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13/11/9

仕事、それは「生きる」っていうこと。

Image by Olia Gozha

私には小さいころから夢があった。


将来は〇〇になりたい。


両親を楽にしてあげたい。


自分の力で生きていきたい。


故郷を捨てて東京へ行きたい。



平成の今のように女性が一人で田舎町で自立できるような時代じゃなかった。


今から40年以上も前のことだもの…。



そんな夢を胸にまもなく高校を卒業という年の1月末、ちょうど中間試験の勉強をしていた夜も更けたころ、突然電話が鳴った。


救急車からだった。



父が飲み屋街の非常階段から落ち、意識がないとのこと。


母はタクシーを呼んで、病院へ…ほどなく、母から電話で父の死を知らされた。



高校を卒業したら、都会の大学へ行きながら夢の一歩を刻もう。


何が何でも、この田舎町にはいない、都会で一旗揚げて帰って来ようと決めていたのに。


母ひとりを残して大学に、都会に出ていくわけにはいかない。


都会に出なければ、私の夢は叶わない。


これから何をどうすればいいのか、目の前が真っ暗闇になった。



進学をあきらめたが、就職先は決まらない。


同級生の就職組はもうすでに全員の就職先が決まっていた。



父の四十九日がちょうど高校の卒業式と重なった。夢破れ、未来が見えない敗北感で友だちに会う気も喜ぶ気にもなれなかったので、卒業式には出席しなかった。


誰がいつどのように届けてくれたのか、卒業証書だけが祭壇を取っ払っい、親戚一同が帰ってしまった居間に転がっていた。

「何とかしなきゃなぁ〜」
住んでいたのは、父の勤務先の社宅でここも出なければならない。
専業主婦で、一人では何もできない、父に頼りっきりだった母のことを考えると、私が何とかしなければ、生活が成り立たない。

資格もない免許もない、コネも縁故も、紹介もない…
町を歩きながら見つけた、アルバイト募集の張り紙。
間口一間ほどの駅前の小さな本屋が私の最初の仕事場になった。
時給340円、それでも私のように何にも取り柄もない人間を雇ってもらえることに心から感謝した。

毎日毎日狭い店内を歩き回り、どうしたらお客様が立ち寄ってくれるのか、どうしたら本を手に取り、レジまで持って来てくれるのか、日々そのことばかりを考えていた。
ポップを書き、並びを考え、掃除をし、環境を整えた。
明るく元気で、しかも落ち着いた雰囲気を作るために、お客さまひとりひとりにさりげなく目を配り、それぞれにふさわしいと思う声かけと、対応を心掛けた。
レジで「ありがとうございます。」というときの嬉しさだけを励みに、これでもか…というくらい夢中で働いたと思う。
3か月経たないうちに成果が肌で感じられた。
明らかな変化が数字で表れた。
初老の女性の店主から、そっと店の奥に呼ばれ「こんなに少ない金額でごめんね。」と言われわずかだけれど金一封をいただいた。
仕事をすることの喜びと充実感を感じた。

経営者・管理者に支払うのが惜しいと思われるような仕事の仕方はしたくない。
自分の価値はそこにあると心から感じた。

しかし、そのお世話になった書店にはそう長くはいなかった。
いつもその書店に立ち寄っていた、ある会社の社長から「うちで働いてもらえないか」と声を掛けられ、その時の時給よりもずいぶんいい条件で働くことになったからだ。

「わらしべ長者」という童話があるけれど、私の場合は「わらしべ仕事人」としてその後も、次から次へとキャリアアップへの道のりが続くことになった。

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