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士農工商と言った身分制度が日本から消えて久しい。 西洋でも、王様を始め貴族が存在した時期が長い。
自由、平等、博愛を掲げたフランス革命を皮切りに、 徐々に世界は自由資本主義に変化していった。
身分制度ではなく、 どこで、どんな家庭で生まれたとしても、本人の努力で、「誰でも高給取りになったり、世界的に有名な学者になる事だって可能である」と、多くの人々が信じて、邁進してきた。
21世紀に入り、既に22年近くが過ぎようとしている。 私の人生を振り返り一言にまとめれば、 「何とか、中流階級と言われる生活様式維持に、躍起になってきた滑稽な人生だった。」と、言わざるを得ない。
ホノルルにて、退職生活を数年楽しんでいるが、今までの長い習慣が消えず、中産階級維持を無意識に続けていたように思う。
それは、言い方を変えれば、節約、節約の人生であった。 路上生活者に落ちぶれる事を恐れて、無駄遣いを極力避け、 死に物狂いで仕事に齧り付き、 収入源を絶たない努力に目の色を変えて来た。
80歳を目前に控え、「人生の醍醐味の一つとして、「ええい、思い切って、えせ貴族的生活を味わってみるわい」と思った。
本物とは、似ても似つかない偽物(偽物)ではあるが、ゲーム感覚としては面白い。
現役生活者には難しいが、 所詮時間のある退職者の特典を利用して、貴族もどき時間を少し楽しんだ。
中国系の人々が経営している足のマッサージ専門店の客になってみた。 仕事時代も、長い年限の間に数回マッサージ師の世話になった事はあった。
仕事の疲れを早く解消して、次の仕事に備えるためであった。
今回は、「仕事の」と言う、言い訳もなく、 半分遊び気分で、退屈凌ぎにマッサージを受けた。
洗髪後、髪を切っていただいた。別に切らないとどうにもならない訳では無いが、貴族的気分になるため高そうなお店に入った。
明日は眉毛を整えて貰うため、他のお店で予約を入れた。
東海岸時代も、 年に数回韓国式垢すりを楽しんだが、ホノルルに来て3年半、一度行ったきりだ。
偽物(ニセモノ)であれ、貴族気分を味わう経験のため、今週中に、場所を探して予約を入れる予定だ。
今までの反省として言える事は、レストラン通いだけは、どうも早くから貴族ぶった生活形態を、いつの間にか選択していたようだ。
「飢餓状態の子供時代の反動なのだ。」と、今頃気がついた。 本人は認めたがらなかったが、 いつの間にか、少し肥満状態になっている自分を鏡の中に発見、それでも、長年、自分が太り気味であると認める事を拒否してきた。
銀行口座の残高と睨めっこ。後何年地上で生活できるかの予測を立て、食べ物以外で、貴族気分を味わう事に、方向を転向して見ているのだ。
まだ、狭すぎる経験に過ぎないが、 貴族気分を楽しむ、私の要望に応えてくれる人々の存在が、見え始めて来た。
30代初めの美容師さんは、東ヨーロッパ生まれの美人。アメリカの軍人さんと結婚、米国西海岸のワシントン州のシアトルから、 ホノルルに来ている。 世界の動きが見えて来る。
足のマッサージ専門店では、 限られた最小限の英語力の中国人マッサージ師と、地元出身の英語力満点の中国系アメリカ人主任。ここにも、ドラマがありそうだ。 現実社会の断面を垣間見る気分だった。
生まれて初めて、有名デパートの化粧品売り場で、予約をして、眉毛の手入れをして頂いた。
偶然、 ロシア出身の方が私の係りだった。 しかも、 彼女も米国東海岸の米国首都近郊に住んでいた事があった。
ホノルルに家族ども引っ越して来て10年との事。 米国首都近郊のベセスダに35年程住んでいた私は、「あの有名な国立衛生研究所のすぐ近くに住んでいた。」と言うと、彼女の夫は国立衛生研究所の医学研究員だったそうだ。
ーロシア生まれの人とホノルルで出会えて、 割と話が弾んだ。」「1989年に旧ソ連のモスクワに仕事で行った。」と私。
「ヨーロッパ系の血が混じっているね。」と、彼女は私に言った。
仙台に住んでいた祖母は鼻筋が綺麗に通リ、 目の奥行きも深かった。
「もしかしたら、5、10、15 か20パーセント程、 昔の祖先が北欧かロシアの血が混ざっていたのかも。」と笑う私。
ああ、久しぶりに足と手の手入れを専門家にお願いしてみた。 日本人の方で、千葉県出身。
しかも、私と同様、アメリカ人と結婚している。その上、私の亡き夫とは正反対に、彼女の旦那様は強力なトランプ支持者だ。
ネイルアーチストは正社員ではなく、契約社員だそうだ。 彼女の場合は夫がある会社の正社員なので、健康保険は問題がない。
「主婦時代は、 自分の買いたい物も自由に買えない気分であった。」と彼女。 であるが、 自由業ではあるが、ネイル専門家の資格を取り、経済的自立に近づいている。
自由業の人も、 努力次第で、退職金貯蓄(401k)のような制度がアメリカにはある。 収入の一部を自分用退職金貯蓄として貯めておける。それを65歳以降、おろす時に、収入とみなされ、税金がかかる制度だ。
貴族気分を楽しむため、我が住まいの近くにできたバーに行ってみた。ホノルルには珍しく、従業員の半分近くが若い白人だった。


