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13/12/19

自由を求めて 民衆を導く女神編

Image by Olia Gozha

 民衆を導く女神…といっても、そんなに大げさな話じゃない。それでも、確かに自由と女神は切り離せない。あちこちに像もあるし。


民衆を導く女神

 この絵は、1830年のフランス7月革命を主題とした、ドラクロワの作品(Eugène Delacroix. 1830. La Liberté guidant le peuple. Paris. Musée du Louvre.)。絵に興味がなくとも、どこかで見たことがあるかもしれない。

 当時のフランスでは、皇帝ナポレオンの失脚にともなって、1815年に王政復古が果たされていた。しかし1830年、そこで復活していたブルボン朝が再び打倒された。その市民革命は、1830年7月27日から3日間に起こったことから「七月革命」と呼ばれ、フランスではTrois Grorieuses(栄光の三日間)とも呼ばれるそうだ。その影響はヨーロッパ各地に波及し、ウィーン体制を揺るがせたとも言われている。

 絵の中心に描かれている民衆を導く女性は、フランスという国を擬人化した象徴である「マリアンヌ 」の代表例だ。この「マリアンヌ」は、フランス発行のユーロ硬貨の裏にも描かれている姿の方が「ああ、あれか」と、ピンと来るかもしれない。

 話を絵画に戻せば、そのスタイルや主題から、絵画におけるロマン主義 の代表作と言われている。女性は「自由」、乳房は母性、つまり「祖国」を比喩するなど、様々な理念がドラクロワによって表現されている。

 この絵は、歴史の教科書の小さな挿絵で見たのが初めてだったが、その後、ルーブル美術館で見た実物の迫力に、改めて「マリアンヌ」が象徴する自由の強さを体感したように思えた。

女神の強さ

 「自由の強さを体感したように思えた」といっても、どういう意味か、説明しなければならないだろう。ドラクロワの絵画にもあるように、民衆を導く女神「マリアンヌ」は自由の象徴なのだ。そう。自由とは、強い「意志」であって、何の制限も制約もないという「状態」のことではない。だから「マリアンヌ」から強い意志を感じた、と言っても良いかもしれない。

 私たちは、自然の法則や社会の規則に逆らっては生きられない。それゆえ不安や心配に悩み、喜怒哀楽を感じ、それがストレスにもなる。これらをそのままにしては生きていけない。その全てを受け入れて向き合い、まだ見ぬ理想へ向かって生きてやろうとする、この「意志」こそが自由なのだ。

 よって自由を求めれば、自身の弱さと闘うことになる。これは弱い者にはできないことだ。だからこそ、自由を求める姿を目の前にして、強さを感じたのだろう。


とあるヨーロッパの児童たち

 自由を求めれば、自身の弱さと向き合い、闘うことになる。

 ヨーロッパのある学校で教えていたことがあった。相手は8歳からの児童で、しかも言葉がうまく通じず、席に座って授業を受けさせようなどとは、とても思えない教室があった。

 「児童への授業が難しい」と、同僚や先輩教師陣に相談したのだが、答えは皆、「教科書を机に叩きつけ、怒りをあらわに大声で怒鳴ること」だった。ここでは今まで、そうして授業の形をつくってきたようだが、私はそれに断固拒否した。

 ではどうすれば良い…?友人を始め、あらゆる人に相談し、本を探し、ネットをさまよい、さんざん悩んだ。怒鳴りつければ良いのか…そして結局、教室では児童といっしょに、教師として振舞わず自然に、そして真剣に遊ぶことにした。

 知識や技術を言葉で伝えるのではなく、空間と時間を共に楽しんだ相手が日本人、日本だったという記憶を持ってもらうことに専念した。私自身が何も出来なくとも、その記憶がかすかにでも残ってくれれば良い。それが私の精一杯だった。

 そう臨んだ教室は、以前よりも明るく自由な雰囲気になった。児童らも「今日は何をする?」「手を後ろ!(カルタのようなゲームを楽しむためには、読まれるまで手を背後に回しておけ、といった意)」など、遊びの指示など、日本語で話すようになっていた。そして何よりも私自身が、教室では「何でもできる」といった開放感、自由を感じた。

 「自由を感じた」というのは、自分自身の理想や目標に向かわなければ「死んでいない」だけで、まわりの制限や制約に悩み、傷つき、苦しむことになろうとも、理想を求め続けることこそ、生きることだと実感したからかもしれない。

 自身の弱さは常に、自分の理想や目標をぼやけさせ、そこから遠ざけようとする。しかも、弱さは周りの声にのっかってくるから質が悪い。その度に心は折れ、体は傷つき、惨めに横たわる。絵画のように、導いてくれる女神はいないのだ。

 確かに私の目の前に女神はいないが、きっとだいじょうぶだろう。19世紀のフランスで革命を起こした民衆の前にだっていなかったのだろうから。

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