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13/10/5

続新不足の事態

Image by Olia Gozha

      私の義足は「ひざ上」義足である。切断の残り部分に指サックのようなシリコンで出来たカバー「ライナー」を被せ、樹脂製の鉛筆キャップのようなソケットに入れ込む。その先に金属パイプが取り付けられ先端にマネキン人形の肌色の足がついている。ズボンを履く時、この足が邪魔になる。「二つに折りたためへんか?」と尋ねたが無理なようだ。はがねが入っている。

       ソケットの少し先の所に「ひざ」に相当する部分にパイプが折り曲がるような仕組みがついている。椅子に座った時、脚は折れて、自然な姿になる。膝立ちも可能だ。                                                                                                                      「ひざまずいて、プロポーズも出来ますよ」と装具士はお勧めだが、                     「土下座も可能ってことやね」と私はどこまでもかわいくない。                        

    問題は歩く時だ。義足は後ろから振り出された時、まっすぐな状態になると、カチッとロックされ、脚は一直線になり、上体の体重を全部かけても、おれないが、ロックされていないと、前に折れてバタンとたおれる。突然たおれるので、しかも金属のパイプが地面にぶつかって派手な音をだすので、周囲の人を驚かせてしまう。杖をついていても倒れるのは怖いので、つい右足を大きく振り出してしまい、歩行はぎくしゃくし、「はい、義足です」と白状しているようなものなのだ。

         「もう一度、足出しの練習からやり直さんと、あきませんね」と若い弟子の装具士が言う。颯爽とした歩く姿を期待してのことだから、ありがたい事ではあるが、素直にはなれない。「あんた、脚切って歩いてみてや」と言いたくなる。だめだめ、こんな経験は人に勧められない!

          義足を使い出した頃、恐ろしくて一歩も歩き出せなかった。                          「江口さん、何度か転んでくださいよお」                                                                  そう言って、覚悟を決めさせてくれたイケメンクールな若い装具士は「歩けて充分、すごい、すごい」とおだててくれる。豚も云々だ。しばらく彼のたなごころで、転がっている事にしよう。

         脚の型取りの日、装具士さんに長女が誕生した。とても可愛い。その彼女が遂に一人で立って歩いた。それはそれは嬉しいそうに歩いたそうだ。                    「歩けるのはこんなに嬉しい事だったんですね。みなさんの役に立つ仕事が出来るよう、いっそうの努力したい」とメールを締めくくっていた。

          そうだった!歩くのはとても楽しいことだ。転倒を怖がってばかりいて、この大切なことをわすれていた。二足歩行は人間の特権だ!もつともつと心をゆるりと持って、歩く事にしよう。

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