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14/1/24

車いすの男性と出会って結婚するに至るまでの5年間の話 その1

Image by Olia Gozha

出会い

その当時、私はライターや編集者を養成するための専門学校2年生だった。といっても、大学卒業して4年会社員として働いて、それから仕事を辞めてから専門学校に通っていたので、いい歳した専門学校生だった。

私が所属していたのは、スポーツに特化したライター養成のコースだった。2年生になると、長期的に何かのスポーツを取材してリポートにまとめるという課題が与えられる。何を取材しようかと考えていて、なぜそれを思い付いたのか自分でも未だによく分からないのだが、「車いすテニスを取材しよう!」と思い立った。自分がテニスをするからだとは思うが、なぜ「車いすテニス」を選んだのか、本当に今となってはそのきっかけが思い出せない。

「車いすテニス」を題材にすることは決まったが、どこにどうアポイントをとっていいのかも分からず、当時ようやく一般にも広がりだしたインターネットで検索して、あるサークルの代表の方と連絡がついた。快く見学の許可をいただいたので、6月のある日曜日、活動しているテニスコートに出向くことにした。

今までの人生、いわゆる「障害者」という立場の方々と接したことのなかった私は、その日はずっとドキドキしていた。どうやって接したらいいのだろう? どんな会話をしたらいいんだろう? 失礼なこととか言ってしまったりしないだろうか? そんなことを頭の中でぐるぐる考えながら、テニスコートまで行った。

6月のそのテニスコートは、フェンスが緑で覆われていて、中にどんな人がいるのか外からはよく見えなかった。でも、なんかテニスしている様子は分かる。フェンスの外に何台が車が駐車してあり、そこにひとり車いすの人がいらしたので声を掛けたら、事前に連絡を取り合っていたサークルの代表の方だった。そして、その方にコートの中に案内してもらった。

テニスコートでは3人の方がテニスをしていた。もちろん、車いすで。それをしばらく眺めて、「なんだ、普通のテニスなんだ」と思った。すごい衝撃を受けたとか、そういうのではなくて、自分の中にストンと落ちてきた感覚だった。「これは一緒にラリーとかできるな」と。

代表の方には、取材が目的ということは伝えてあったので、プレーしていた3人の方にもそう紹介していただいた。そういう学生さんはよく現れるようで、みなさんとても親しげに話しかけてくれた。代表の方は、「彼は試合とかよく出てるから、取材するにはいいかもよ」と、3人のうちのひとりの30代男性をそう紹介してくれた。そして、「テニスするならちょっと一緒に打ってみたら?」とも言ってくれた。

すると、その30代の男性が、「ラケット貸しますよ。Tシャツもあるから、よかったらどうぞ」と、随分積極的に声を掛けてきてくれた。遠慮なく着替えとラケットを借りて、3人の中に混ぜてもらってラリーをした。そのころには、来る前のドキドキはすっかり消えてしまっていた。なんだ、車いすだからって、何も特別なことなんてないじゃないかと思い始めていた。こんなに普通に、一緒にテニスができてしまうなんて思いもしなかった。やっぱり実際に接してみないと分からないものなんだなと感じていた。

ビビビッときた

しばらく4人でラリーをした後で、ラケットを貸してくれた男性と話をした。取材をしたいのですが、受けてもらえますか? と取材のお願いをしてたら受けてくれた。そして、高校生で事故にあって車いすになった、フルタイムで仕事をしている、大学はアメリカの大学を卒業した、そういった大まかな経歴などを教えてくれた。私は、なぜ会社を辞めて専門学校に通うことにしたのか、というようなことを聞かれた。

時間にしたら、それほど長かったわけではないと思う。でも、会話を交わしながら、たぶんこの人と結婚するんだな、と本当にそう感じた。この人だったんだなー、こんなところにいたんだな、と。そして、そう思っていたのは、私だけではなかった。もちろんあとで知ったことだが、相手も同じ思いを抱いていた。でも、目的はあくまでも取材だったので、そういう気持ちはまずは閉まっておいた。

緊張感から開放されたこと、ビビビっときた相手と出会ったこと、その興奮を抑えられず、専門学校の友人に連絡してお昼を一緒に食べながら、さっきの出来事を詳しく語った。もうその友人には、男性への思いはバレバレだった。実家で生活していた私は、家に帰ってからも両親にその日の出来事を語った。両親にも私の気持ちはこのときすでに伝わってしまっていた。

あくまでも取材対象としての、その人ととの付き合いが始まった。

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Image by Jukka Aalho

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