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14/1/31

車いすの男性と出会って結婚するに至るまでの5年間の話 その7

Image by Olia Gozha

苦しみから逃れたい

実家暮らしをしながら、両親に反対されたまま彼との付き合いを続けることは、本当に苦しかった。この時期のことは、霞がかかったようにあまり思い出せない。思い出そうとすると、頭が重たくなるような気分が沈むような感覚になってしまう。

彼と電話で揉めて、翌日からメールをしても電話をしても何も連絡をくれなかったりしたことも何度もあった。そうすると、仕事帰りに彼の家までいって待ち伏して、とにかく会って話そうとした。今にして思えば、怖い行動だったと思う。

思い出すと冷や汗が出るほど、両親に心配をかけてしまったこともあった。適当な口実をつけて、彼と会いにいったこともあった。そういうことひとつひとつが、心の重荷になっていき、なんとかそういう状況を変えたいと思うようになっていった。

そんなとき、姉の第2子妊娠が分かった。家を出るチャンスが来たと思った。姉の第1子誕生のときは、実家に里帰りしにきたいた間、私は専門学校生でちょうど夏休みだったので、1カ月つきっきりで家族の手伝いをしていた。初めての姪っ子がかわいくてかわいくて、よくお腹の上に乗せて昼寝をさせたりしていた。姪はかわいい。第2子の新生児もかわいいに決まっている。でも、私は仕事をする身になっていた。実家は二世帯で、階下に祖父母が住んでいたのだが、これがまたクセものだった。幼い姪と生まれたての赤子がいて、祖父母が2階に上がってきて、あーだこーだと騒ぐのを想像しただけで、私、そのときまで実家にいられない! と思った。姉の予定日までには、絶対に家を出ようと思った。

大学を卒業して社会人になるときに、母から「30になるころには、家を出るつもりでいなさい」と言われていた。私もそのつもりでいた。最初の仕事を辞めて、2年間専門学校に通ってしまったけれど、また編集の仕事に就けて、1年経って経済的にもひとり暮らしも十分にできるだけの貯蓄はあった。30の誕生日を迎えてすぐに、「家を出ようと思う」と母に伝えた。そして、母も承諾してくれた。

そうなると私は行動が早い。すぐに不動産屋にメールをして、いちばんに返事が来たところに物件を見せてもらいにいった。場所はもちろん、彼の家の近く。彼には家賃がもったいないから一緒に住もうと言われたけれど、私はそれはイヤだった。一緒に住むようになるのは、結婚してからがよかったし、彼がひとり暮らしをしていた市営の住宅が劣悪な環境だったので、そこで生活をするのは避けたかった。一緒に住んでしまってから後悔するよりも、近くに住んで、ある程度相手の生態を知ったほうが賢明だと判断した。

とりあえず、彼の家の最寄り駅の不動産屋に行って、物件の資料をいろいろと見せてもらった。1階で、南向きで、日当りがよくて、トイレとお風呂が別で、でもそんなに家賃は高くなくて、と希望はかなり高かった。これは違う、これも違う、と不動産の資料をあれこれめくっていたら、理想的な物件があった。「ここにします!」。実際にアパートを見に行ってみたが、立地条件は私の理想にピッタリ。まだ住んでいるので、家の中は見せてもらえなかったが、「ここでいいです」と即決した。一発で決めてしまったことに、両親は呆れていた。

彼の住所とほとんど一緒だったのだが、両親はこの時点では気付かなかったらしい。絶対にバレて「近くなんてやめなさい」と言われるかと思ったのに。これは意外だった。引っ越しの前に、一度アパートの場所を見に来てくれたのだが、そのときに「あら、この住所見たことあるわね」と言われた。それで済んだけれど。

そして7月、晴れて実家から出て、ひとり暮らしを始めることになった。もうこれで、彼に会いにいくときに両親の目を気にしなくてよくなった。心のつかえがとれて、本当にほっとした。だが、これもただ、直視したくない現実から目を逸らしただけだったのだ。

本来は、私自身が彼と両親の架け橋のようにならなければいけなかったのに、彼にも両親にも、心を開けずにいたような気がする。言わなくてはいけないことを、自分のうちに秘めたまま、その後も過ごしてしまった。彼との付き合いは維持したまま、両親との関係もそのまま、どちらも平行線のまま年月を過ごしてしまった。

解決にエネルギーを注がなくてはいけなかったとは思う。でも、編集の仕事を始めて環境も変わり、仕事がある程度落ち着くまで、そういうことにエネルギーを注ぐ余裕がなかったのかもしれなかった。

そして事態は突然変わる。

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