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「家族」という本を読んでいる。 北朝鮮に拉致された家族会の活動に関して詳細に書かれている。
1980年から、 東海岸のワシントン、DC に住み続けていた私は、 ニュースで時々チラリと聞いたが、詳細に知ろうとする努力を怠っていた。
人間は、とかく自分の問題に、埋没してしまう傾向が強い。
私の場合は、 夫の認知症で、家族が破産に追い込まれる可能性がある事で、 私は頭を絞りきっていた。
75歳寸前で、夫はあの世に旅立ち、私は断捨離を断行した。
身軽になったためか、自由時間を利用して読書に夢中になり始めた。
時間の有効利用の為、ブックオフのような古本屋さんで、本を手に入れたり、 新刊書を博文堂書店で注文した。
その内の一冊が、北朝鮮の日本人拉致問題を扱っていたのだ。
8年前には、東日本大震災、福島電力原発爆発事故という惨事が起きた。
セシウム137は、半減期が30年である。 と言うことは、現に今も、放射能汚染に苦しみ続けている人も多いのだ。
人災、天災、とかく人間は、災難に出会う可能性が大きい。
拉致問題も、家族にとっては、言葉で表す事が難しいほど、困難な問題だ。
中学生の頃の事、ある日担任の先生が、クラスの前で言った。
「 A君は今度、家族と北朝鮮に帰る事になり、今日が最後のお別れです。」
心の中で、「あれ、私達全員日本人じゃないの。親が仕事の関係で、行くのなら分かるが、 北朝鮮に帰るという事は、A 君をはじめ、A君の家族が、北朝鮮出身だったのだ。」と、びっくりしたので、鮮明に記憶に残っていた。
当時のクラスは生徒数54人で、A 君は全然目立たないおとなしいい生徒だった。
西日が A君の顔にあたり、 なにやら先生が説明していたが、言葉は全て忘却の彼方に消えてしまった。
その時の衝撃とその光景は、今でもはっきり脳裏に焼き付いている。


