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13/10/20

電車男―映画版もドラマ版も結局本物だったけど、どうして本物なのかをせっかくなので論じてみようと思います

Image by Olia Gozha

正解は、「ウェストポーチ」

2004年7月、大学3年生だった僕は、いつものように市ヶ谷駅から総武線に乗った。

そして、ふと見上げた電車の中吊り広告。

その広告が僕の運命を変えることになる。


「あれ、自分と同じ格好の人がいる―。」


その広告は、7月から始まるテレビドラマの告知だった。「電車男」―。

流行に疎い僕でも、当時散々話題になっていたこのストーリーのことは知っていた。映画に引き続き、伊藤淳史主演でドラマ化もされ、中吊り広告はその告知だった。

そこにいた主人公が、自分と全く同じ格好をしていたのだ。

母親がどこかのスーパーで買ってくるチェック柄のシャツに、履き心地だけはよい綿パン、リュックサック、くたびれたスニーカーに、そして何よりも僕の目を釘づけにしたのは、彼が腹の前にウェストポーチをしていたことだ。


当時、僕がいつものように大学の廊下を一人で歩いていると、同じ学部で顔だけは知っていて話したことがない人たちがこうささやくのが聞こえたことがある。

「あ、ウェストポーチ君よ・・。」


(出典:男が身に着けているだけでNGだと思うのは?


当時僕は毎日ウェストポーチをしていた。

なぜって?もちろん、便利だからである。

学食で並んで財布を取り出すとき、リュックを下して財布を取り出していたら時間がかかってしまう。
かといってズボンのポケットに入れていたらいつ落ちるか不安で落ち着かない。
(*ここで、リュックじゃなくて手提げバックにすれば?という突っ込みはNG。「自分視点人間(後述)」のことが全然わかっていない。背骨が曲がってしまうではないか。)

そうすると、一番便利なのは、腹の前にポケットがあることである。
当時、立っている状態で取り出すシチュエーションがある所持品は、全て丸い特大のウェストポーチに入れていた。
そして僕は快適な日々を送っていた。

だがこの日、この中吊り広告を見たことで、僕は自分の人生に疑問を持つようになった。

「ひょっとして自分も、世間からは電車男のような存在として見られているのではないか?」


人間の種類

世の中には2タイプの人間がいる。「ネタにされる人」と「ネタを語る人」だ。

多くの人は、大人になるにつれて「ネタを語る人」になっていく。それは意図せずして自然にそうなっていくのだろうが、そういう人には、「ネタにされる人」がどういう背景があって、ネタになるような行動をとるのかがわからないのではないだろうか。

基本的に、「ネタにされる人」は、「自分が決めた法則に従う傾向」がとても強い人たちである。その法則が世の中のマジョリティと合っていればネタにされないのだが、大多数がとらない法則を身に着けてしまった場合、周りから浮く=ネタの標的になってしまうのである。

こういう人たちのことを仮に「自分視点人間」と呼ぶ。

「自分視点人間」は、法則に則って常に合理的な判断をして、その行為に及んでいる。決してリスクを想定しつつ選んでいるのではなく、それが最も合理的だと思うからその行動をしているのである。

ウェストポーチは、人間の日々の行動を観察すれば、至極便利な道具であることがわかる。自分視点人間は、ウェストポーチの開発者の意図を汲み、彼らの想定通り、その価値を存分に引出し、日々その便利さを享受している。
そこには、見栄えが悪いとか、せめてもっと小さいものにしたらとか、後ろに回せばヒップポーチっぽくなるかも、とかそういう物そのもの以外の価値を背景にした詭弁は耳に入らない。とにかく自分が便利であることが一番なのである。

「自分視点人間」は、自分の目に物が映るように、人にも自分の姿が映っていて、それは単に映像として映っているだけではなく、そこに何らかの印象や感想というものが残るということがわからない。自分が、目に映る人にそういった判断を下したことがない(あるいはうすい)からだ。

したがって、「ウェストポーチ、便利だけどかっこ悪いよ」

ということがわからない。

前述の電車男には、主人公が「オタク」というだけでなく、「自分視点人間として生きてきたのだ」という人物設定が、ウェストポーチという一つの道具を使うことによって、凝縮して表現されていたのだ。


人間の進化

さて、話を戻そう。

電車男の中吊り広告の主人公が全く同じ格好をしていたことに衝撃を受けた男(自分=当時21歳)はその後どうしたか―。

結論から言うと、それからしばらくして、僕はウェストポーチを外すことになった。

そして、「ネタにされる人間」から、「一部ネタにされるけどネタを語る人間がどういう思考をしているかわかる人間」へと大進化を遂げることになる。

だが、そこまでの進化を遂げるには、その年の冬を待たねばならなかった―。




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