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13/10/20

電車男からの目覚め~完結編

Image by Olia Gozha

熱さと鎧とメンズ・メルローズ

先に丸井メン新宿店に行った。

正月の丸井メンはごったがえしていた。
「ビルまるごと服が売っている・・。」
それがまず最初の衝撃。そして男がこんなに一生懸命服を買うんだということが最大の衝撃だった。

僕は見始めてすぐに後悔した。その頃の僕には、「服を買いに行くための服」がなかったのだ。
お店には、店員がいる。そして店員は、放っておいてくれればいいのに、話しかけてくるのだ。そして多くは、今その人が着ているものと比較しながら、「これがお勧めです」と言ってくるのだ。
ということは、買いに行く初めから、比較できるだけの基準の服装をしていることが求められる。

僕が当時持っていた服は、もこもこのズボンにユニクロのシャツだけだったので、その辺の服と比べられない。

店員に声をかけられるのが恐ろしくてしょうがない。

服を見るたび、ジリ~っと尻のあたりが羞恥心の炎で熱くなり、いたたまれなくなるのだ。

ビクビクしながら、人を避けて服を見ては引き下がり、値札を見ては驚き、ウロウロしていたら、ついにある店で店員につかまってしまった。

店員「何かお探しですか?」

自分「いえ、何も・・」

店員「え、何も?服買いに来てるんじゃないんですか?今安いですよ。」

自分「え、ええ、まあ・・。」

店員「お客さん、この色・・」

と、僕が来ていた服に手をかけようと手をのばしてきた。

「ギャ~~!!!」

僕は声にならない悲鳴をあげて店を飛び出すと、そのままエスカレーターを駆け下り、全速力でビルを出た。

恐ろしい場所だ。。


僕は店を変えることにした。

山手線に乗り、渋谷におりたった。

ファッションなら渋谷からだろ。

僕はリベンジを果たすことにした。


渋谷パルコ店。じゃなかった、パルコ渋谷店。

メンズ売り場がある階まで行くと、僕は決死の覚悟で店へと入った。

自分「たのも~」


「いらっしゃい」

少し髪をたてた、物腰柔らかな店員さんが現れ、僕を一瞥した。

一瞬で緊張が走る。

だが、今回の僕は違うのだ。荒波を潜り抜け、決死の覚悟でこの場に立っている。

店員「何かお探しですか?」

自分「はい」

店員「どんなものを?」

自分「コ、コートとか、何か羽織るものを・・。」

店員「アウターですか?」

自分「アウター??」

上半身に着る服にも2種類あって、中に着るものをインナー、外に見せて着る物をアウターというのだということをそのとき初めて知った。

店員は、ある程度僕の状況を察したようで、

店員「お客さん、あまり服買われないんですか?」

自分「はい・・。」

「わかりました、僕がイチからコーディネートしますよ!」

と、さわやかに言い放ち、インナーからアウターまで、いろいろ合わせてくれた。

彼は、ある茶色いコートを出してきた。

店員「着てみてください」

促されて着ると、「お、重い・・。」

そのコートは、鎧みたいに重く、肩が苦しかった。

「もうちょっと軽いものないですか?」

言いかけて、僕は口をつぐんだ。

「待てよ、今まで、見た目より着心地ばかり優先して、カッコ悪くなってしまったんじゃないか。変わるって決心したろ。多少着心地は悪くても、見た目がいいものを着るべきだ。自分の価値に縛られるんじゃなくて、新しい世界を見るんだ!」
頭の中で考えをめぐらせ、


「わかりました。これにします!」

店員さんは、「え、もう?」という顔をしつつも、「これいい服なんですよ~」と、その服のおすすめポイントを加え、他のものと合わせながら包んでくれた。
服のラベルには、"MEN'S MELROSE”と書いてあった。

こうして、それまで2,000円以上の服を買ったことがなかった僕が、初めて40 %引かれても1万円以上する服を買い、かっこいい袋を持って店を出た。

僕は、とても誇らしい気持ちになった。

「やった、ついに服を買ったぞ。着心地だけじゃなくて見た目を重視して選んだ服を。これを着て俺は変わるんだ!」

未来への希望を胸に、渋谷を後にした。

そして、次に妹に会ったときは、意気揚々とそのコートを着て行った。


「見ろよ!パルコで買ったんだぞ!かっこいいだろ!」

妹「へ~、ほんとに買ったんだ。すごいじゃん。でも、なんでそんな歩き方なの?」

自分「いや、この服重くてさ、肩が凝るんだよ。だから、肩への負担を減らして歩いてるんだ。ジャミラみたいだね(笑)」

妹「・・・」


こうして僕はその年服装革命を起こし、見た目を重視した服を着るようになった。

ウェストポーチに入れていたものは、泣く泣くリュック(正確に言うと、ポケットが多い3wayバックに変えた)に詰め替え、食堂で並ぶときは、歯を食いしばってリュックを片方の肩にずらし、バックを降ろさずに財布を取り出す技術を習得した。

就活も乗り越え、無事社会人になることもできた。


ただ、僕を「ネタを語る側の人間」に引き寄せてくれたあの服は、あの年しか着なかった。

世の中には、見た目がかっこいい上に、肩がこらない服があることを、その次の年の正月セールで知ったからだ。


でも、今でもそのコートはタンスに大事にとってある。
こちら側の世界に入った時の記念として。

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Image by Jukka Aalho

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