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13/12/3

日本語が通じないド田舎で生まれた猿が、気がついたら東京でニートになっていた話 その2

Image by Olia Gozha

汽車が到着するまではまだ少し時間があった。

折角だから味付玉子とサラミを買おうと、男は思った。

漢族の味付けはいまいち好かないが、これから旅に出るのだ。旅に出る前は味付け卵を食べるべきだし、列車の中ではサラミを食べるべきだった。男にとってそれは、朝起き一番に金魚にエサをやるぐらい、あるべき習慣となっていたし、男はその習慣が嫌いではなかった。

煙草の火が消えかける頃に、味付玉子とサラミを抱えた女と金髪の猿が現れた。もうすっかり人間の顔をしているし、何より髪の毛がちゃんと生えた事に、男は安堵を覚えた。くるくるした金色の髪だったが、それは特に問題ではなかった。

頭の上を飛行機が通り過ぎた。男は顔と耳を上に向け、飛行機の空気を味わった。目的地である北京までは、汽車の中で三泊しなくてはならなかったが、いつも会社の人間と仕事で遠出する時とは違って、移動時間すら楽しみであった。

汽車のホームで、2ヶ月迄に設立された空港ビルが見えた。

男は今日こそ、彼らに伝えようと思った。


(生まれた街の空港ビル)


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面接官「まずは、簡単に自己紹介をどうぞ」

「はい、kenと申します。1988年に中国の東北で生まれ、1999年に親の仕事の都合で日本の埼玉に移住しました。小学校6年生から大学卒業迄日本の学校で教育を受け、大学卒業後に中国に戻り、上海にある日系企業事務所にて、営業アシスタントとして、本通訳をメインに営業や採用等の業務に携わっておりました。一昨年、再度日本に戻り、商社にて提案営業をしておりましたが、先月、退社しております。」

面接官「そうですか。では、ひとつずつ伺っていきたいのですが、弊社は社内でも日本語を使いますので面接も日本語で行いたいのですが、大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません。よろしくお願いいたします。」


日本語は大丈夫か。また聞かれてしまった。

もうその質問にうんざりし、「C言語や2進数じゃなければ大丈夫です!ガハハ!」ぐらい言ってやりたいと思ったが、微かに残った良心と前日にみた預金通帳が脳裏を過り、空気の流れに身を任せた。

全てを終え、キャリアコンサルタントの方に電話をし、きっと今回も受からないということを伝えた。電話の向こうの声は、とても申し訳無さそうに「お力に慣れず申し訳ありません。また、随時ご案内差し上げます。」と言った。日本の人は自分に非がないのにも関わらず、すぐ謝るのだ。それはきっとトラブルを事前に避けるための処世術なのだろうが、歳を重ねる毎に謝る事が苦手になっていく僕にとっては、それは最早、僕が持ち合わせていない十分に素敵なスキルだった。

この国では、仕事を探す事がとても難しい。

ここでサラリーマンをするという事は、朝早くにスーツを来て出かけ、満員電車に嫌々乗り込み、簡単な仕事にたっぷり時間をかけ、定刻を過ぎても一時間から二時間程、パソコンと向かい合わなければならなかった。サラリーマンというのは、この国では一番死ににくい方法だ。身寄りのない外国人が死なないためには、おかしいと思う事にも、我慢しなければならなかった。


ただ今は、相対的に、目標を持って考えながら、楽しく自由に働きたいと思うだけだ。そうでなければ仕事なんてしない方が良いとさえ思えるのだ。


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最終出社日に片付けと挨拶を終え、部長に感謝の旨を伝えると、部長が同僚たちを集め口を開いた。


部長「私は退社したことはないからわからないのだけど、kenくんの思いがあり、相談の結果、本日をもって退社する事になりました。kenくんは最後迄残業をほとんどしなかったのに成果を出していた。みんなのお手本になってほしいと思っていたので、退社される事は残念ですが、kenくんはまだ若いので世界に挑戦していってください。またいつでも遊びに来ていいし、何かあれば相談してください。最後に、一言ご挨拶をお願いします。」

「部長に残業しない人って言われてしまいました・・・しかし、そういう我儘ができたのは、皆さんの助けが会ったからだと思っていますし、感謝しています。皆さんは是非、幸せになってください。」


会社の門を出て、後ろを振り向かず真っ直ぐ歩き、ある程度ビルから離れたところで振り向いた。

まだまだ電気がさんさんと輝いているビルと秋葉原という混沌とした街に感じる愛おしさを噛み締めていたのもつかの間、大事な事に気がついた。


やべぇ、明日からニートじゃん。

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