top of page

14/1/24

ワレモコウを聞け!

Image by Olia Gozha


喜寿を迎えた母は、以前、家族六人が暮らしていた家に一人暮らしをしている。

「一人のほうが気楽でええ」

母は言い、にわかに忙しくなった僕は、しばらくの間、会いにいかず電話もしなかった。

あるとき、母から電話があった。

「あんた、ワレモコウを聞いたか?」

僕には何のことかがわからなかった。そして、つまらないことから口論となり、きつく叱られ、喧嘩別れになった。このままではいけないと思い母の家へと車を飛ばした。しかし、さらに激しい口論となってしまい、

「ワレモコウを聞け!」

母は僕が理解できないことを言って怒った。

このときから犬嫌いだった母が座敷犬を飼い始めた。犬の世話をすることと、犬の世話をどうすればよいかと近所に聞くことに母は忙しくなった。

「エサは重いし、どれを選べばいいかわからんから、一緒に買いにいってあげるほうがええよ」

妻に言われても、乗り気がせず母に会うことを避けた。

「ばあちゃんにな、あやとりを教えてもらいたいやけど」

幼稚園に通っていた長女にせがまれ、僕はようやく重い腰を上げた。

長女を母の家に連れて行くと、子犬が一人暮らしには広過ぎる家を走り回っていた。母は楽しそうにあやとりやお手玉を教えた。

ワレモコウとは「吾亦紅」という歌のことであると知ったのは、それからすいぶん経ってからのことだった。その歌詞は、仕事が忙しいことを理由に母に会いに行かなかったことを死後に詫びるというものだった。

僕は母の本心を垣間見たように感じ、何とも言えない脱力感に襲われた。

その日から僕は、毎週末に母に会いに行くことに決めた。忙しいとは決して言わず、語らずに。

←前の物語
つづきの物語→

PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

フリークアウトのミッション「人に人らしい仕事を」

情報革命の「仕事の収奪」という側面が、ここ最近、大きく取り上げられています。実際、テクノロジーによる「仕事」の自動化は、工場だけでなく、一般...

大嫌いで顔も見たくなかった父にどうしても今伝えたいこと。

今日は父の日です。この、STORYS.JPさんの場をお借りして、私から父にプレゼントをしたいと思います。その前に、少し私たち家族をご紹介させ...

受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

僕は、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、政治社会科学部(Social and Political Sciences) 出身です。18歳で...

あいりん地区で元ヤクザ幹部に教わった、「○○がない仕事だけはしたらあかん」という話。

「どんな仕事を選んでもええ。ただ、○○がない仕事だけはしたらあかんで!」こんにちは!個人でWEBサイトをつくりながら世界を旅している、阪口と...

あのとき、伝えられなかったけど。

受託Web制作会社でWebディレクターとして毎日働いている僕ですが、ほんの一瞬、数年前に1~2年ほど、学校の先生をやっていたことがある。自分...

ピクシブでの開発 - 金髪の神エンジニア、kamipoさんに開発の全てを教わった話

爆速で成長していた、ベンチャー企業ピクシブ面接の時の話はこちら=>ピクシブに入るときの話そんな訳で、ピクシブでアルバイトとして働くこと...

bottom of page