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ウエストバージニアでの仕事は、弁護士事務所だった。 極力訴訟関係の仕事は避けているが、たまには断り切れない仕事もある。
一年前から、継続的に続いている仕事で、 被告と被告側弁護士との、打ち合わせ会議に立ち会う事になった。
航空機は、夜遅く到着した。 ターミナルからタクシーに乗り、目的地の住所を告げた。 親切そうな60代位の運転手さんで、一安心。
山間の道を、タクシーはひたすら走り続けた。電灯の明かりがあまり無いため、月明かりだけで、木に覆われた道の両側は、真っ暗闇だった。
長い道のりであったが、 やっとタクシーは右に曲がり、ホテルの正面玄関前で止まった。 ホテルの敷地は、明々と照明が当たりを照らしていた。
翌日、 事務所で夢中で仕事をした。 弁護士事務所での仕事の一つの利点は、お昼休みが長いことだった。
ホテルの係員から情報を聞いて、歩ける範囲に寿司屋さんがある事を知り、そこへまっしぐら。
山に囲まれた盆地の小さな町であったが、寿司屋さんがあったのです。 疲れた時は、急に寿司が食べたくなるのです。 緑茶をふんだんに飲み、眠気を飛ばし、満腹感に満足しながら、職場に帰った。
今回の被告人の一人は、日本から来た技術者で、尋問に対する答え方の練習のための、会合だった。
あらゆる角度から、想定問題を考え、弁護士の前で答えて見るのだ。 答えが長すぎると、駄目だしが弁護士の口から出る。
出来るだけ簡潔に、要点だけを述べる事とか、首の振り方、動かし方なども気をつける事など、 弁護士のアドバイスが続く。
厄介な事に、 質問の仕方によっては、 同じ答えでも、日本語では、例えば 「いいえ、行きました。」、それを直訳すれば、「No, I went.」となる。
本当は「Yes, I went.」あるいは、「No, I did not go.」となる。 現代は、大方の国際企業関連に関わっている弁護士は、「はい」は「Yes」だ位は知っているので、意味がこんがらがる事になる。 また、頭の振り方、頷き方も、日米間に相違点がある。
若手弁護士が手伝い、尋問する側の弁護士のふりをして質問を浴びせる。 それを顧問弁護士が聞いていて、補足したり訂正したりする。
二日に渡る仕事が終り、翌日朝9時、タクシーに再度乗車した。 来た時と違って、晴れた朝で、朝日に輝いている山間を走った。
仕事が終わり、ほっとした気分で、タクシーの中から外をぼんやり見ていた。 木の間隠れに見える、民家の煙突から煙りが上がっていた。
ウエストバージニア州は、米国で一番貧困者の多い州として知られている。 石炭炭鉱労働者の仕事量が激減した。
一時期は10万人も炭鉱で働き、組合活動も盛んであった為、収入も多かったが、炭鉱経営者側の手練手管で、組合を弱体化、消滅へ導いた為炭坑夫の人数も、2万人にまで削減され、 そして、その社会基盤も崩壊した。 その結果、飲酒問題、麻薬問題が増加してしまった。


