88
社交性は大切だという。事実だろう。そうは言いながら、高齢者は、いつのまにか社会から転落していく。 抹消されて行くのだ。
でも、 本人から見るとそれも悪くない。 しがらみがなくなり、本当に自由になれる時期なのだ。
散歩が好きで良かった。 都会という人間界の中を、のんびり歩き周り、老若男女を見るともなく見ながら、皮膚に触れる風が好きだ。気持ちが良いのだ。
ワイキキ海岸は、広大な空を見れるし、海の地平線まで阻害物無しで見れる。
赤ちゃん、幼少時、小中高と人生を過ごしてきた。大学生活も昔の思い出になり、35年以上も、職業を持つ社会人としても過ごした。
結婚生活も長く続け、曲がりなりにも離婚もせず、結婚生活を全うした。 娘も一人でき、幸運にも無事育ち、社会人になり一人前に働いている。
平々凡々である、庶民の生活であるが、 運良く大不幸に見舞われる事もなく、 小さな三人家族は健康に生活できた。
残念ながら、同年齢の夫が認知症になり、15年という長い闘病生活が、我が家に暗い影を投げかけた事は否定しないが、最後の8年は小さな施設で、まあまあ安定した生活を続けた後、夫は他界した。
一人になり、自宅を売り払い、知人も親戚もいないホノルルの地に移住、既に一年以上過ぎた。
人生の最後を、完全に自分で選択できた事を心から感謝している。
高齢化するにつれ、今まで以上に寒さに弱い自分に気がついた。 その対策としてオアフ島を選んだのだ。
その代償として、まだ知人が少なくても、むしろ気楽だと思う。 バックパックに常に読みかけの本を入れ、散歩に疲れたら、日陰を選んで休みながら本を読む。 今は、Stephen Kinzer氏のAll The Shah’s Menを読んでいる。
1950年代の、イラン国の隠れた現代史だ。イギリス帝国の植民地として、長く油田開拓、石油精製権を、イギリスに握られていたイラン。
自分の無知さに、今更ながら驚き、目を回している。 でも、 ある意味で退屈する暇がない。 興味深く、「中近東の現代史でさえ学ぼう」という、意欲が湧いてきている。
高齢者は、徐々に、社会からはじき出される運命にあるのかもしれないが、 私は寧ろ、それを歓迎したい気持ちさえする。 読みたい本を読みたいだけ読める時間がある。 海辺や街中を歩きたいだけ自由に歩き回れるし、疲れたらいつでも、自由に休憩できる。
こんな自由を与えられている私は、幸せ者だと思う。