まえがき
以前「ダメバンドマンの人生がMac一台で180度変わった話」を書きましたが、今回のストーリーはそれより前、僕が17歳のころから始まります。
ダメバンドマンですらなかった、ダメ高校生時代。
17歳の時に経験した青春を、12年後の2013年にぶり返すなんて思ってもみなかった。そんなストーリーです。
東口の「ヒガシ」
2001年 夏

「あぢぃ…制服嫌い…もう歩けない…」
「本当意味のない会話しかしないよねシュンキくん。」
「意味のある会話って…どういうの?」
「はぁ…いつもそれだから…脱力シュンキって言われるんだよ!」
「いーの!俺はダメ男でいーの!東口の方から帰るわ。またねー」
「はいはい。またねー(このダメ男!)」
やはりシュンキという男はお話にならない。せっかく彼女と一緒に帰っているのに、自分のことばかり考えていた。とにかくエアコンのきいた部屋でゴロゴロしたい。
西口の階段を上がって、美容師さん達のチラシ配りを横目に東口方面へ向かう。
当時、地元の駅の東口にはダイヤモンド型の装飾を施した大きな壁があった。駅ビルの外壁の一部が装飾されていると言ったら分かりやすいだろうか。とにかく「東口で!」と言ったら、皆その壁の前で待っている。そんな場所だ。
僕らはさらに短縮し「ヒガシで!」と、待ち合わせ場所として使っていた。
階段を降りて東口側に出ると、ヒガシの前で路上ライブをやっている。一週間ほど前にここで知り合ったライオン丸(あだ名・彼の話はまた別の機会に)だ。
「お」
「お!シュンキやシュンキ!何してんねん!」
「帰るとこだよ。こんな熱いのによくやるな。」
「ったく脱力君はいややなぁ〜 ウジウジってか」
「はいはいそんなこと言っても暖簾に腕押しだぞ」
「? のれんにうで…? ん?」
「まぁいいや。そういえば…隣のガイコツみたいな人は誰?」
ライオン丸の隣に、病的な細さの男の子がいる。
その彼の前にはイラストが書かれたポストカードがいくつも並べてあり、金額も書いてある。
「あー!初めてやもんな!絵描きのE君や!こっちの脱力ウジウジ虫はシュンキやで!仲良くしよや!」
「よろしくー。」
「Eです。よろしく…」
「この絵、全部自分で書いたの?上手いなーいいなーモテそう」
「…」
「(無視!?)」
コミュニケーションが不得意そうだ。バカでかいヘッドホンをつけているのもきっと会話が苦手だからだろう。なんとなく気まずかったので、その日は帰った。
夜遅くの電話
放課後は毎日のようにヒガシの前を通った。ライオン丸が面白いからだ。関西出身の彼の会話はずっと止まらず、学校が終わってから夜までダラダラとヒガシの前にたまっていた。
E君がいる時は、独特の雰囲気を出してくるので、僕はあまり喋らなかった。
ちょっと苦手だった。

ある夜。ライオン丸から電話があった。
「もしもーし」
「シュンキ?今からヒガシこいや!E君もおるで!駅らへんプラついたら俺んち行こや!」
「そういえばライオン丸んち行ったことないな。っていうか16歳で一人暮らしなんだよね?」
「ええやろぉー!一人暮らし最高!とにかく来てな!じゃ!」
「明日学校ないし行くわ」
そんな調子で夜中にヒガシへ向かうことになった。国道15号線を北へ歩く。この辺りは京浜工業地帯なので、大型トラックがとても多い。

少し心細い気持ちにもなり、早歩きでヒガシへ到着した。
ライオン丸とE君が待っていた。
この日の夜遊びで、僕が勘違いしていたE君の本性が明らかになる。

