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13/4/15

ホッケ食べれない理由

Image by Olia Gozha

全ては居酒屋から始まりました。私は、父と夕食をとりながら様々な話をしていました。そこにいるのは、ほとんどが学生か孤独なサラリーマンという安い居酒屋でした。でも私たちは気にしませんでした。日本にようやく到着し、疲れきっていたのです。だからとにかく私たちが欲しかったのは、食べ物でした。

父は、何種類か魚を勧めてきて、その内の1種類がホッケでした。それを少し口に入れて話を続けていると、突然喉に何か違和感を感じました。何か鋭い物が喉につっかえている、と。

「やばい。たぶん骨を飲み込んだ。」

と父に言いました。私の顔は、真っ青になりました。

Tim Riney「トイレ行ってとれるかどうか試してこい。」

と父は言いました。

急いでトイレに向かい、すぐに骨を吐き出そうとしました。しかし、その骨が動く気配は全くありませんでした。

一生懸命試しに試して、やっと吐き出したと思ったら、トイレの水が深紅の赤い血で染まったのです。

そのトイレの血を見るなり父のいる席へ戻り、


「父さん、トイレで血を吐いたよ。万が一何かあった時のために俺を見といてくれない?」

と言いました。

父は、トイレに来て吐かれた赤い血を見るなり、


Tim Riney「なんてことだ。」

とはっと息を飲んで、すぐにウェイトレスにどうすればいいのか聞きに行きました。

ここは日本でしょう?みんな魚を食べるでしょう?皆、同じ問題を経験したことがあるはずでしょう?と、私たちは思ったのです。

喉につっかかった骨がそのままの状況は、なんとも説明し難い状況でした。それは、誰かがナイフを喉に忘れていったような感覚でした。話すたびにそのナイフが食道に深く刺さっていくのを感じていたのです。

ウェイトレスがごはんと一杯の水を持ってトイレにやって来て、骨を取るのに、大量のご飯を飲み込めと言ってきました。

そのご飯を何度も何度も噛まずに飲み込みましたが、全く効果がありませんでした。

その時点で、病院に行くのがきっと良い考えだろうということになりました。

しかし、私たちが最初に見つけた場所では運が悪く、


受付の人「そのような症状に詳しい医師が、今夜はおりません。こちらの番号に電話をお願いします。」


と言われてしまったのです。

「まじかっ。」


と思いました。

教えてもらった番号に電話をかけ、自分の状況を説明しました。その時点で、私の父は既に「まあまあ、そのうち取れるさ。酵素が失くしてくれるだろ。」と楽観的に考えていました。

正直なところ、自分が陥っていたパニック状態を疑い始めていました。私は大げさだったのでしょうか?そんな緊急事態ではなかったのでしょうか?

医師は、それに対しうまく答えられませんでした。

医者「そんな時もあるし、そうじゃない時もある。あなたがここに診察に来ないかぎり、なんとも言えないですよ。」

と彼は言いました。

ついに私はあきらめ、自分に「たぶん、父が正しいんだ。」と言い聞かせました。そしてホテルに戻り、睡眠をとることにしたのです。

次の日も、その小さな小さな私の友達はそこにいました。彼は、そこからいなくなっていませんでした。喉が心地よい場所だったのでしょう。その日の残りは、どうにか彼を無視しようとしましたが、できませんでした。

結局、いつも緊急時にするように、「喉にひっかかった骨」と、ググってみたのです。すると、出て来たのはそれについてのブログと議論のリストで、「あなた、しくじりましたね。もしそれが何かに感染したら、手術が必要になりますよ。」とほとんどが言っていたのです。

私はこれをもっと深刻に捉え、すぐに"専門医"に予約しました。

病院につくと、その医師との会話はこんな感じでした。

医者「ええと、なんで今日はここに来たのかな?」

「魚の骨を飲み込んで、それが喉につっかかえているんです。」

医者「なんの魚?」

「ホッケです。」

医者「ホッケ?」

「そうです」

医者「たぶん骨は普通より大きいね」

「その通り」

医者「よし、舌を出してみせて。」

「あー」

医者「吐こうとしないで。」

「げほげほげほ…。」

医者「よし、違う事を試そう。」

彼は、カメラの付いた長くて蛇のようななめらかなチューブを取り出しました。

これはカメラで、あなたの鼻からこれを入れて、喉に通していく。それで、その骨を見る事ができるんだ。その機械の隣にあるテレビが、カメラの取った映像を見せてくれる。


医者「これはカメラで、あなたの鼻からこれを入れて、喉に通していく。それで、その骨を見る事ができるんだ。その機械の隣にあるテレビが、カメラの取った映像を見せてくれる。」

「OK…」

医者「おお、これは深いね」

「沈黙」

医者「おお、お友達がみえますよ、見えるかな?ほら見て、あった。」

「ああ、おえっ。」

医師は、その蛇のようなチューブを鼻から取り出しました。



医者「はあ…」

「先生、なんでそんな心配そうな顔をしてるんですか?」

医者「これは、凄く深い。大抵このようなケースでは、病院に行ってもらうんだけど、もし我慢できるなら、すぐに取ってあげられるよ。」

「そ、そうだな、今やろう。」

医者「本当だね?大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です。」


彼は、私が吐き出そうとしないように喉を麻痺させる薬をくれました。そして、私が今まで見た事ないような大きな箸を取り出したのです。


医者「よし、やるぞ。舌をつかんで離さないように。もし離したら、この箸がつっかかってもっと大きな問題になる。」


彼は、早速処置にとりかかりました。

医者「舌を離すなよ。真面目に言ってるんだぞ。」

彼は、その大きな銀の箸で、喉にある骨を引き抜き、顔の前に持って来て見せました。

医者「取れたぞ。」

「それだけ?」

医者「そう、これだけ。全く馬鹿な外人だなあ。」


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