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精神科医、ダニエル シーゲル医学博士の「気づき」(仮訳)(“Aware”) 2018年出版を読んだ。
361ページの本で、ニューヨークタイムズ紙のベストセラーである。 この本は画期的な瞑想法に関する書物でもある。
神経系の構造、機能、発達、遺伝学、生化学、生理学、薬理学、栄養学、病理学などを、全てを含む学問である神経科学。
その神経科学は、近年になって、コンピューター科学、統計学、物理学、医学など、多様な学問分野からも注目を集めている。
神経科学は、現在、脳と心の研究の最先端に躍り出ている。
感覚というものは、気づきの外側(無意識)にも存在するが、焦点を当てて意識することで、 はじめて我々の主観的経験になる。
西洋は、科学的根拠を重んじる傾向が強い、お家柄である。
それゆえに、じっくり瞑想、内省することの重要さも、科学的研究を重ねに重ねてきた。
そして、科学者の間から、声高に瞑想の利点が強調され、注目が集まり始めている。
もともと、東洋では、長年、静かに瞑想することの大切さが意識され、実行されていた。
ただし、東洋はどちらかと言うと、統計や数値を振りかざして、瞑想の利点を主張する態度ではなかった。
「身体全体の、ホメオスタシスの状態を、意識するための内受容感覚が大切だ。」と、博士。
内受容感覚能力のより高い人は、洞察力、共感力、感情のバランスがあり、しかも、直感力もより優れている。
身体に対する、気づき能力を高めることが、自分の内面の理解深化と、対人関係良好化に直結している。
いわゆる、気づきの車輪(一種の瞑想法で、心、精神などを、より深く理解する手法)とは、日々の生活上の情報と、エネルギーの相関関係が重要である。
その二者の差別化と関連性を、深めるための一種の道具として、博士が開発した。
人間は五感を通して、外界からエネルギーを取り入れる。
一人一人には個別の身体があり、他者である他の人間や、他の全ての生物とは、別物であるという意識もある。
また、自己には内面、感情、考え、記憶、信念といった主観がある。
現実を大きく自分の内部と、全ての外部、二つに分類できる。 心はその両者にまたがる、最重要要因である。
一つは、ニュートンの万有引力の法則の如く、宇宙のような、大規模対象物である現実が存在する。
もう一つは、量子力学的観点から、微小な分子、原子、またエネルギーの流れ、確率論、時間、空間などといった現実もある。
この大きな二分野を、統合することこそが、心の良好さを確保する上で、重要である。
各分野の科学が進歩する事で、人間の自然に対する気づきも深まった。
心の平安は、自己と他者、他物との関係性をより深めることで、もたらされる。
受精の段階で、無数の可能性から、最終的に一つの精子と一の卵子が合体、細胞分裂を続け、赤ちゃんが生まれる。
人間の頭脳の中に収まっている神経細胞は、皮膚細胞の一部である。
皮膚は人間の体内と体外の、ある種の仲介役を演じている。
ということは、神経細胞も、究極的には、人の心と、外部との仲介役を、担っているということだ。
人間の発育に関して「生まれか育ちか」という考え方があるが、「生得的なものも、大事に育て上げることも、両者が重要である。」と、著者は強調している。
哺乳類や鳥類は、子育てのための世話は重要である。
脳が著しく発達した霊長類である人間は、社会的動物である。 また、社会の中が階層化されている場合がほとんどだ。
人間の進化において、 生き残りのためにも、人と人との関係性が、重要な役割を果たしてきた。
そのために、人は他者を注意深く観察、相手の気持ちを汲み取る能力が必要であった。
人と人が関係性を深め、仲間意識を育てることで、生存が可能であったからだ。
もちろん、一人一人にはそれぞれ、個々の内面もある。
人は他者の顔つき、表情、声の高低、身体全体の動きなどから、「相手を信用して良いか。」を、判断した。
脳の進化も、内外の仲介役である、神経細胞を通して、 他者、他の動物、地域、宇宙などを理解しようと努めている。
人間にとっては、育てる側の親と、子供のつながりがとても重要である。
学童になると、学校生活と、生徒と先生、及び生徒間の関係が大切である。
親子の間に、信頼性が十分あったかどうかが、その子がどんな大人になるかの指標になる。
それゆえに、シーゲル医学博士は、彼の編み出した車輪瞑想法を推奨している。
脳は「意識的である」のみではない。意識下も重要だ。
情報を分かち合い、お互いの関係性を深めることこそが、健全な心を育てる秘訣である。
頭蓋骨の中に収まっている神経細胞を通して、
量子力学的に見ると、エネルギーと情報を同時に交流させているのだ。
精神、心は決して脳内だけの活動ではない。 あくまで、情報の流れとエネルギーの流れに左右される。
例えば、現代の医学は、人間の物理的観点からのみ、分析する傾向が強い。
患者の心、感情といった切っても切れない重要な要素を、無視する傾向が強い。
脳は元来、身体の中でも、特に社会的臓器である。
対人関係のような関係性こそが、人間の生命現象の、究極的重要な要素である。
日本には、平安時代から「医は仁なり」という言葉がある。 特に江戸時代は、大いにこの考え方が提唱されていた。(久子の見方)
シーゲル医学博士は、社会学、人類学その他の現代科学の考え方を全て取り入れて、西洋医学が自然科学に偏りすぎ、 もっと「医学は仁である」という考え方を、今後の医学教育に取り入れるよう働きかけている。
西洋人を納得させるには、西洋的理論の構築が必須で、量子力学まで取り上げる必要がありそうだ。


