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14/9/3

~リストラの舞台裏~ 「私はこれで、部下を辞めさせました」 8

Image by Olia Gozha

“自己都合のクビ”に導く部下との面談がスタート。

役員から命じられた目標人数は、20名だった。共に働いてきた部下の約半数を首にするという、孤独な戦いがはじまる。この戦いには、勝ちも負けもない。いや、戦いを始めた時点で、会社人としては勝ちであり、人としては負けだったように思う。


処刑リスト上位者から、確実に倒す。

始業と共に、部下との面談を実施する個室へ移動する。部屋の広さは畳にして4畳程度で、窓ひとつない牢獄のようなスペースだ。机がひとつ椅子が2脚の取調室ともいえる部屋。入口を背にした席につき、部下の入室を待つ。


ドアのノック音が響き、ひとりの男性社員がやってきた。入社2年目の彼は、体脂肪が10%を切るようなやせ形で、顔色は白く、度の強そうなメガネをかけている。見るからに虚弱体質。声はか細く、口を開ききらずにもごもごとしゃべるタイプだ。正直、仕事はできない。十数名いる彼の同期と比べても、真っ先に名前が上がるような処刑対象者だった。


わたし「朝、はやくから悪いね。忙しかった?(仕事がないのだから、忙しいわけがない)」

痩せメガネ「いや、それほど忙しくないので大丈夫です。(それほどじゃねーだろう)今日はどのようなお話しでしょうか。」

わたし「うん。痩せメガネくんの仕事について。それから将来について話をしたいなーと思って。最近、あんまり仕事ないよね?(だから忙しいわけねーだろ)毎日、なにして過ごしてるのかな?」

痩せメガネ「あ、あの。先週にひとつ案件をいただいたので、今週はそれをつくろうと思っています。」

わたし「でもあれって、先週中に終わってもいいし、今日一日あったら片付くレベルでしょ?ちょっと時間かけすぎじゃないかな。もう2年目も後半になったわけだし、同期だったらとっくに終わらせてると思うんだ。」

痩せメガネ「はい。す、すみません。いろいろと調べたりしてたら時間がかかってしまって。」

わたし「そっか。調べないと難しい感じだった?そんなに難易度高い案件は任せてないんだけどな。後輩と変わらないくらいの、比較的楽な仕事を頼んでると思うんだ。」

恐縮しきりの痩せメガネくん。この後も同じようなやりとりを繰り返しながら、案に、同期と比較して劣っていること、後輩にも追いつかれ、追い抜かれている事実をつきつけていく。終始、か細い声で発言する痩せメガネくん。吹いたか吹かないか、というレベルのそよ風声だった。ただし、心地よいわけはない。少しずつ、核心に迫っていく。

わたし「まだ2年目なんだけど、でも、もう2年もやってるって考え方もできるんだよね。一通りの業務とか、社会人として……みたいなのはもちろん、折衝の仕方とかもわかったわけじゃん?それでいて、いまのパフォーマンスっていうのが少し気になってね。。。」

痩せメガネ「すみません。精一杯やってはいるんですけど、まだまだ力が足りていないというか。できることは増えてきたとは思うんですけど。」

わたし「一生懸命やってるのは、近くで見てるからわかってるよ。心配なのは、ちょっと特殊な仕事ではあるから、向き・不向きっていうのもあると思ってて。痩せメガネくんがこの仕事に向いているのかなーって考えるんだよ。」

痩せメガネ「ぼく、向いていないんですかね?」

わたし「もちろん、努力を続けているから、いつか華が咲くと思う。けど、景気の問題はわかっているだろうけど、ビジネスには時間という軸があるわけだよね。他の人が1年でできることを。痩せメガネくんは5年必要でしたとなると。努力をしてできるようになったことは、すっごくいい。けど、他の仕事だったら、周りと同じスピードだったり、それ以上の成果を上げられるかもしれないと思うと、悩ましいよね。」

正直、苦しかった。重苦しい空気はもちろんのこと、自分の発言が苦しいと感じたのだ。社会人になって2年が経過していない若者に対して、この仕事が向いていないかもしれないし、わかんないけど、どうかなー?どうなのかなー?という、主題の定まらない、言い訳をつらつらと並べるような話をしていたわけだ。最終的には、脅しに近い話をした。

わたし「例えばだよ。今よりもっと景気が悪くなって、仕事が減ったとしよう。そうしたら、会社はどうすると思う?倒産?そうだね。最終的にはそうなるかもね。でも、そうならないためにあらゆる手段を講じるわけだよ。まっさきにやるのは、人員整理だよね。リストラ。じゃあ、どういう人がリストラの対象になるかわかる?うん、そうだよね。仕事の成果が低い人だよね。いま、痩せメガネくんのパフォーマンスってどうかな?同期と比べて下の方?そうだよね。一番下とかじゃないけど、平均よりは下かなって、それは評価者として思うよ。じゃあ、仮にリストラが行なわれて、その対象になったらどうだろう?転職するね。でも、そのころってもっと景気が悪いんじゃないかな。当然、転職先をみつけるのに苦労するよね。。。そう考えると、現時点で自分に合わない仕事をしている人がいたら、早く動くほうが得策だとは思う。」

痩せメガネ「転職しろ…ってことでしょうか?」

わたし「いやいや。それを勧めているわけじゃないんだよ。どちらにしても、痩せメガネくん自身の話なんだから。残って苦労するのも痩せメガネくんだし、転職先を探す苦労をするのも痩せメガネくん。自分のやりたいことを仕事にするのも、痩せメガネくん自身なんだ。だから、今この瞬間とかじゃなくて、それこそ、3年後とか5年後、できれば10年後とかを考えて、自分がどうなっていたいのか、そのために今するべきことは何なのかって考えてみて欲しいんだ。」

と、やはり、言い訳がましい話をして、次回の面談を設定して終了となった。約1時間、みっちりと話をした。乾燥した季節に閉じられた空間。長時間しゃべり続けた喉は、ヒリヒリと痛かった。

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Image by Jukka Aalho

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