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私は人生を、演劇のように、4幕に分けるのが好きだ。 私の場合は、ハワイへ引っ越した事が、第四幕目の幕開けだ。
この演劇はまだ制作中で、 最後にどんでん返しがあるのか、このまま平穏に、時の流れのように静かに流れ去るのか、 本人にも分からない。
ある意味で、 だから人生は面白いとも言える。
とにかく、天国へ行く途中、ちょっと下車して、ハワイで道草という心境だ。
米国の東海岸のワシントンD.C.近郊は、日本のように四季もあり、桜祭りさえ結構盛大に行われている。
ケネディーセンター、スミソニアン博物館、美術館もあり、文化的生活を満喫できる所だ。
春の五月ごろは、各国の大使館も、オープン ハウスと言って、一般人も中に入って見学ができる。
大使館によっては、 サービス精神が旺盛で、自国の音楽、踊りを披露したり、お国自慢の料理さえ、少し味わえる場合もある。
私の好きなシェクスピアー劇場もあり、演劇もたっぷりと楽しめる。
通訳業を極める一環として、その劇場で開かれていた、役者を育てる演劇マスター教室にも参加した。 通訳は、ある意味で役者との共通点がある。
登場人物(演壇の講演者)の気持ちになり、声の大きさを調整したり、 話すスピードを早めたり遅くしたりする必要も、場合により出てくる。
怒り、喜び、 悲しみと言った感情移入も、 観客の理解を深めるために重要なのだ。
良い事尽くしの首都であるが、ただ、私が寒がりで、 歳と共に、寒さが辛くなり始めた事が、引っ越そうと思った主な理由だ。
その上、 住宅街のど真ん中に住んでいたので、車に乗って行かないと、胡瓜一本買えない。
冬は時々道路も凍る。 滑って転べば、骨折、寝たきりとならないとは、限らない。
独居人間になった自分としては、出来るだけ長い間、自立した生活を確保したいと考え、気温の温暖なハワイを選んだ。
ワシントンD.C.は、米国政治の中枢、のんびり小鳥と遊んでいたいような高齢者には、少し合わない面もある。
その点、小さな島の住民は、のんびりと自然を愛でて過ごすスタイルが、板についている。 私も島民の一人にしていただいたのだ。
政治の中心であるワシントンD.C.は、当然、出世街道を夢見て、全米から、知識層が集結する傾向が強い。
権力の座を狙う、白人が多いのは自然な事だ。本音と建前を上手く使い分け、 権力の座に、のし上がらんと、あがく人々の群れ。
白人の夫と言う盾を、天国に送り込んでしまった私には、 ハワイのように、 85パーセント以上、本音で生活する、東洋系の人々が多数を占める地域が、性に合う。
一年中、温暖な気候。 可愛い小鳥達。 優しい人々が行き交う街が好きだ。
3年近く経ち、改めて、自分の選択が良かった事を、噛み締めている。


