダが出されることを考えると僕にはこうするしかなかった。





また翌日のまかないが並べられたテーブルにはサラダがいた。

食べる事が何よりも好きな僕がここまでまかないの時間が苦痛に感じる事はなかった。


しかし、この日のサラダはいつもと違うかった。

いつもは一口大にちぎられたレタスにプチトマトが添えられたシーザーサラダだったのですが、この日は千切りにされたキャベツとにんじんが混ぜられたコールスローでした。


今までシーザーサラダにゴマドレッシングをかけて食べていたので、こっちなら合うだろうとドレッシングの好みに合わせてサラダを作ってくれたようでした。

どうしてここまでして僕にサラダを食べさせようとしてくるのか、疑問でしかなかった。


いつも通りにゴマドレッシングをたっぷりかけようとすると、


店長「ちょっと待て。今日はドレッシングちょっとにして食べてみ。」

「え?」

店長「野菜を味わってみなさい。」

これほどにも最悪な事はない。

味が嫌いな野菜を味わえと言われてしまった。

食わず嫌いに言うならともかく、野菜の味は知っている上で嫌いなんです。

けど、そんな気持ちも反論できずにサラダを一口食べてみた。




ん?


食べれる。あの嫌いな野菜の臭みがない。

また負けた気がした。



店長「どうや?ちょっと美味しく感じひんか?」

「今まで食べた味と違います!ちょっとだけですけど、おいしく感じます。」


この日以降、僕のまかないにサラダが並ぶ事はなくなった。




後日、店長が休みの日に副店長が話してくれた。


『サラダ食べれるようになったか?美味しくないやろ?俺も店長もサラダ嫌いやで。

けどな、野菜は身体に良いから食べた方がええ。店長も昔、野菜を全く食べずに肉ばっかり食べてて身体壊しはったんやって。

それから、嫌いでも意識してちょっとずつ食べるようになったみたい。

どうやったら食べれるか。って考えた時に、美味しい野菜なら食べれるんじゃないかって思ったみたいで、それからいろんなところから野菜を取り寄せて素材が良いものを探しはったんよ。

まかないのドレッシングも野菜も変わったやろ?店長が美味しいと思うドレッシングと野菜を入荷したんやで。お前に野菜が美味しいって気づいてもらえるように。

最後にお前がちょっとでも美味しいって感じたって言って喜んではったわ。

"これからちょっとは食べてみようかなって思ってくれるキッカケだけでも作れたら"って思ってあそこまでしてくれたんやで。

俺も店長も食べたくないもんは強制したくない。だからいつかまた自分から食べてみようかなって思ってくれたらええ。

自分の身体は大事やし、子供にもそうやって美味しいもの食べさせてあげなあかんからなー。』




これから僕は嫌いだった物も一口は食べてみるようになりました。

身体の事も考えて少しずつ食べるように意識し、形や味がわからないように工夫して料理に混ぜたり、気休め程度にも野菜ジュースも飲むようにもしています。


嫌いな物も拒むだけじゃなく、食べてみようと思う事。

食べてみようと工夫することが大事。


まかないにサラダが並んだ3日間、自分にとってすごく辛かったけど今となってみれば、あの3日間があったからこれからはちょっとでも食べようと変われた。




僕がこの職場を辞める時に店長が最後に

『嫌いな物は本当に良い素材の物を食べてみろよ。』

と言ってくれました。 


大事なことを教えてくれた店長を今でも感謝しています。




大嫌いなサラダ、ごちそうさまでした。



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